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2016夏期「授業法研究ワンデイセミナー」質疑応答集

2016夏期「授業法研究ワンデイセミナー」
受講者から出た質問に担当講師が答える「質疑応答集」を公開!

2016年夏期 授業法研究ワンデイセミナーの中で、受講者の皆様からいただいたご質問に対して、担当講師がお答えします。共通の疑問を持った現場の先生方に広く共有いただければ幸甚です。
※いただいた全てのご質問にはお答えできませんが、どうかご了承ください。

本部校出講日 科目 担当講師
7/30(土) 日本史 井上 烈巳
物理 稲垣 満
生物 大町 尚史
7/31(日) 世界史 諸岡 浩太郎
化学 岡島 光洋
小論文 國井 丈士
8/6(土) 英語 富田 一彦
文系数学 森谷 慎司
現代文 藤井 健志
政治・経済 畠山 創
8/7(日) 合科目 佐藤 幸夫
宮路 秀作
理系数学 柏熊 成享
古文・漢文 梅澤 聖京
北澤 紘一
倫理 畠山 創

※準備のできたものから、順次掲載を行っております。
現在準備中の講座につきましては、今しばらくお待ちください。

2016夏期 授業法研究ワンデイセミナー「質疑応答集」


井上 烈巳
日本史
【7/30(土)実施】

アクティブ・ラーニング導入により授業進度に影響が出てしまうことが悩みです。先生ならどのようにされますか。
授業進度に影響が出てくることで発生する悩みの多くは、1.他クラスとの進度の差、2.教科書の内容を網羅する時間の不足、といったところが多いのでは無いでしょうか。従来のような教科書の用語を解説するという授業は、すでに単位時間的に無理が発生しています。その上に重ねるだけのアクティブ・ラーニング導入は、年度計画を破綻させ、教師だけで無く、生徒のためにもならないと思います。大前提となるのは、研修でも申し上げましたように、「教えすぎない」という考えで、網羅的な授業から発想を転換することです。そしてその実現のためには、従来型の試験・評価から小論文科目の試験のような発想や論理展開を重視する形式に変える必要があります。それは同時に、他クラスとの横並び意識を自動的に無くすことにもつながります。アクティブ・ラーニングの導入時期が来たことを契機に、教科の先生方で試験のあり方を再検討したいですね。
先生は、これまでどのような観点から授業改善を繰り返してこられたのでしょうか。
授業は生き物ですから、完成形というものは存在しないという意識が大前提にあります。昨年度にうまくはまった授業が、今年の生徒に有効とは限りません。失敗を恐れずに、不断に改良を加えて、経験を積み重ねていくことが我々の責務かと考えています。その上で私が重視している点は、1.興味関心の喚起と迎合は全くの別物である。2.教科書は生徒にとって道標であると同時に、自力で読みこなせるものではなく、また金科玉条のように信じ込ませるものでもない。それを一つの「意見」として解説することが必要である。3.世代的な経験差に注意して、資料集の映像を確認しながら、常に視覚的イメージの共有を図る。などといった要素です。定期テストがある学校現場の強みを生かし、得点率の低かった分野を把握して、用語暗記の前に必要なイメージの提示や事象の歴史的位置づけを十分に確認できたかを再検討すると良いと思います。
アクティブ・ラーニングで取り組みやすい内容、取り組みにくい内容、などについて教えてください。
基本的には、事項を問うのでは無く、原因や因果関係を検討させるような題材が適していると思います。しかし、アクティブ・ラーニングで取り組みやすい授業内容にできるかどうかの最大のポイントは、その授業と連動する試験・評価・採点の形式をアクティブ・ラーニングを生かした内容にできるかどうかにあると考えています。授業法を変更したにも関わらず従来型の知識量を問う試験形式であっては、日々の授業に対する生徒の意欲も減退してしまいます。元来、日本史は様々な事象から原理的なものを探求する科目であって、はじめから物理的な定理があったり、絶対の解答が定まっている科目ではありません。生徒から様々な視点や見解がでることを前提としたアクティブ・ラーニング型授業を展開するならば、対応する試験も関心の広さや論理性を評価する形式に変更していきましょう。
文化史ではどうしても流れの説明ができずに「覚える」だけの授業になってしまいます。先生はどのようにされていますか。
理想は文化史の全てを政治や経済、社会生活と関連づけて説明することですが、現実には時間的にそのような余裕がある学校は希有かと思われます。大学入試問題に関しても、近年は無意味な用語暗記を要求する問題は減少していますから、用語の多寡に拘りすぎないことは大切です。その上で、生徒が用語を自主的に習得する前提、その歴史的意義を重視した授業を私は心がけています。上流階級の人々が京鎌倉間を移動するようになって生まれる鎌倉文化の紀行文、宗教画であった水墨画が風景画となり統一権力者の嗜好の下で濃絵に発展した経緯、文明開化の混乱を風刺した戯作文学など、文化成立の背景に重点を置いて説明することが、生徒自身が作品や事例に興味を持つ準備になると考えています。
現代史をスムーズに理解させるために心がけていらっしゃることはどんなことですか。
授業現場において現代史を扱う際によくある問題点は、「現代」という枠組みが曖昧であることが挙げられると思います。そこには、時間的制限や公民科目との重複といった理由で我々日本史教師が現代史の教育を安易に考える風潮があったのかもしれません。戦後の占領下における民主政策、占領方針の変更における逆コース政策、高度成長とその終焉、バブル経済の崩壊、少子高齢化社会の始まりなど、アジア・太平洋戦争後においても様々な時代的画期があり、言うまでも無くそれらは同質ではありません。どこからをどのような視点で「現代」と捉えるか、生徒の世代や目線を踏まえて常に再検討し続けることが、現在につながる「現代」史の準備となり、生徒の興味・理解につながると考えています。


稲垣 満
物理
【7/30(土)実施】

クラス内に学力差がある場合、どの層に合わせることが生徒の成績を伸ばすために最も効果的なのでしょうか。
まず、クラスの目標レベルを定めることが大事だと思います。私の場合はクラスの中間層より少し下のレベル。(最下位層が頑張れば理解できるレベル)に設定しています。上位の生徒の中にも基礎が疎かになっている生徒は多くみられるため、授業内では基礎をしっかりと扱い、家庭学習用の課題にレベル差をつけることで対応するのが良いと思います。ただし、授業内で上位の生徒たちの不満がたまらないようにするために、基礎をどのように応用させるかなどの話をするなど、授業内での工夫は必要だと思われます。
入試直前期に問題演習を行う際、問題の選び方と解説の行い方について注意点を教えてください。
直前期は生徒たちが入試に対し不安になり、問題に集中出来なくなりがちです。直前期の授業内で難易度の高い問題を扱うことはその気持ちを増長させて悪影響を及ぼす可能性があるため、本番で絶対に落としてはいけない基本問題の復習を中心に扱うと良いと思います。また、その上で上位の学校を目指す生徒に対しては個別にプリントを配布したり、問題集を指示するなどで対応すると良いでしょう。解説時も不安を抱かせる言葉(この時期に、この程度の問題を間違えてどうする…など)を使わず、本番で間違えないようにするためにはどうすればよいかなど、得点力を伸ばすためのアドバイスを多く使うように意識すると良いと思います。
物理の授業でアクティブ・ラーニングをどのように取り入れていくのが効果的だとお考えですか。
授業でのアクティブ・ラーニングの導入は生徒のレベルにより効果的である場合と、ない場合があります。経験上、上位層が多いクラスでは成績が伸び悩んでいる生徒が飛躍的に伸びるということが多いのですが、中間層が多いクラスで行った場合、本来求めている方向から脱線してしまい効果があまり見られないことが多々ありました。そのようなクラスでは私たちグループのSAPIXで行っている双方向授業が効果的かと思われます。生徒間のみで議論するのではなく、多人数対先生という形式で生徒達に意見を言わせたのち、先生が意見をまとめながら次の質問をして進めていく形式です。この形式であれば大きく脱線することも少なく、生徒たちが慣れてくれば生徒だけで議論する形式にも変えていくことが出来るかと思われます。
昨年度の入試ではいくつかの大学で難問や分量の多い問題が出題されたように感じました。今後の入試傾向予想として、難問や分量の多い問題が出てくると考えられるのでしょうか。
近年の入試において、難問や分量が多い問題が増加しているのは確かな傾向なのですが、これは物理での入試が難しくなったこととは別物かと思われます。実際の合格ラインを見てみると、さほど高い得点でなくても合格している生徒が多く、今年の東京大学においても、大問1がすべて不正解、大問2が9割、大問3が1割という得点で合格した生徒がいるほどです。分量が多く、すべての問題を解く時間がないということは、得意な単元でしっかりと点数をとればよいことになり、問題数が少なく、すべての単元でしっかりと得点する必要がある入試よりも合格点を取りやすいといえるでしょう。このことをしっかりと把握し、生徒に対して指導しておくことが近年の入試では大切なことだと思われます。今後、入試の傾向に変化があるとするならば、大学側からなんらかのアクションがあると思われるため、最新の入試情報にアンテナを張り巡らせておくことが大切だと思います。
「何が分からないかが分からない」と訴える生徒が多いです。先生ならどのように対応されますか。
生徒が躓くポイントしては、①問題文に書かれている現象が理解できない。②問題文は理解できるが、どの公式を用いれば良いのかわからない。③公式までは選べたが立式できない。のどれかに該当すると思われます。①については”問題文中にどの物理量が書かれていて、どの物理量を聞かれているのか”という質問をし、その上で物理でよく使われる表現(”一体となって”と”観測者に対して静止した”の相違点など)の説明をいれていく授業が効果的です。②については問題集だと解けるがテストでは得点できないという生徒が躓いているポイントです。多くの問題集は扱う公式が章題となっていて、使用する公式がわかってしまうからです。簡単な問題を羅列し、公式を選ばせるプリントを作成するのが効果的です。①の段階を克服していればこの段階の克服もスムーズにいくはずです。③については教科書準拠の問題集で繰り返し立式の練習をすればよいと思います。


大町 尚史
生物
【7/30(土)実施】

教科書の進度を早めて授業を行う際にはどんな工夫が必要になるとお考えですか。
分野を超えて、効率よく説明することができます。一例として、東京書籍版教科書での「神経の伝導と伝達」の扱いを考えます。第1編2章「生命現象を支えるタンパク質」で、シナプス、神経伝達物質、アセチルコリン受容体、電位依存性ナトリウムチャネルやカリウムチャネル、静止電位、活動電位、分極、脱分極などの用語が登場します。そして、第4編1章で再び「静止電位と活動電位」や「ニューロンのイオンチャネルの特性」などを詳細に扱います。さらに第4編2章「動物の行動」でも、「慣れ」および「鋭敏化」の説明で、神経伝達の調節が示されます。
これらを教科書の順番通りに別個に扱うよりも、一度にまとめて扱った方がはるかに時間の節約になります。「生物」の教科書に、同様の例はいくつもあります。
理解度の差が大きいクラスでの一斉授業時の注意点はございますか。
①簡潔な表現を用いる
冗長な説明は理解を妨げます。
②例えを用いる
生物の場合、細胞内で進行する目に見えない現象も扱います。「言葉の絵」としての効果を例えば発揮し、生徒の理解を助けます。複雑な現象を、簡単な例えで生き生きと説明しましょう。
③専門用語に説明をつける
授業中 専門用語を頻繁に用いるなら、入試に備える面で有利になります。専門用語を用いる際、その語の意味を話に含めることができます。「多能性、つまり、ある細胞が色々な種類の細胞に分化する能力ですが、…」といった具合です。
先生がスキルアップのために行っていることや、使用している教材などがあれば教えていただきたいです。
生物講師のスキルには様々な面があります。とはいえ、「生物学の最新の知見や入試問題に精通している」という意味合いで質問されることが多いので、この観点で2点お話しします。
①広く報道された生物学上の発見に精通する
興味深い報道があれば、可能な限り元の論文を調べます。また大抵の場合、インターネット・サイト上で発見者が情報を公開しているので、そこから理解を深めます。特定の技術の進歩が関係する場合、その方法の利点や応用例だけでなく、問題点も把握するようにします。
②大学入試問題を解き、傾向をつかむ
私の場合、毎年2月から5月にかけて、250題以上の大問を解いています。『全国大学入試問題正解』(旺文社)の巻頭言を執筆するためです。それ以外に、私立のメディカルの入試問題を解きます。「生物」の場合、十数年前の問題を見ると古臭く感じることが多々あり、最新の動向に通じていることが重要です。
教科書の内容を全て授業で扱うのは困難です。どのように取捨選択をしたらよいかのヒントをいただけますか。
①各分野の本質を捉えるのに必要な事柄は必ず扱う
「生態」や「進化・系統」などの分野全体を割愛する先生がおられます(計画通りに授業を進めることに困難をおぼえているのかもしれません)。しかし、各分野の根幹をなす知識や概念は、しっかりと教える必要があります。
②具体例として記載されている現象は必要に応じて扱う
例えば、「動物の行動」の分野では、行動の例が豊富に載せられています。それらすべて扱う時間的な余裕はありません。
③歴史的な実験などは参考程度に扱う
グリフィスの実験やアベリーの実験などは、2016年度の大学入試問題からほぼ姿を消しました。意外かもしれませんが、シュペーマンによる二次胚の誘導実験も「絶滅危惧」です。
入試の出題傾向予想を行う際には、何を参考にすればよいのでしょうか。ヒントをいただければと思います。
『全国大学入試問題正解』(旺文社)を解き、入試問題に精通することが一番です。
例えば,2016年 東北大学で、「遺伝子ターゲティングによる遺伝子改変技術」の問題が出題されました。遺伝子ベクターの構築、相同組換え、PCRによる選抜、適切なアニール温度の設定、ES細胞を用いたキメラマウスの作成と交配実験などの要素が盛り込まれていました(是非、解いてみて下さい!)。発生工学上の技術の理解なしに、問題を解答するのは困難だと思います。
上記のような問題がたびたび出題されるようになったことがわかると、授業でどこまで教える必要があるかを判断できる訳です。
そのようにして、毎年毎年教える内容を修正してゆき、常に最新の入試動向を反映した授業を展開します。やりがいのある仕事です。


諸岡 浩太郎
世界史
【7/31(日)実施】

世界史の論文指導について、生徒の書いたものを添削し、返却する方法で行っていますが、もっと体系的にできないか悩んでいます。何かアドバイスをいただけますか。
東大・京大合格者はみな大量に過去問を解き、とことん自分の頭で考え、自分の言葉で答案作成訓練することを厭わない生徒たちばかり。とはいえ東大のような高度に作り込まれた論述問題を初めから解答できる生徒はなかなかいません。やはり初めの段階では、授業で問題文の条件設定を読み解き、指定用語から推定される採点基準を箇条書きに示した上で書く練習をさせた方が効果的だと考えます。東京大学世界史第1問は良く練られた良問の宝庫。特に2006年「3つの戦争の助長と抑制」、2008年「パクス・ブリタニカの展開と抵抗」、2009年「信教の自由」、2010年「オランダの世界史的役割」、2012年「アジア・アフリカにおける植民地独立」は東大受験生なら必ず練習させておきたい見事な良問です。採点基準を明確にした後なら生徒たちも答案を書きやすくなり、答案を書き上げることで東大の問題の素晴らしさを理解でき、自信にも繋がるはずです。
文化史の指導に手ごたえが感じられません。教え方の工夫や留意点を教えていただけますか。
文化史は「時代と呼吸したものがアート」だと強く心に留めて授業を行っています。例えば、ピカソが『ゲルニカ』を描いたのはスペイン内戦でバスク人に対して空爆を行うヒトラーの危険性を世界に告発するため。ゴヤの『1808年5月3日』はナポレオン軍によるスペイン侵略が題材です。『ゲルニカ』は「スペイン内戦」、『1808年5月3日』は「ナポレオン」が答えになることが多いはずです。つまり作者名や作品名よりも、むしろその作品で何を伝えようとしたのかが重要です。ルネサンスでは『ハムレット』や『リア王』などシェークスピア悲劇の一節を小田島雄志訳で紹介したり、19世紀前半のロマン主義ではショパンの『革命』が作曲された背景を説明した上で、ポリーニの演奏の素晴らしさを紹介したりしています。文化史の授業がきっかけで、生徒たちが美術館へ足を運んだり、古典小説やクラシック音楽に興味を持つようになってくれると嬉しくなります。
生徒たちは世界史に興味を持ってくれますが、点数に結びつきません。何か良い方法はございますか。
私は授業のはじめに必ず小テストを行います。内容は前回の重要事項を一問一答で10問。世界史の学習において「理解」と「記憶」は車の両輪です。もちろん授業では生徒たちが独学では難しい「理解」の部分に授業のエネルギーの大半を費やしますが、そのままでは生徒はただの観客になってしまって点数には結びつきません。そこで、板書で赤の下線を引いて強調した用語に関しては必ず復習して覚えて来るよう生徒たちに伝え、自習で「記憶」の時間を作るよう誘導します。また、早稲田の政経ではこんな切り口でこの用語を書かせたとか、東大第3問のたった10問しかない一問一答でもここが答えで訊かれていたといった具合に、授業で扱う用語の暗記が直接合否を左右することを授業の中でも印象づけて復習を促すようにしています。
過去問研究の方法について、先生はどのようにされていますか。
東大・一橋など難関大の論述問題は解答をチェックする前に必ず自分で解答を作成してみることが大切だと思います。問題文の誘導や指定用語から採点基準がどこにあるのか、やはり一度自分で悩んでみないと案外、見落としてしまいがちです。赤本や各予備校の論述の解答を比較するのも有効だと思います。あと北大の問題にはいつも感心させられます。教育上の配慮の行き届いた良問ばかりです。早稲田大学は文化構想、国際教養、政治経済学部の問題に傑作が多いと感じます。法学部の最後の大問250字論述も名作ぞろいです。最後に一橋の過去問で生徒たちに優先的に練習させている問題は次の通り。2004年第1問「ドイツとイギリスの宗教改革」、2002年第2問「二月革命の原因、成果、限界」、2009年第2問「19世紀半ばのグローバルな紛争」、2003年第3問「洋務運動と変法運動」、2001年第1問「10世紀後半から11世紀の地中海世界」です。
先生が、普段の授業で一番重点を置いているポイントは何ですか。
生徒たちに「楽しい」と感じてもらえる授業、これが一番大切なことだと思っています。もちろん授業を受けることで劇的に理解が進み、問題も解けるようになり、視野も広がって、知的好奇心を刺激することができたら最高です。でも、その根底には生徒たちとの信頼関係が不可欠です。そして、多くの生徒たちが努力を続けるには授業は「楽しい」時間でなくてはなりません。いつも授業の準備をするときには授業テーマ・板書・使用する問題などひたすら質の高い授業を模索するのですが、授業後に反省するときには「楽しい」時間を作れたかどうかが一番気にかかります。誰にも楽しい授業と感じてもらうのはとても難しいことですね。本当の意味で「楽しい」と感じるのは、きっと人生にとって有意義な時間のはずです。


岡島 光洋
化学
【7/31(日)実施】

40名程度のクラスの場合、授業レベルをどこに持っていくのが効果的だとお考えですか。
難しい問題だと思います。私は上から1/3ぐらいに合わせています。というのも、クラス下位レベルの生徒は、合わせてやると「この授業は努力する必要がない」と思ってしまい、予復習を怠るようになるためです。またレベルを下げることになり、途中から教材消化のために一転してペースを異常に上げなければならなくなってくるからです。下位レベルの生徒に対しては、集合授業のみですべてを賄うことは難しいので、個別に課題を出すことになります。
もし先生が高校で授業をされるとしたら、1コマの授業の流れ、構成の仕方など、どのようにされますでしょうか。一つの例をご提示いただければ嬉しく思います。
私の場合、自身の高校時代の経験から、問題から入るということだけは避け、生徒に疑問や興味を持たせるところから入ります。例えば電池と電気分解のところであれば、①「お金を貯めるための労働と、お金を使う消費。好きなほうをやっていいと言われたらどっちをやる?」と問いかけ、化学変化には勝手に進む発熱反応と、エネルギーを与えてようやく進む吸熱分解反応があるという概念を導入します。②その後燃料電池の実例を使って、放電が自然に起こる酸化還元反応だということをしめします。酸化還元の定義や酸化還元反応式の組み立て方を確認します。③次に水の電気分解が燃料電池の逆反応であることをしめします。このとき、同じ極板で逆反応を起こすことから、電池と電気分解では同じ符号の極でも電子の流れが逆になることをしめします。④電池と電気分解の各極における反応の種類(酸化か還元か)や電子電流の方向などを図の形で整理します。⑤演習問題で、主に計算分野を確認します。50分で授業するとしたらこのくらいでしょうか?
講義時間と演習時間のバランスをどのようにとられていますか。
私としては、いきなり問題から入るような授業スタイルはとらず、現象の根本を理解するところから説明するため、いつも講義時間が半分以上を占め、演習問題を解く時間を圧迫しているのが現状です。ただし、上位大学の入試問題では、設定を目新しくすることが多いので、いたずらに問題量を増やして経験値で乗り切るという方法が通じにくくなってきます。未知の設定に遭遇してしまったとき生徒にとって頼れるのは、現象の理解で培った洞察力です。このため、私は上位クラスであっても、特に一、二学期の通常授業では、時間の半分以上を説明に当てます。
新課程になって変化した重要問題(ポイント)などはございますか。
生物と違って、化学では化学基礎まで含めた全体の単元に大きな変化はなく、リン脂質やATPが抜けたうえで生命と化学、生活と化学を両方教えなければならない、相変わらずタイトな教育課程です。このように範囲としてもきついのですが、新課程で最大の負担となるのが、参考・発展の扱いだと思います。通常の理工系大学ならば、参考・発展を避けても十分に合格点に届くと思いますが、旧帝大や医学部を狙おうとすると、この参考・発展事項は問題の題材として取り上げられるため、不可避となってきます。口述でも取り上げた液面差と圧力の関係や、ファンデルワールス状態方程式など、理論化学にも題材はありますが、むしろ有機化学のマルコフニコフ則や配向性、新素材などのほうが、入試には出題しやすいようです。受験直前期に、該当生徒に個別に指導すべきことだと思いますが、これら参考・発展事項を題材に使って全範囲を効率的に点検させるメニューというのを持っておくべきかと思います。
国公立二次試験等での、有機構造決定の難問への対応について、どのようにステップアップして指導すればよいのかについて悩んでいます。何かアドバイスをいただけますか。
口述もさせていただきましたが、まずは構造式をブロック的に認識する感覚を醸成させ、異性体を列挙する力を身に着けさせることかと思います。具体的には、代々木ライブラリーから出版されています拙著をご覧いただければと思います。次に、アルコールの構造決定を題材にして、検出反応や反応誘導体のヒントから構造を特定する練習を積ませ、その要領で脂肪族エステルも加水分解生成物から構造決定できるようにし、最後に芳香族の反応を絡めた芳香族化合物の構造決定で仕上げます。ただ、最近の京大や東北大はもっと上位の概念を必要とし、炭素骨格で構造を考え進める力と、分子の対称性の消失、獲得などに由来した不斉炭素原子の生成消滅で炭素骨格を特定する力が必要とされます。


國井 丈士
小論文
【7/31(日)実施】

小論文は「自分の言葉で、自分の具体例でわかりやすく」をモットーに指導しています。この場合、「わかりやすいが幼稚」という低い評価をされてしまう可能性はありますか。
「自分の言葉」とは何でしょうか?文章というのは国語教育を基礎とした正しい日本語を使うのがよいのではないでしょうか。表記の決まりに従った句読点使用、漢字と仮名の使い分け、常用漢字表に準じた文字遣いなどではないでしょうか。小論文は文芸作品ではありませんから、当人の人格がにじむような書き方は避けたほうが賢明だと思います。また、人はコンテンツ(中身のある)ワードほど個人の感覚で言葉を使いがちです。国立国語研究所の調査によると、「小銭」とはいくら?という調査に対し、東西では金額が違うという結果が出ています。言葉のニュアンスというのは地域性も反映しますから、出来うる限り客観性のある言葉を使ったほうがよいでしょう。また、「自分の具体例」というのは、得てして客観性が失われる恐れがありますから、一般的な例をあげたほうがいいと思います。
小論文の採点基準について教えていただきたいです。
以前私の提案した採点基準の素案を別項で再録しておきます。大学ごとに採点基準は違うでしょうが、私の作成した採点基準は生徒指導にも役立つと思います。
生徒に考える力を身につけさせたいのですが、自分自身の考えが合っているのかという不安もあり、それを確かめる機会もありません。先生はこの点についてどうお考えですか。
生徒によく「批判されない意見は意味がない」と言うことがあります。誰でも言えそうな、当たり障りのない意見は無視されて終わってしまいます。そもそも、数学のように普遍的とさえ思える解が導かれる場合は別として、正しい解の導き出せるような問題は出題されません。以前「死刑なんて廃止して、仇討ちを復活させたほうがいい。自分の子が犯罪に巻き込まれたら、親というのはそんな気持ちになるんだよ」と言ったら、生徒たちが皆うなずくので、「君らを説得しに来たんじゃない、反論してみろ」と言ったことがあります。生徒からの反論が出てはじめて自分の指導に自信がつくものです。ただし、代ゼミも学校法人ですから、教育基本法に背馳するような発言はしませんが。
現代日本語を学習せず、なんとなく理解した気になっている生徒が多いように感じます。このような生徒に学習の必要性について気付かせるためには、どのような方法を取るのが良いのかご教授ください。
「現代日本語」というのは何でしょうか?若者言葉を避けて日本語を使用するということなのでしょうか?おおざっぱにいうと、小学校から高校までの学習指導要綱に準じた日本語の使用を演習、主に記述式の大学入試問題を通して自然に体得させるのがよいと思います。小論文に絞っていえば、採点者の年齢をイメージして書かせてはいかがでしょうか。採点者の大学教授は、国語の専門家とは限らないのだから、中高年に理解されそうな言葉を使うように生徒には指示しています。
小論文の添削は文章の添削のみでよいのでしょうか。書いてある内容が浅いと判断した場合、調べさせるようにしています。ただ、こうすると時間がかかりなかなか進まないのが悩みです。何かアドバイスをいただけますか。
浅い書き方をする生徒というのは、書き方がどうだとかの問題ではなく、生きる姿勢と密接な関係があると考えています。このぐらいでいいかなあ、あとは誰かが手を差し伸べてくれそうだからなあ、と思考を停止してしまう生徒が多いように思います。受験指導を通してその成果があらわれる生徒というのは、他人を蹴落としてやろうという意識の強いものより、何より自分に負けず嫌いな生徒に多いように思います。普段の生徒との何気ない会話を通してその負けず嫌い精神を少しずつ注入していくささやかな指導者の努力が実るものです。これは私のあくまでも体験ですが。

“質疑応答集 2016”では書ききれなかったこと(PDF)


富田 一彦
英語
【8/6(土)実施】

先生が授業を受ける前提として生徒に求めるものは何ですか。ベタですが私は「予習」を求めています。
私が指導する生徒は受験生ですから、予習を求めることは当然です。彼らが自分の目で見て何に気づけるか、何を見落としているかを知るには、予習していなければならないからです。私がもう一つ生徒に求めるのは、投げ出さずに考える姿勢です。単語を知らないから、背景や経緯を知らないから分からない、と投げ捨てず、それを分かる情報から逆に組み立てていく態度が必要だと力説します。
アクティブ・ラーニングを取り入れた授業方法で、受験に対応するためにはどんな工夫が必要かについてお考えをお聞かせいただけますか。
生徒たちが、相互に話し合いながら理解を深めていくという考え方はある前提が成り立っていれば面白い発想です。その前提とは、①考え話しあう材料を持っている ②考えようという意思を持っている、です。②は①があって初めて出てきます。例えば「未知のもの」に出会った時、それを辞書やネットで調べるだけなら、何もグループワークにする必要はないわけです。単に一人でやるべきことを手分けしてやっているだけですから。辞書やネットを調べることを禁じ、自分たちだけで手持ちの材料で答えを導くことをやらせるのは有意義だと思いますが、問題は、その前提となる「手持ちの材料」を彼らが持っているかどうかです。そのためにはコンベンショナルな授業の中で、まず教師が最低限の知識・認識を提示し、それを使って未知の問題を解決してみせるという作業が最低必要だと思います。
英作文を指導する際には、模範解答を多く示すのと、1つか2つ示すのとどちらが効果的だとお考えですか。
英作文は平易で日常的な言葉を使って、英語を組み立てる方法を指導するものだと認識しています。安易に例文暗記に走ったり、ただどこかで聞いてきた表現を組み合わせたりするだけでは、きちんと英語を考えるという思考過程に入ってさえいないのだと思います。模範解答はそれほど多く必要はないでしょう。寧ろ、センター試験の第六問のような英文の模範和訳を渡して、それを訳して本の本文と比べさせるというような指導をするのがよいと思います。今はやたら「添削」がもてはやされますが、生徒数が多ければ、なかなか丁寧な添削は難しいと思われます。それなら、間違いなく正しく、かつ平易な英文の代表であるそうした英文を自分で組み立てさせ、すでにある模範解答と比べさせるのがよいかと思います。
その知識が必要か不必要かという判断を何を基準に示していくかという点に悩んでいます。何かヒントをいただけますか。
当日も申し上げましたが、「必然性」と「再現性」ですね。子どもたちは英語以外にも多くのことを記憶することを求められます。だから賢い生徒は自分で取捨選択を行っています。その「取捨選択の基準」を与えることがまず何より必要でしょう。受験生に私が伝えるのは「その知識が、試験で問われやすい性質や特徴を備えていること」「記憶していないかぎり、その場で結論を導く方法がないこと」の2つを常に意識させるように心がけています。
文法を軽視し、英文の構造分析等をきちんとやらなくても、しっかりとした読解力を培うことができるのでしょうか。昨今の英語教育を取り巻く環境や流れに関して先生のお考えをお伺いしたいです。
言語の基本は「文法」です。それが教育界であまり重視されないのは、残念なことにこの世界で指導的な立場にある方々にあまり想像力がないためだろうと思います。つまり、第一言語の場合、文法は「無意識に」習得されます。でもそれはチョムスキー言うところの「生得の第一言語習得機能」が働いた結果です。それを理解していないと、第二言語である外国語を習得するのには、文法を意識的に習得することが必要だという認識が持ちにくいのだろうと思います。さらに私は「文法」を重視しますが、同時に、今日本で主に行われている英文法の授業は「文法」とは程遠いものだと思っております。単に結果だけを羅列して、そこにある法則性を見いだせるかどうかは結局学習者のポテンシャルに期待する、というやり方は、決して生産的ではないと思います。私は理想主義者ではないので、「誰でもできるようになります」などと安易に言いたくはない(本音はそう思っている面もありますが)のですが、でもやり方次第で救える人は増えるでしょう。


森谷 慎司
文系数学
【8/6(土)実施】

効果的な演習授業の方法について、何かヒントをいただけますか。
1回の授業でいろいろなタイプの問題を扱うよりも、内容を絞った目的を持った演習が効果的だと考えます。何を習得させたいのか?何を確認したいのか?を考えた問題を選び、時には1つの手法を徹底的に練習するのも良いでしょうし、類題なども用いて背景知識や応用知識をまとめるのも良いと思います。さじ加減次第で面白い授業ができると思います。また、演習授業は定着度が測れるのも利点ですね。特に、一通り学習した受験指導後半や直前期の演習授業は効果的だと思います。
様々なレベルの志望校を持つ生徒への授業では、扱う問題や素材をどのレベルに設定すればよいとお考えですか。
これは、私の尊敬する公立高校の先生から伺ったことですが、学校全体で主に目標としている大学の層よりも少し下のレベルに合わせるのがよろしいかと思います。これなら下位層も頑張れて全体の底上げが可能です。そして、できる子でも問題は解けるけど根本的なことをしっかりわかっていない生徒が多いので、上位層の学力の土台をしっかり固めることができます。学校の状況によって、一概には言えないと思いますが、その学校ではこの方法でかなり実績が上がっていましたので、有効な方法だと思います。
限られた授業時間の中で、解説する問題の選定基準はどこにあるのでしょうか。
最も大切なのは、授業のシナリオ作りだと思います。私は、限られた時間内に何を教えるか?そのシナリオを元に、教えたい内容を効率良く生徒に伝えるにはどのような問題を選んだらよいか? そして、その問題を教えるのではなく、その問題で何を教えるかを大切にして問題を選定しています。シナリオも、その分野の重要な手法を一通り網羅したり、1つの概念や手法に特化した問題の並び方にしたり、いろいろ考えられると思いますし、教えるものによって、見せ方も変えていけば、生徒も印象に残りやすいと思います。
数学を苦手とする生徒にどう興味を持たせて取り組ませるかのヒントをいただけますか。
悩んで数学の問題を解ききったときのあの感覚は、他の教科にはない感覚ですよね。まずは、なるほど!わかった!自力で解けるという感覚をたくさん味あわせてあげたいですね。あとは、私自身、無味乾燥な概念の根底の意味がわかったとき、目の前の視野がサーっと広がっていく感覚は今でも忘れられません。数学はわかると楽しいことを生徒に伝える授業を根気よく続けていくことが大切であると考えます。そして、授業は我々も楽しむこと。我々が楽しくなければ生徒も楽しいわけありませんよね。我々が楽しい授業をする!これが生徒に興味を持たせる秘訣かもしれません。
センター対策授業が解説中心になってしまいますが、生徒の集中力が持ちません。先生が行われる際に何か工夫されていることはありますか。
私はセンターの対策をする際、問題の解説に終始してしまわず、基本事項、センターで過去に出題された例、関連知識や発展知識なども交えて授業することを心がけています。講義内容で集中させられれば一番良いのですが、まだ受験に対する意識が低く、集中力がもたない生徒が多い場合は、作業する時間を設けるようにしています。その際、センターの問題をそのまま使うと、いろいろな話題が入って大変ですから、パーツにわけ、演習&講義し、それらを利用すると解ける問題は類題として収録して、生徒には答え付きで宿題とする。まだまだ苦手な現役生のイベントなどではこのようにしています。ポイントも絞れて生徒もいいみたいです。


藤井 健志
現代文
【8/6(土)実施】

読解力をつけるためのアクティブラーニングの方法について何かヒントをいただけますか。
私はアクティブラーニングとは文字通り学ぶ側の能動的な学習だと考えています。震災以来、東大剣道部時代の仲間を中心に異業種連合の「おじさん」「おばさん」達として福島に出向き、現地の高校生たちと学びの時間、空間を共にしておりますが、我々がいわば「非日常」的な存在として「斜め」の方向から関わっていくことで、学校空間で先生方とまっすぐ向き合いながら学ぶ日常的な学びの価値を再発見し、能動的な学びを始める契機としてもらっている気がしています。そうなってしまえば、通常の授業形式の学びも十分に「アクティブ」な学びであるかと考えます。
語彙力をつけるための効果的な取り組みについて教えていただけますか。
どのレベルの語彙力をつけるかによって話も違ってくるかと思いますが、まずは高1時の漢字力の養成、特に中学時までに身につけるべき知識と姿勢の不足を補っておくことだと考えています。キーポイントは「部首」と「訓読み」を意識して表意文字としての漢字を身につけること。抽象的な概念を、実感のこもったやまとことばに転換する媒介はやはり漢字にあるかと考えています。高いレベルになると西洋語で抽象的な文章を読み、語彙力養成することが望ましいのでしょうが、それは現実問題として大学に入ってからの話になるかと考えます。
どういう風に教えれば生徒に現代文の力がつくのかが分かりません。読解問題や記述問題で生徒が点を取れるようにするためにはどのように教えたらよいのでしょうか。
まずは指導時に「本文を読む力(いわゆる国語力)をつける」ことを目的にしているのか、「設問(出題者)の意図を読み取る力をつける」ことを目的としているのか、「記述解答の作成能力や選択肢吟味力等、解く力を養成する」ことを目的にしているのかをはっきりさせておくことが重要ではないかと考えます。生徒たちにとっては「現代文の力をつけよう」というので漠然としすぎて伝わりにくいように感じます。もちろん予習や解説前の事前演習等を通じて、子どもたち自身が自分にできていない部分を自覚させる工夫も必要であろうと考えます。
詩や俳句、短歌についてこれだけは押さえておかなければならないポイントはどこなのでしょうか。
日本の韻文を読み解くためには、語られている対象ばかりに目を奪われず、語っている主体の存在をどう意識するかが重要だと考えます。「語り手の「視点」がどこにあるかを意識して読む」とでも言いましょうか。セミナー時に解説しました「物語」の読解法にも通じてくるかと思います。
学力差の大きいクラスを担当する場合、どの程度まで丁寧な準備をすることが必要なのでしょうか。私は重要事項プリントを配布し、漢字の読み書きまで教えていますが、生徒の自主的な学びの機会を奪っているのではないかと思うことがあります。
「重要事項プリント」は生徒がとても喜ぶので、私はなるべく作らないようにしています。それをノートに貼ったり、場合によっては受け取っただけで生徒自身が「できる」ようになったような錯覚を覚えていることが多いからです。学力差が大きいクラスや学力の低い子たちへの指導にあたるときは概して「何を教えるか」よりも「何を教えないか」を考えた方が授業準備がうまくできるような気がしています。


畠山 創
政治・経済
【8/6(土)実施】

アクティブラーニングと受験指導をどう結び付けるのかについてのヒントをいただけますか。
受験指導は特に、生徒の集中力の維持が結果を左右します。その為にも時折「発問」という形で、主体的な参加を促すことが効果的です。また講義の内容は、一方的に板書を写した授業よりも、発問に対して発言を行ったものの方が記憶に残りやすいものです。特に理解の要求される、民主政治の原理や、選挙制度、市場経済、国民経済、国際収支、為替理論、比較生産費説、統計資料の読解については、「なぜそう考えたのか」との根拠を「発問」するだけでも効果的です。更に正誤問題についても、生徒に積極的に発問し、誤文の根拠を考えたり、生徒同士で整合性を議論させるなどすることも有効です。「アクティブ・ラーニング」とは、生徒が主体的に参加し、共に考えているという教育環境で学び合うことであると思います。受験問題と格闘するときにも、十分に「アクティブ」なものとなるように思います。
統計・資料問題に対してはどう指導すればよいのでしょうか。何かヒントをいただけますか。
まず日本国勢図会に当たり、「国民負担率」や「日本の歳入歳出」、「高齢化率」、「各国の財政収支」、「日本の債務残高」、「直間比率」など、頻出の30項目程度を教科書から判断し、毎年、生徒に配布用の資料集を作ってみてください。政経資料集なども活用すると良いでしょう。そして、著しい変化があった年に着目し、その年に起こった「出来事」をポイントとして講義してください。例えばオイル・ショック、リーマン・ショック、消費税増税後、第一次ベビーブーム後、バブル崩壊後、などがターニングポイントとなります。大局的な変化を理解することが、資料問題の出題意図ですから、その年の絶対値だけを暗記させるようなことはしないようにしてください。ただし、過去最低や最高の失業率や有効求人倍率などは個別に教授しましょう。省庁のホームページや各種白書に当たるのも良い方法です。
時事問題を扱う際にチェックされているテレビ番組等のメディアを教えて下さい。
クローズアップ現代やNHKスペシャル、報道特集、週刊こどもニュース、時論公論、映像の世紀、年末の重要ニュース特集などを活用しています。また各時事問題を扱った映画、例えば冤罪を題材にしたものや、安楽死を題材としたものも活用しています。これらは生きた知識としての政治・経済を生徒に伝える絶好の教材です。そして視聴後にディベートや討論を行うのも効果的です。実は高校時代、視聴覚室で『映像の世紀』を観せてくれた先生がいました。5分くらいのVTRを観せて、問題点や対立の構図、私見を紙に書かせて提出させたりしていました。今思えば、この授業があったからこそ、私が政経にのめりこんだのだと思います。まさに「アクティブ・ラーニング」そのものでした。著作権使用が柔軟な学校の特性を生かして、どんどんと挑戦してください。生徒が政治・経済を得意科目へと変える、絶好のチャンスです。
入試問題をどのように分析して、講義に生かされていますか。
講義でもふれましたが、最低5年分の過去問を次のように分析します。①出題されている学習項目②出題形式(空所補充、用語選択、正誤、資料問題、時事問題、論述、計算問題)③書かせている用語の確認と、教科書掲載率(教科書にない用語は、時事用語ではない限り、後追いとなるだけなので極力避ける)④大問数と設問数⑤試験時間⑥試験科目全体における配点の割合、です。①から③については、生徒に分析シートを配って各自行わせるのも効果的です。ただしその場合は秋口に行ってください。基本的にはセンター試験は全範囲からの出題であるため、特定大学の過去問分析に基づいた学習は、センター後から強めに行います。ただし、早稲田だけは例外で、その年の主要な時事問題から、独自の作題をしています。早稲田が読めるようになれば、受験指導は完璧でしょう。各私大やセンターの新型問題や時事問題は、早稲田の問題を踏襲する傾向があります。
時事問題対策について、授業冒頭や解説の途中などで随時行う方法と、まとまった1授業として行うのとどちらが効果的でしょうか。
法律名や制度の改革など、基本的な事柄は、各学習項目で扱うことが妥当です。ただし、イギリスのEU離脱や、安保法制、金融政策の変遷など、テーマ性が大きいものは、一つの授業として扱うか、別途時事講座を設けてみるのも良いでしょう。時事問題の研究は、その年の受験政経の出題傾向を的確に予測する一助となります。この時できるだけご自身で印刷教材を作成するように心がけ、生徒に配布してください。図版や統計資料、合わせて映像教材などがあると効果的です。


佐藤 幸夫
合科目(世界史)
【8/7(日)実施】

宮路 秀作
合科目(地理)
【8/7(日)実施】

大学受験とアクティブ・ラーニングをどのように繋げていけばよいのかについて悩んでいます。「思考力・判断力・表現力」は身についても、「知識・理解」が不足してしまうと感じています。先生方のお考えをお聞きしたいです。
<世界史・佐藤幸夫>
8月7日の講義内でもお話しましたが、アクティブ・ラーニングという言葉が独り歩きをしてしまっている感があります。もともとの目的は、教師からの一方的な講義を聞くのではなく、生徒自らが主体的にそのものに取り組むということにあります。しかし、現状の大学受験は知識を問うモノが殆どであり、アクティブ・ラーニングの努力を図るモノではないことを、我々教師側は前提にないといけません。となれば、文科省がアクティブ・ラーニングを必須とするならば、どの目的に、どの学ぶタイミングに、アクティブ・ラーニングという手段を使用するかを決めなければならないと思われます。
あくまでも、世界史に限定した個人的意見としては、このアクティブ・ラーニングは、世界史嫌いを排除するために世界史学習に入る前の段階で行うパターンと、ある程度の知識がついた後にその知識をベースにした応用力を付ける段階で行うパターンの2つ、つまり、入口と出口に設置するのが効果的ではないかと思われます。
よって、教師による一方的な講義にちょくちょくアクティブ・ラーニングを導入しようとすると、教える側も覚える側も、大学入試が念頭にあればあるほど、ペースを乱されてしまいます。世界史としてもアクティブ・ラーニングの利用価値は、世界史に興味を持って取り組んでくれるためと、実際に覚えたものを使うことでより理解を深めるというところにあるのではないかと思われます。

<地理・宮路秀作>
「思考力が身について、知識が不足する」という状況は、個人的には存在しないと思います。「知識があるから、思考することができる」のであると思っています。大学受験で問われる学力をアクティブ・ラーニングで身につけるということは、基本的にはお考えにならない方が良いのではないでしょうか。そもそもアクティブ・ラーニングとは、自ら主体的に学んでいくことであるわけですから、大学受験に必要な知識を定着させ、理解させるための一手段にしか過ぎないと思います。アクティブ・ラーニングによって、子供たちに勉強への興味を持たせることを目的におかれてはいかがでしょうか。
<世界史>世界史でのアクティブ・ラーニングの一例をご紹介いただければ幸いです。
<世界史・佐藤幸夫>
上記回答の続きから述べさせてもらいます。
指導の入口で行うパターン)興味を持たせることを主旨としているので、映画やドキュメンタリーの映像を見せての感想を書かせたり、1対1で生徒からその映像への聞き取りをし、その意見や思いを名前を伏せて発表することで、「あ~こんな考えもあるのか」と広い見方を学ばせることができるかと思われます。また、歴史的な背景ではなく、絶景や面白い写真などをヒントに世界史ゲームなどを作ってみるなどが面白いかと思われます。実際に私が世界史tourを催行するときには、tour中にそのようなゲームをやっております。
指導の出口で行うパターン)討論会形式が良いでしょう。あまり大人数ですと意見を言えない子も出てくるので、5~6人がベストかと思われます。「自分だったらどうする?」「どうしたら、歴史は変わっていたと思う?」「何が原因でこうなってしまったと思う?」などの質疑を教師側が決めておいての意見の出し合いは面白いでしょう。大学生の団体がよくやっている「模擬国連」などもとても興味がわくものかと思われます。
<世界史>板書を組み立てられる際に意識されていること、莫大な情報量をどう盛り込むのか、どうそぎ落とすのかについて教えていただきたいです。
<世界史・佐藤幸夫>
レベルの幅が大きいクラスでは、できる限り多くの生徒の満足度を上げるために、偏差値55~60レベルの用語(山川用語集の頻度4以上のモノ)を板書に盛り込み、それ以上のレベルのモノは色をつけず、解説もあまりせずに流します。苦手な子には無視させ、それ以上の子には後で調べさせるという方法を取っています。
ここ数年、用語集が易化していることには、特に注意しております。われわれの時代よりも明らかに覚える単語数は減っています。そのかわりに、理解を深められるように、重要事項はあえて最初には板書せずに、後から書かせるという方式を意図的に取るようにしています。
生徒には「覚えない勇気」を持てともいつも言っております。教師は自分の得意なところを細かく話し、重要なように伝えてしまう癖があります。生徒に興味を持たせることには良いでしょうが、知識に偏りが出て、受験ではプラスにはならないということを肝に銘じて教えております。
<地理>私は地理の専門ではありません。地理の教材研究の仕方はどのようにしたら良いのでしょうか。ヒントをいただきたいです。
<地理・宮路秀作>
仕事柄、我々の教材研究の目的は「大学入試で高得点を獲らせるための指導法」です。しかし高等学校の先生方におかれましては、必ずしもこれが目的となるわけでもありません。そのため、まずはご自分で目的を定め、それを達成するために何が必要かをあぶり出し、その上で教材研究をされてはいかがでしょうか。
私は、「与えられた自然環境を活かして、先人たちがどのような生活様式を最適化してきたか?」をテーマにして、自然分野と人文分野の繋がりを俯瞰するようにしています。この視点を与えることで、大学入試で高得点を獲らせる目的の基礎となると思っており、これを念頭に教材研究をしています。
<地理>論述問題の効果的な指導法について模索中です。生徒同士での添削ができればと考えていますが、何かヒントをいただけますか。
<地理・宮路秀作>
受験生が勘違いしがちなのが、「知識があれば書ける」と思っていることです。論述問題は、「相手に一発で意味が伝わる文章を書くこと」が最も要求されることです。そのため、文章力を鍛えることは、何よりも優先する必要があります。それには必ず添削が必要です。生徒同士に添削をさせても、あまり意味があるようには思えません。やはり先生が添削をし、文章の書き方を教えていく必要があります。これをくり返すと、生徒は意識して、相手に一発で意味が伝わる文章を書くようになっていきます。生徒は、独力で色々なことを勉強して書くはずです。その方向性を付けてあげるのが論述指導の初期ではないでしょうか。


柏熊 成享
理系数学
【8/7(日)実施】

どのような指導を行えば、生徒のやる気と十分な学力を両立できる授業につながるとお考えですか。
生徒との信頼関係です。それを築くために欠かせないのが、「①ほめる②認める③続ける」ことです。①のために行うのが、授業中における生徒への質問です。これにより生徒のレベルを掴み、個別対応への材料とします。次にほめることです。質問に答えられたことや、テスト等の結果に触れることにより、生徒を見ているよというサインを送ります。もちろん、質問に答えられなかったり、成績が芳しくない生徒は気になるので、困っていることがないか等の声かけを行います。その際に、1つでもほめる材料を探すよう気をつけています。人の悪い点を見つけることは誰にでもできますが、良い点を探しそれを伝えることができる人は、前者より圧倒的に少数です。それが少しでも多くできればと思い行動しています。そして、それらを続けることです。復習と同様、1回では意味がありません。粘り強く続けることが大切です。この3点を行うことが、生徒との信頼関係を作り、育てていけると思います。教員として何より大事なことだと思います。
日々の授業準備にはどのくらいの時間をかけ、どのような内容の準備をされていますか。
ルーズリーフ1枚に対し、一問の予習ノートを作成します。問題文をプリント(PCに打ち込んでいます)して、縦半分に折る、もしくは線を引くことで2段組ノートにします。左半分に解答を、右半分には導入事項、基本事項の確認事項、時間があるときに出す類題問題を用意します。自分基準になりますが、左半分に解答が収まれば30分解説で収まります(導入も合わせて)。また、解答は、シミュレーションのために、板書で書くべき内容をすべて書きます。これで時間配分などを測っています。解説中に「あれもこれも・・・」と後付けにならないために、シミュレーションで導入すべき内容の確認を行い、解説前の導入事項の整理を行っています。一度問題を見通すことで、類題や導入問題が見えるので、必要な類題問題等を用意します。簡単な問題で演習時間をとることもあります。その際に、高1・2年生には、「周りと相談しながら解いてみよう」とすることで、アクティブ・ラーニングにもなります。それらを行っていると、高3・高卒生対象の入試問題だと、40分から1時間近くかかることもあります。自分は事前準備を行っておかないと、なかなか安心できないタイプなので、予習には時間を注ぐことをルーティンワークとしています。ルーズリーフに残すことで、それらをデータベースとしています。それらが自分の財産となるからです。
現役生の授業時に心がけていることなどはございますか。
解答・解説よりも、演習時間の確保を優先するようにしています。扱う問題は軽めの内容、ワンテーマに絞ってある問題です。それを解説だけでその場で理解させることは不可能だと考えています。手を動かすことで理解につながると考えているので、「それでは類題やってみよう」といった感じで、数値の違う演習問題をまず1問、出来がよければチャレンジ問題、悪ければもう1問数値換え問題を。できたときはこちらもうれしいので、思いっきりほめる!喜んであげて下さい。特に自分がよく言うのが、「高3生でこれができない生徒、多いんだよ。でもみんなはできてるから、受験生をこの瞬間は超えてるね!」です。少しでも受験を意識させ、いい意味で、「できるかも・・・」という錯覚<自信>を与えることが必要だと考えています。
教科書で受験をどこまで意識させていくかのバランスに苦労しています。もし先生が高校で教えられるとしたら、どうされますか。
受験問題でも、簡単な問題、教科書レベルの問題はいくらでもあります。数研の毎年出される入試問題集や、大学への数学でも基本問題を収録しているので、それらによる問題収集を、普段から行い、授業中の演習問題で出題します。中には数値が良くなく解答に無駄な時間がかかることもあります。そこは数値を少し変えたり、不要な設問をカットしたり、ときには誘導設問を追加したりして、授業で出題していきます。できれば自信につながりますし、早稲田の問題ができたら、「早稲田合格!」と言ったりすることで、生徒の気持ちを盛り上げたりできます。大人から見れば、「そんなばかばかしい」、と思うような演出でも、生徒にとっては、「今日、授業で早稲田の問題が解けたよ!」と言う声を、授業後に違うクラスの生徒同士で話しているのを耳にしたこともあります。簡単な入試問題を演習に入れていくことで、早くから、入試問題に意識を向けることは大事だと思います。
問題演習の授業をする際に、基本事項、既習事項の確認はどう行うのが効果的だとお考えですか。
問題解答に必要なポイント、解法を端的にまとめてあげることです。残念ながら、問題演習がうまく進められるとは、自分は期待していません。生徒の手が全く動いていなかったこと(最悪の事態)を想定して、導入事項を考えています。もちろんそのことを口に出すことはなく、生徒とやりとりをしながら基本公式の確認を行います。そして、演習のための基本問題を生徒に解かすことなく、板書も写させることなく、解法確認を行います。それらも、こちらの予習段階で、何が必要かをきちんと把握しておくことが大切です。講師間の話で、「全然この問題、生徒はできないんだよなー」という声をよく聞きますが、そこを補うことが、教師の仕事だと思います。そのための予習準備を行うことを忘れてはならないと考えています。


梅澤 聖京
古文
【8/7(日)実施】

北澤 紘一
漢文
【8/7(日)実施】

古文、漢文に興味を持たせるにはどうしたらよいのでしょうか。何かヒントをいただけますか。
<古文・梅澤聖京>
まずはやはり「わかる」授業をすることだと思います。人間わからないことにはなかなか興味が持てないものでしょうから、それがベースになるかと思います。「趣味」に走りすぎず、その文章で大事なことがちゃんと生徒に伝わるように「引き算」をすることも大事だと思っております。古文の場合、「話」の文章が多いと思いますので、その場面を生徒が映像化できるように伝えるなどの工夫をして生徒に興味を持ってもらおうとしております。特に導入段階では古文嫌いにならないよう、内容的にも興味を惹けるような「おもしろい」ものを選択するようにもしております。

<漢文・北澤紘一>
漢文の場合、「昔の中国の言葉」という認識では、生徒が学ぶ必然性を感じにくいと考えております。そこで、漢文原文の『日本書紀』『古事記』等を生徒に見せて、漢文が日本で文語として使われていたものであることを認識してもらうようにしております。(江戸時代の印刷本であれば、古書肆で購入が可能です。)また、日常でよく使われる熟語を漢文訓読し(例:読書ー書ヲ読ム)、漢文が現代に生きているもの、現代日本語の国語力上昇に必要、有益なものであることを理解してもらうようにしております。
<古文>文法知識はあってもそれが活用できない生徒が多いです。どうすれば知識間の関連に気付かせ、活用できるようにさせられるのでしょうか。
<古文・梅澤聖京>
文法は「読みの道具」でもあり、「知識」としても必要なものであるため、文法事項を教える際は、「普段読む時にはこの程度の処理で構わないが、文法問題ではこのように出題されるのでここまで押さえておくように」と指導しております。大学入試を想定いたしますとそのような指導の仕方になりますが、基本は同じではないかと思います。何の道具でも大抵は「日常8割以上はこう使うが、上達するとこんな使い方もできる」というものではないでしょうか。この「日常的使用法」をマスターさせるためには、まずはその使い方を見せ、そしてあとは反復あるのみだと思います。とにかく繰り返すしかないと考えます。文法知識ごとに段階を踏んでマスターさせ、項目が積み重なっていくとつながりが見えるような教材作成と授業を心がけております。
<古文>品詞分解や文法・単語の説明後に、本文を訳すだけの授業になってしまい、生徒が退屈してしまいます。何かヒントをいただけますか。
<古文・梅澤聖京>
「品詞分解して逐語訳」という作業は、入試問題では傍線部解釈の際の第一手になるもので、とても大事なものだとは思いますが、全文に対して施すというのは確かに退屈に感じさせてしまうかもしれません。授業中にも申しましたが、そもそも古文は日本語ですから、言語構造、品詞などは現代語とほぼ変わりませんので、品詞名の指摘は現代語の感覚で読むと間違いやすいところにとどめており、模擬授業で見ていただきましたように、色に意味を持たせて作業をさせることで、「品詞分解」の代わりにしております。あの作業ですと日本語の言語構造を意識した読みができるようになるため、あのような記号を入れずとも入れたのと同じように読めるようになり、原文のまま読んで意味がとれるようになると考えており、実際効果もあがっております。ご参考になれば幸いです。
<漢文>漢文の句法はいつ頃から教え始めるのが効果的なのでしょうか。高校1年生からある程度行うべきでしょうか。
<漢文・北澤紘一>
生徒がとっつきにくいと感じているものを、1回の学習で理解、習得してもらうことは困難であると思います。可能であれば、1年生時から学習を始め、2年生時、3年生時と内容を重複して指導することで、理解、習得を支援することが容易になると思います。また、漢文の学習間隔が開き過ぎると、生徒の理解を妨げ、漢文をますますとっつきにくいものにしてしまうと考えます。週1時間、漢文の時間を古文から独立して設けることができれば、生徒が漢文に親しみやすく、学習しやすいものになるでしょう。
<漢文>「訓読する意味が分からない」「なぜわざわざ古文にしてから現代語にしなきゃならないの」「最初から現代語で読めるようにすればいいじゃん」という生徒の質問に戸惑ってしまいます。先生ならどうお答えになりますか。
<漢文・北澤紘一>
漢文訓読文は、語彙語法において、中世古文ではありません。現代日本語の原型です。正しく訓読ができれば、それだけで大意を把握することが可能です。一度古文に置き換え、そこから重訳する必要があるものではありません。漢文訓読は、読みがそのまま意味であるとご指導いただけるとよいかと思います。漢文訓読が現代日本語に直結することを生徒に認識してもらうために、古い法律の条文等を、例としてお示しいただくことも有効かと存じます。


畠山 創
倫理
【8/7(日)実施】

対話型授業に関する文献や資料等で参考になるものがあればご紹介ください。
これについては、同様のご質問が多いことから、参考文献のみご紹介します。尚、字数の都合上、訳者がある場合は省略し、著者と著書名のみを紹介いたします。ご了承ください。ちなみに、講義では紹介しませんでしたが、シャロン・ケイ、ポール・トムソン『中学生からの対話する哲学教室』(玉川大学出版部)は、そのまま使用できる具体例とワークシートが付いています。ご活用下さい。マーティン・コーエン『哲学101問』(ちくま学芸文庫)、マーティン・コーエン『倫理問題101問』(ちくま学芸文庫)、ジュリアン・バジーニ『100の思考実験』(紀伊國屋書店)、マイケル・サンデル『ハーバード白熱教室(DVD)』(POLYDOR)、永井均『子どものための哲学対話』(講談社文庫)、永井均『<子ども>のための哲学 講談社現代新書』(講談社現代新書)、河野哲也『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』(河出書房新社)、秋田喜代美『対話が生まれる教室―居場所感と夢中を保障する授業 』(教育開発研究所)、畠山創『大論争!哲学バトル』(KADOKAWA)、畠山創『考える力が身につく哲学入門』(中経出版)、『ちいさな哲学者たち(映画)』(アミューズソフトエンタテインメント)、など。
時間の関係で説明を省く思想家については、どのような基準で判断をされるのでしょうか。
基本的には、センター試験の出題例から判断をします。用語と人名地名、著作などによって、機械的に答えの出る思想家については、プリントの確認程度に止めても良いかと思われます。ただし、選択肢が全て一人の人物についてのもの、例えばソクラテスやカント、和辻などについては、深く立ち入るようにしています。また西洋近代においては、思想間の関係性が特に顕著になります。例えば、経験論や合理論、カントの認識、功利主義、プラグマティズムなどの関係です。このような西洋哲学史の流れを理解する際は、思想家個人だけではなく、哲学史上の位置づけ的講義も必要です。センター試験での出題と、哲学史上の関連を意識しながら、重要度を判断しています。
哲学(倫理)の本質と、受験指導とのリンクがなかなか難しいです。どのように考えたらよいのでしょうか。
セミナーでも申し上げた通り、センター試験は倫理の本質的理解ができていないと得点できません。特に「ソクラテス、イエス、ブッダ、デカルト、カント、西田、和辻」はそれに該当します。これらについては、ソクラテスメソッドの活用や、レビューシートの提出など、受験指導でもアクティブ・ラーニングが有効です。哲学とは「考える行為」です。「暗記という作業」ではありません。この意味で、センター試験が安定して8.5割以上得点できるようになることが、哲学的・倫理的本質を理解したことになるのではないでしょうか。選択肢を吟味し合ったり、正誤の根拠を討論したりすることも大切な指導です。どうかセンター試験選択肢を吟味することで、過去問を有効活用してください。
倫理を教える際に気をつけるべきことはどんなことでしょうか。
とても大事な質問だと思います。倫理は道徳とは違い、善悪の答えを教えるものではありません。様々な思想に触れ、人間や社会でのあり方を模索、吟味する科目です。したがって、思想家に対する個人的な先入観を極力排除し、どの思想家(思想)に対しても、その歴史的意義と、理解を示すことが、最初に求められます。確かに、この思想家は間違っている、などと言いたくなることもあります。しかし、どうしてそのような思想が形成されたのか、また歴史的倫理的意義は何かを模索することを心がけています。もう一つは、古典読解ではないので、生徒に日常の倫理的ジレンマや用語の意味とともに、その具体的事象を考えてもらうことです。その導入として、映画のワンシーンや、ソクラテスメソッド、格言や詩・歌詞などの具体的教材をふんだんに用いて、抽象的概念を具体化することを心がけています。
日本思想を教える際の導入で使えそうなテーマなどはございますか。導入に難しさを感じています。
実は研究が時間や空間を超えて、横断的に行われることが少ないため、私も苦慮しています。そんな時は、「人物のエピソードの紹介」を導入に使っています。一つ言えること、それは皆苦悩している、ということです。苦しみもがいて世の中を考えています。鎌倉時代の厭世感漂う末法の中で、江戸時代の固定化した上下秩序の中で、明治の急激な近代化の中で、世の中の在り方、人間の在り方を、苦しみもがいて思慮しています。具体的には資料集や世界の名著の解説部分を読んで原稿を作る(生徒に配布するのではなく、自身の口述用、もちろん読み上げは禁物)、あるいは名言を拾い集めるだけでも、ご自身のモチベーションも上がるはずです。ものを伝える時、自身のモチベーションが本気でないと、相手も本気になりません。そんな時は原稿書きが有効です。そして、この苦悩が実は今の世の中にも通ずる、普遍性を持ちうるものであることを、現代社会を接点にして、先生なりに生徒に熱く語り、生徒にぶつけてはいかがでしょうか。「面白き、ことも無き世を、面白く」(高杉晋作)。