英語講師 福崎 伍郎
― 先生は教員研修など多くご担当されていますが、その中でどんなことを感じていらっしゃいますか?
- 高校の先生の授業を見てよく感じるのは、「授業と授業の間の有機的なつながりが少ない」ということです。1年を通した授業デザインやシラバスはあると思うのですが、先生自身の「この教材を使って生徒に何を学ばせるか」という意識が少し弱く、授業が1回ごとに独立してしまっているように感じます。
― 高校の先生の授業準備についてはどのようにお考えですか?
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時間をかけて準備されていますし、技術的なスタイルも確立できています。しかし、「1年間その教材を使い、生徒にどのような力をどのように身に付けさせるか」というゴールと、ゴールに至るまでの全体像を描ききれていない授業が多いと感じました。
ある高校で使用していた「コミュニケーション英語」の教材は、ユニット1とユニット2の二部構成になっていました。ユニット1で長文の読み書きに必要なディスコース・マーカー、パラグラフ構成、スキミング、スキャニングなどの知識・技術を体系的に扱い、授業は知識を項目ごとに紹介する形式です。ユニット2では環境問題などトピックごとの長文を扱います。授業の雰囲気もガラリと変化し、トピックについて生徒を交えての話し合いが中心となり、ユニット1で扱ったメソッドはあまり活用されませんでした。ユニット1で学んだ内容を実際の長文の中で活用し、生徒の中に蓄積させるための機会が与えられないのです。これでは、1年後に生徒が、どのくらい読解力を身につけているかを想定することは先生にも困難です。この点を指摘すると、先生も同じ感想を抱いていました。忙しい先生ですと日々の授業を行うだけでも大変だとは思いますが、日々の授業はあくまで全体を構成する一部分です。「全体を通して何を身につけてほしいのか、そのためにそれぞれの部分はどのようにつながらなくてはならないのか」という全体的なイメージを完成させた上で、授業の準備を進めた方が良いと思います。
― 全体的な計画が大切ということですね。先生でしたらどのような計画を立てるのでしょうか?
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高校では4技能統合型の授業が行われています。その中でも「読む」と「書く」の2技能は、コインの表裏のように上手に統合することができます。まず「英文をどのように読むのか」を教えるためには、「英文がどのように構成されているのか」を教えなくてはいけません。その上で、それをモデルに「英文をどのように書くのか」を説明する。僕はこのようにして、「読む」と「書く」を一連の流れの中で教えます。
先程のユニット1とユニット2を題材にしてお話しましょう。ユニット1で扱うのは読解のための「道具」です。「道具」は個々の使い方を習得するだけでなく、整理した上で必要な時に取り出せなくてはなりません。ユニット1の授業を終えた時点で「道具」が揃い、体系的に整理されている必要があります。
僕は「長文読解マニュアル」という小冊子を自作し、その中で長文を読むために必要な3つの観点をまとめています。第一に「文と文の意味的なつながり」の理解。次に「文と文の論理的なつながり」の理解。最後に、「そのパラグラフや長文全体がどのような論理展開(e.g.テーマ→具体化→まとめ・結論)で構成されているか」の理解です。ユニット2を扱う授業ではこの小冊子を必ず持参させ、参照しながら授業を進めます。こうすることで、ユニット2全体が「道具」の再確認の機会として機能し、生徒もそれぞれの「道具」を理解するだけでなく、使いこなすことが出来るようになります。
長文を読めない生徒は、一つの英文を読むことは出来ても、パラグラフや長文全体のように視野に収めなくてはならない世界が広がると、捉えられなくなる「木を見て森を見ず」のような状態です。森の姿を捉えるためにはどのような観点が必要か、どのように知識を活用しなくてはならないかを知ることが、長文を読むためのトレーニングとなります。
生徒が長文を読めない原因の多くは、「一文一文しか読んでおらず、また一文を読むことのみを求められている」からではないかと考えています。同じことは先生にも当てはまるかもしれません。教員研修で、折角ディスコース・マーカーが登場しても、単語や熟語のように扱い、訳しただけで先に進んでしまう光景を目にしたことがあります。そうした所で立ち止まり、「逆説だから、対立しているのは何と何か確認してみよう」、「列挙されているから、何と何が列挙されていて、それらは何の具体例なのか考えてみよう」のように生徒の視野を広げ、論理的な分析力をつけられるような問いかけをしてみてはどうでしょうか。
― 実際の授業全般についてはどうでしょうか?
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最近の授業ではアクティブ・ラーニングが導入されています。思考が深まり、積極性が育成されるなどメリットもありますが、気になる点もあります。ある高校でグループ活動中に生徒が話す英語を聞くと、受動態などかなり基本的な部分が間違っていました。説明中心の授業から、活動の中で生徒に学ばせる授業にシフトしたことで、間違いが再生産されやすい環境が形成されています。
授業規模を考えると教室を見て回り、全ての生徒の間違いに対応することは難しいですから、予防が大切になります。アクティブ・ラーニングにおいて先生が果たすべき役割は、「新しいことを基本から正確に導入すること」と「生徒が間違えそうな部分を事前に察知し、機会があるごとに指摘して間違えを予防すること」の二つだと考えています。別の高校では、アクティブ・ラーニングの際に、文法事項について数分間の確認や問いかけをしており、そのクラスではとても文法的なミスが少なかったことを覚えています。
単純に間違えた箇所の文法を教えるだけでなく、間違いを指摘した上で、グループ内で教え合いをさせることも有効です。教え合いが上手くできない理解状況であれば、クラス全体に改めて解説すれば良いでしょう。
― 授業中の生徒への問いかけについてはどうでしょうか?
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目の前の生徒の反応を上手く拾って授業の流れを作る必要があります。「これは以前やったよね」のように声をかけて、授業を振り返らせ、その上で「〇〇は覚えている?」といった質問を重ねていきます。
問いかけを上手く活用し、授業内容の振り返りと共有を行う質問力のある先生の授業は、活気があります。淡々と先生が話すだけの授業だと、生徒も「問われない」ことが分かってしまい、緊張感が希薄になってしまいます。「次の授業ではこうしたことを質問します」と周知するだけでも、生徒の緊張感は違ってきます。
― 中高の接続についてはどうお考えですか?
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今後は視野を拡大して、小中・中高・高大のそれぞれで接続を意識しなくてはなりません。中学と高校の両方で指導している先生には、アドバンテージがあります。高校英語の指導の流れや高校生の特徴を把握できていますから、高校でうまく授業を進めるために逆算して、中学で何を身に付けさせれば良いのか計算できます。「生徒は高校英語を上手く身につけるために、中学では英語をどのように学べばよいのか」を今まで以上に意識していただければと思います。僕が関わったTrinity総合英語もそうしたコンセプトで作られています。
高校だけで指導する先生ですと、中学英語の定着状況に関して、実態と予想のギャップが問題になります。中学英語の復習をしつつ、高校英語を教える必要に迫られる先生が多いでしょうが、限られた時間では困難です。積み残しは先生のフラストレーションにつながりますし、生徒も高校英語が出来たという実感をなかなか得られません。負担になってしまうかもしれませんが、入学前の春休みを活用してテストを行い、学力状況を把握した上で、中学英語の総復習を行う、夏休みにピンポイントで対策を行うなど、長期休暇を活用することが有効かと思います。
― 最後に全国の先生方へアドバイスをお願いします。
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他教科ですと単元ごとにある程度の独立性がありますが、英語の場合、4技能のどれを身につける上でも、最低限の文法的知識が活用できることが必要です。そして、活用するためには、文法的なルールが体系として頭に入っており、必要に応じていつでもそれにアクセスできる状態を作っておかなければなりません。このようにして、土台を固めた上で、螺旋状にレベルを上げていくことが理想的な英語の勉強法です。最低限の文法的なルールを活用できるまでは、授業中に生徒に問いかけを繰り返し、反復練習で定着させます。そうする内に、生徒が「文法をさらに活用するにはどうすればよいか」という発展や応用を意識する段階に到達しますので、そのタイミングでうまくレベルを引き上げることができます。
若い先生向けに2つアドバイスをします。僕も新人の時に教えることが怖くて、丸一日かけて準備をして90分の授業に臨みました。百を知って、授業では三十を喋る感覚です。忙しくて大変だとは思いますが、これだけ準備をすれば大丈夫と思えるだけの準備をして、毎回の授業に臨んでもらえればと思います。
もう一つは、「自分がこれだと思ったことは恐れずに生徒にぶつけてほしい」ということです。「目の前の先生が熱意をもって教えてくれている」と感じることは、生徒のモチベーションを大きく上昇させます。僕自身も振り返ると間違ったことを教えてしまっていたこともありましたが、それでも授業はきちんと成立し、多くの生徒は勉強して第一志望の大学に合格してくれました。勉強したことは情熱をもって生徒にぶつけてください。後で振り返れば未熟で間違ってしまっていたとしても、熱意は生徒を動かすことが出来ます。
聞き手:福田