現代文講師 船口 明
― 教員として若手の頃にやっておいた方が良いことがあればお聞かせください。
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僕が予備校講師になった頃のことを振り返ると、最初の年、ベテランの著名な先生と横並びで同じ時間に同じ講座を持つことになって、それは大変なプレッシャーだったのを覚えています。予備校ですから、生徒の移動は自由。薄っぺらい授業をしていると生徒はすぐに著名な先生の方に行ってしまう。「ここで生き残らなければ、自分には次の年はない」という危機感を感じて、生徒の支持を得られる方法を模索し始めました。
そこで至った結論は、「自分は新人の若造だ。でも、担当クラスのターゲット大学のことだけは、ベテランにも絶対に負けない自分を作る!!」ということでした。それからは過去問題を全学部10年分、本文も選択肢も全て丸暗記するということをやり始めました。毎日毎日、明けても暮れてもひたすら過去問を読む。何度も解く。そうすると、自然に選択肢のクセや出題の類型といったものが見えてくるんですね。単に「解ける」とか「知ってる」というレベルではない深い「分析」。そういったことは、自ずと授業に反映しますから、僕の言葉への生徒の反応も変わってくる。明らかに子供たちの支持も増えて、圧倒的な結果で一年を終えることができました。
その経験から、今も若手の後輩に質問された時には言うんです。「入試問題は“解けて良し”とするのではなく“覚えるくらい読み込め”」と。言うと、やろうとはする。が、実際にやり切れる人は少ない。みんな「だいたいは知っている」ぐらいのレベルで終わってしまうんです。でも、だいたいなら「ほとんどの先生が知っている」。僕らは予備校という競争が厳しい世界にいますから、周りと同じでは生き残ってはいけない。こういう努力は、地道ですが、数年後に頭角を現すかどうかにリアルに直結することだと思います。
やはり説得力が違うんですよね。例えば「この問題の選択肢に引っかかるんです」なんて質問があったときに、「09年の問3の選択肢の①と④、13年の問5の選択肢の①と③も同じ形だよ」というふうにさっと返せたりすると、感動が違う。生徒の信頼感は明確に増します。それは何も対生徒だけではなくて、そういう「こいつは違うな」というところを先輩に示し続けるところから、「あのクラスをあいつに任せてみよう」というようなことになって自身のキャリアが開けることもあるのではないでしょうか。
若いときには体力もあるし、限界まで努力をしてほしいと思います。大変ですが、その分そこで見えてくるものも大きい。生徒たちの勉強と同じで、フルパワーでやるからこそ経験値も知識の幅の広がりも違ってくるんだと思います。
― どこの大学の過去問が良いなどはありますか?
- 扱う問題はご自身の学校で、生徒が多く受けそうな大学の問題で良いと思います。もちろんセンター試験でも良いですし。
― 具体的な授業スキルについて何か助言はありますか?
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これはね、本当いろいろあるんです(笑)。先生個々人でそれぞれ課題も違う。毎年春・夏と僕が担当させてもらっている、高校の先生のための研修講座『授業スキル実践プログラム』は二日間の集中特訓プログラムのようなものなのですが、実際にお一人お一人の先生の授業を見せていただくんです。そこで個別にアドバイスしながら思うことは、「こうすればもっと良くなるのに」と思うポイントは本当に様々だな、ということです。何より、自分の課題に気がついていない場合も多い。参加前にご本人が課題だと思っていたこととは違う、真の課題を発見して帰られる場合も多くあります。自分ではなかなか見えていないんですね。だから、信頼できる先輩に授業を見てもらうことはぜひやってほしい。欠点をズバッと言ってくれるような、信頼関係のある人にです。
たくさんあるアドバイスの中で、もし具体的なスキルを一つ挙げるとすれば「板書」でしょうか。「生徒にとって分かる板書とは何か?」を徹底的に考えてほしいと思います。
国語でいうと、「本文をそのまま写したような板書」や「言葉の説明をまとめただけの板書」が典型です。それを子供たちが見直した時、何が身につくのか。そもそも、国語の先生は国語が得意ですから、もしかすると先生ご本人には「ノートを見直した経験」がないかもしれない。そんな中で、板書をどう工夫していくのか。“自分が分かる”ことと、“生徒が分かる”というのは全くの別物ですから、生徒のための板書を工夫していくべきです。 個々に自分のスタイルがあるでしょうが、僕個人の場合を紹介すると、「思考プロセスが見える板書」を心がけています。見直せば「講義が再現できる」板書。もちろん、対象クラスによっても変わりますが、何を書き、何を書かないのか。これも技術だと思います。
最後に、いつの時代もそうなのかもわかりませんが、特に最近の若手には真面目な先生が多くて、何かと悩んでいる場合も多い。でも、僕が思うのは「若いときには、若さにしかない輝きがある」ということです。単に年齢が近くて相談しやすいというだけではなくて、生徒を巻き込んでいく力、情熱。一生懸命に、がむしゃらにやっている姿には、生徒を巻き込んでいく力が明確にある。それを大切にして。自信を持って。ただ、自己研鑽はしっかりしておかないと、年齢とともに「情熱だけ」では人はついてこなくなります。
― 教員歴10年くらいのいわゆる中堅の教員にとって大切なことはどのようなことだと思いますか?
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「変わる勇気・壊す勇気」でしょうか。僕の場合、10年目くらいの時に前任の予備校から代々木ゼミナールに移ってきたので、環境がガラっと変わりました。学校が変わると生徒の雰囲気もまた変わるもので、生徒に合わせて自分の授業スタイルを変える必要がありましたね。今振り返ってみても、そこで成長したと思います。僕の場合は移籍という外的理由で変わらざるを得なかったのが良かった。公立高校の先生なら転勤がきっかけになる場合もある。が、私立の先生となるとなかなか変わるきっかけがない場合も多いと思います。
30も半ばになってくると、生徒たちとの間に明確なギャップが生まれてくる。立派な「おじさん・おばさん」ですよ(笑)。だから授業の反応が悪いと「最近の子たちは…」と言いたくなる。確かにそういう面もあるとは思いますが、基準を生徒に置くなら、実は自分が「ずれ始めている」。目の前の生徒たちが良い顔をしていなかったり、今までどおりにやっていてもイマイチ反応がなかったりしたら、それは大事なヒントなんですよね。何かしら原因があるわけですから。
― 具体的なアドバイスはありますか?
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そうですね。たとえば「比喩や例え話」でしょうか。20代の時はその時自分が興味を持っていることをそのまま比喩に出しても、生徒は「あ!」となる。ところが、30を過ぎると、ちょっとずれてくる。35になると…。だんだん「打てば響くような反応」にならなくなっていくんです。わかってもらうための比喩なのに、さらにそれを説明しないといけないという。これはいいヒントですよ。自分がずれてきている。変わらなくちゃいけないよ、っていうヒントです。
僕も、普段あまり読まない漫画を頑張って読んだりしました(笑)。で、そこに出てくる話を例えに出したら、明らかに生徒の表情がパッと変わる。その時「子供達のせいじゃなかったんだな」と気づきます。でも、悪いことばかりじゃないです。流行っている漫画はやっぱり面白かった。初めは渋々読み出したのに、結局はまったりして(笑)。そうすると、子供たちとの会話もどんどん盛り上がります。クラスの雰囲気がガラッと変わるんです。
ベテランになってきて「変わろう」なんてするのは、きっと、めんどくさいし勇気もいるんです。そんな中でも「変わろう」と熱心な先生も多い。その気持ちがあれば、それを持続できれば、それは素晴らしいことなんだと思います。
― 教員歴20年超のいわゆるベテラン教員に対して何かアドバイスはありますか。
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まず、自分も同じ年代ですから、アドバイスなんて烏滸がましいと思っているということは言っておきますね。その上で、インタビューなんで、僕なりの思いを話させてもらいます。
そうですね、先ほどの若手へのアドバイスの逆なんですが、若い先生の授業を見るのはとても良いと思います。僕の場合、まずは単純に自分の若い頃のことを思い出すんですよね。初心に戻るというと大げさですが、「あの頃の自分は、知らないことが多くて荒削りだったけど輝いていた部分があったなぁ」とか。さっきも言いましたが、若い時にはその時にしかない輝きがあると思います。作家の宮本輝さんがこんなことを仰ってました。「作家の世界には『若書き』というものがある。歳を重ねて振り返って読んでみると恥ずかしいものがあるが、若い時に勢いで書いた文章というものは、その時にしかない勢いや輝きがありとても良いものである。」と。教師も同じことが言えるのかなと思います。なので、アドバイスになってないかもしれませんが、若い先生の授業を見ると自分の中で再発見があるのでオススメです。
あと、自分のやってきたことを後進に残すということをして欲しいですね。学校に良いノウハウを蓄積していただきたいと思います。そういったことっていうのは、ベテランにしかできないと思うんですよ。調整役だったり組織づくりだったり。例えば小論文の添削なんかでも、理系小論文だったら、化学の先生や物理の先生に添削してもらわざるをえない。同じく社会科学系の小論文だったら社会の先生からのアドバイスが的確だったりする。でも、組織の壁は硬い(笑)。どうしても他教科の先生の協力というのは仰ぎにくいのが現状だと思います。しかし、生徒の利益を最優先に考えると、そういった横の障壁を取り除いて協力体制を敷くべきですし、そのために横を説得していったりするのは、やはりベテランの役目なのかなと思います。大変でしょうが、頑張ってほしいと思います。
読んでいただいて、ありがとうございました。
また、このような機会をいただいたことに感謝します。ありがとう。
僕もみなさんに負けないよう、頑張ります!!
聞き手:荒川