物理講師 木村 亮太
― 2020年のセンター試験はどうでしたか。
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物理基礎はパターン化された問題が多く出題されました。公式を中心に頻出問題をきちんと練習しておけば対応できたと思います。
物理については良問が多いというのが第一印象です。過度に難解ではないものの、題材として普段の勉強の中で接する機会が少ないものを扱っており、思考力を問うことが出来たと思います。具体的には第2問のコンデンサーについての問題はヒントが与えられていますが、考える必要がある問題です。第3問の波の問題は現象を理解していれば容易に正答できますが、公式を覚えているだけの生徒は苦戦したでしょう。
― 2021年1月に第1回大学入学共通テストが実施されます。センター試験に向けた指導から何か変化させる予定はありますか。
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センター試験に向けた指導から大きな変化はありません。物理はある程度完成された学問で、根本的な原理は不変です。大学での物理教育は最先端の研究を反映して変化する可能性がありますが、高校で教えるべき内容が急激に変化することはありません。
ただし問いの形式に若干の変更があるかもしれません。2020年のセンター物理では、正答の組み合わせを選択させる問題の数が増えています。思考・考察型の問題を増やせば知識を問う問題数は減少します。正答を組み合わせて回答させれば一問あたりで確認できる知識の量を増やすことが出来るのです。しかし、あくまでも表面上の変化ですから、これまでのセンター試験向けた指導を更に洗練させることを目指していただければと思います。
共通テストの試行調査では現象の可能性を考察させる問いも出題されました。直前期には過去のセンター試験の問題を教材に生徒に様々な考察をさせてみるのも有効でしょう。
― 現在指導している高校生の様子はどうでしょうか。
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波動や力学を教える際に実際の物理現象を理解できていない生徒がいるなと感じます。現象を理解できていない生徒は、問題を解くための式の意味を理解できません。
実験器具の大きさなど、実験を一度やっておけば分かるようなことを知らない生徒もいます。教科書や問題集に掲載される模式図はわかりやすく誇張されたものです。例えば2020年のセンター物理の22ページにニュートンリングに関する問題があります。図中で示される空気層の厚さdは図を見ると数㎝の幅があるような印象を受けますが、実際は目に見えないほどのスケールです。
書面を読むことが中心の勉強では、実際の物理現象をイメージすることが難しい分野もあります。特にそうした分野では実験経験の有無が生徒の実験的思考力に大きく影響すると思います。実験を行う際に自分の手を動かすことで、生徒は「教科書や問題集で起こっている現象を理解することができる」のです。
― 学校で多くの実験を行うのは難しいという声を全国の先生方からいただきます。何か良いアイデアはありませんか。
- 電磁気の実験の多くはその結果を目で見ることはできません。力学分野も摩擦や抵抗などが影響して教科書で教えたい内容と実験結果に誤差が出ることがあります。状況に応じて実験に代わる視覚資料を活用することをお薦めします。資料集や教科書には付属のDVDがあります。そこに収録されている映像を見せるのはどうでしょうか。「理科ねっとわーく」というサービスもお薦めです。最近はYouTubeなどにも様々な教材として使えるコンテンツがあります。
― 最後に全国の先生方へのメッセージをお願いいたします。
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最も重要なのは公式や手法ではなく現象そのものを理解させる指導を目指すことです。
平成30年度の共通テスト試行調査に凸レンズを通る光の進路について「可能性」を考察させる問題がありました。難しく感じた生徒もいたかもしれませんがこれは面白い問題です。この分野では「像がどこにできるか」のように答えが一つに定まる問いが出題されることが多いです。このような問題では,光がどのように進むのかという現象を一切理解できていなくても、公式を適用すれば正解できてしまいます。試行調査の問題は,このような問題とは異なり,光の進み方を理解しておく必要がある問題でした。
公式は物理の重要事項ですが、公式を教える際には公式の意味も伝えることが大切です。物理の公式には意味を見出しにくいものも多くありますが、公式には現象をあてはめるだけの意味が必ずあります。公式の意味を示すことで生徒の中で数式と現象がつながるのです。私はなるべく現象⇒公式⇒数的処理の順で話を展開するようにしています。
聞き手:福田
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