代々木ゼミナール 教材研究センター 数学研究室 山田 拓人
― 現場の先生が、入試研究を効率よく行う上でのポイントはありますか? 教科書や定期テストなどで扱われる高校数学と、入試問題で出題される受験数学には、当然のことながらレベルや、出題の仕方に差があるわけですから、やはり特有の準備が必要になってきます。そのためには、日頃から過去の入試問題をたくさん解いておき、受験数学において着眼すべき点を探す必要があります。また、解ければよいというものではなく、より簡潔な論証の方針や、より少ない計算で済む方法を探すことも重要です。現場の先生方は、多忙な業務の中、そのような時間を確保するのはなかなか難しいと思いますが、ご自身の学校の生徒が最も多く志望する大学から重点的に解いていき、その難易度を正確に把握しておくことが大事だと思います。
― 教材研究センターでは、どのように入試問題を解いていくのですか?
まずは旧帝大、東工大、一橋大、早慶上智、理科大、GMARCH、関関同立など、受験者数が特に多い、いわゆる主要大学の過去問を優先して解きます。その他は、自分が担当する模試で想定している大学・学部、あるいは担任をもっている場合、そのコース・クラスの想定する大学・学部の過去問を順次解いていきます。
ある1つの大学・学部・学科の問題を解いた際に、その大学の過去問と比較して、出題数、出題範囲、難易度の大きな変化などがあるか調べたり、他の大学の過去問で類題があるかどうかを調べたりします。
なかには、問題として成立していないものが出題される場合や、出題範囲外から出題されている場合もあります。その場合も、我々が問題作成をする際に同様のミスをしないためにも、何が原因で出題ミスにつながったのかを考える必要があります。
特に1月~3月の間は、入試解答速報を行っていますので、数学研究室のスタッフ全員で一斉に入試問題を解き、解答および講評の作成のために会議も行います。
― 教材や模試を作成する際に、入試研究はどのように反映させていますか? 入試研究のために、大学側が催している入試問題の研究会に出席し、出題の意図や、採点基準について学ぶ機会を得ることや、代々木ゼミナールで入試分析会を開き、高校の先生方にもお越しいただく機会を設けるなどして、外部からの情報収集も行っています。テキストを作成する際には、教育的によい問題や、より学習効果を高められるような問題を選定するために、近年の入試過去問から候補を挙げ、スタッフで会議を行い、実際に載せる問題を決定していきます。模試の問題作成では、近年の過去問の傾向を勘案し、作成した問題・解答をスタッフ全員で内容チェックを行ったうえで、改善点・改善案などを話し合うことで質の向上を図っています。
― 「出題率」はどのような方法で調べていますか? 毎年この大学ではこの単元がよく出ているなと思ったら、過去5年ぐらいを目安にさかのぼって、出題頻度を調べていきます。大学によっては、単元だけでなく、問題の設定さえ毎回似ているというわかりやすいケースもありますね。また、全く同じタイプの問題が、過去に違う大学で出題されていることを発見することもあります。そういう場合は、一方だけでなく、両方の大学の過去問を参考に見比べてみるなど、題材を横断的に広げていくチャンスになります。入試研究の際は、『全国大学数学入試問題詳解』(聖文新社)のシリーズを利用することがありますが、中でも『項目別』に並んでいるものは、1つの単元に対し様々な大学の出題の仕方をいっぺんに確認することができるので、おすすめです。
― 過去問を研究する際、数学ならではの注意すべき観点はありますか? 1つの単元の中でも、各問どういう解法に焦点を当てている問題なのか、慎重に出題者の意図を探ることです。数学では、過去問研究をするうえで、1つの方法として、同じような解法で解くことができる「類題」を探していくのですが、一見類題のように見えて、そうではないという紛らわしいものが出てくる場合があります。たとえば、問題文を読んだときに、あるパターンの問題と設定が似ていると思い、これは類題だなと思って解いてみると、その解法では答えが出せないというケースです。実際の入試のとき、生徒たちがそのトラップにひっかかってしまったら、時間をロスします。教材研究をする側として、その手の問題を見つけていくのは、非常に大切な役割だと考えています。
― 教材研究センターでは、入試問題を研究する傍ら、生徒からの質問対応も行っていますが、数学が苦手な生徒たちについては、どんな印象がありますか? 数学が苦手な生徒であればあるほど、「何が分からないのかが分からない」状態にあります。質問内容の前段階から分かっておらず、さらにそのことを自分自身で認識できていないという状態に陥っています。分からないところが分かることで、本人ももう少し数学の勉強がやりやすくなっていくと思います。このため教えるこちら側が、その不明瞭な質問から、この生徒はどこでつまずいているのかを正確に「読み取る」ことが重要になってきます。生徒がつまずくポイントを知ることも、入試問題を研究することに活きてきます。
― 答えを教える前に、生徒たちの話を注意深く聞くということですか? ただ解き方を一方的に教えるだけだと、生徒はそのときはわかったつもりでも、問題がちょっとでも変わるとまったく解けなくなる、という事態に陥ってしまいます。一言で数学が苦手と言っても、計算が苦手な生徒もいれば、計算はできても数学的に考えることが苦手な生徒、またはその2つができても証明などの記述ができない生徒など、本当に人さまざまです。原因は必ずどこかの段階に隠れているはずです。もっと言えば、1つの段階の中でさらに細分化できるほど、それぞれのつまずいている地点は違っています。それをいかに綿密に分析し、生徒にわかりやすく指摘できるかが、根本的な解決につながっていくと思います。入試本番で確実に得点できる実力をつけさせるには、日頃から生徒たちのつまずきに敏感になっておくことが欠かせないでしょう。
聞き手:坂口