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2022夏期「授業法研究ワンデイセミナー」質疑応答集

2022夏期「授業法研究ワンデイセミナー」
受講者から出た質問に担当講師が答える「質疑応答集」を公開!

2022年夏期 授業法研究ワンデイセミナーの中で、受講者の皆様からいただいたご質問に対して、担当講師がお答えします。共通の疑問を持った現場の先生方に広く共有いただければ幸甚です。
※いただいた全てのご質問にはお答えできませんが、どうかご了承ください。

本部校出講日 科目 担当講師
7/30(土) 化学 藤原 康雄
倫理政経 畠山 創
小論文 藤井 健志
7/31(日) 生物 鈴川 茂
物理 漆原 晃
地理 宮路 秀作
8/6(土) 英語(1) 西谷 昇二
文系数学 大山 壇
現代文 青木 邦容
世界史 佐藤 幸夫
8/7(日) 英語(2) 佐々木和彦
理系数学 荻野 暢也
古文 望月 光
日本史 犬丸征一郎
収録のみ 情報 藤田 健司
松尾 康徳

2022夏期 授業法研究ワンデイセミナー「質疑応答集」


藤原 康雄
化学
【7/30(土)実施】

化学の問題集を使った効果的な授業法はありますか。
入試には経験でしか解決できない設問も多く存在します。教科書傍用問題集をやりこむことはできる生徒に対し授業は何を提供することができるか、という問題は化学に限らずいかなる科目でも付きまとうと思います。思い切って先生ご自身もその問題集を解いてしまうのはいかがでしょうか。そこでここは間違えそうだなと思うところを授業で出題するだけでも十分に有益な指導です。私自身若かりし頃、新演習、重要問題集、セミナー、リードαを解いたことを思い出します。成績のいい受験生の多くは問題集を解くことに専念しがちです。問題集ではカバーできない内容を指導できれば相乗効果は絶大です。そのために生徒に配っている問題集を解くことから始めてみるものいいと思います。
藤原先生の授業に臨む際の予習の手順について教えて頂きたいです。
このお仕事を始めたばかりのころは、出講校舎と担当クラスレベルから受講生の志望校をある程度予想し、その大学の前年入試を確認しておりました。例えば、柏校標準クラスであれば千葉大・筑波大・宇都宮大・茨城大でしょうか。出題内容やレベルに対し指導内容が乖離したりや不足していないかを精査し、あれば授業に差し込みます。今は、解答速報やテキスト作成で、主要大学の問題はおおよそ確認しておりますが、その際に気付いた”指導していないもの”は各単元のメモとして残しておき、その単元の指導前に見返しております。気になる設問をスキャンし、単元別にデジタルペーパーに入れている感じです。生徒に合わせる、をすべてで行えるわけではないので、自分を生徒のニーズに合わせていくイメージだと思います。
クラスや年度によって、同じ授業内容でも、理解できるクラスと合わないクラスがあると思います。恐らくその都度マイナーチェンジされてるとは思いますが、どのようにクラスに合わせて準備されているのでしょうか。
他教科の例になりますが、地理の共通テストではオセアニアはオーストラリアしか描かれてないけれど、国公立の入試問題ではパプアニューギニアも含まれて描かれています。この違いはそれぞれの受験生の各国の知識の深度、論述力に大きな差があることによるものなのだそうです。年度によるスタートの違いは多くの場合その生徒たちの志望校の違いにはなりません。つまり指導の最終到達点は毎年同じところでないといけません。ですから、各単元の問題は同じものを用意し、年によって授業でやる問題の数を変える感じです。できなかった問題は解説を付けたチャレンジ問題にしています。進度ではなく深度に差をつけて対応する感覚です。
藤原先生が授業をされていて「生徒が壁にぶつかりやすい」と感じる分野はどこでしょうか。また、その分野を指導する際にはどのような工夫をされていますか。
英語や国語、小論文の先生であれば、添削という機会で生徒の成績が測れますが、化学にはそのような機会はすくなく、また、模試は出題単元と授業進度の関係で単純評価しにくいかと思われます。ですが化学にも生徒がつまずくところを知ることができる最強ツールがあります。それが授業で扱った問題の解説に対する質問です。ある問題を解く際に前の単元の知識を使うとしたら、そこの説明を意図的に省いてみるのもいいと思います。たとえば、酸塩基のときの電離度の説明で質問があったら凝固点降下の問題で電離度が1でない塩を使って電離度の説明を簡単に済ませる、などの工夫も考えられると思います。
理論化学の教える際に単調になってしまいます。どのように教えると生徒にわかりやすく伝わりますか。
今回のセミナーでも紹介させていただきましたように、”なぜ”を毎回問いかけるのも良案と思われます。決して大学レベルのことを教えるのではなく、考える力がつくことを問うものがよいのではないでしょうか。ネタ元としては、はじめは中学入試を参考にされるのもよいかと思われます。例えば、ろうそくの炎心・内炎・外炎の温度・光量・すすの出方なども中学入試理科の頻出事項ですが高校生になると忘れているかもしれません。また、入試化学であれば必ず各単元に計算問題を作成することができると思います。それをそのままやらせるのもよいのですが、それと似た算数、数学を先に思い出させてから本題に入ることも可能です。結晶格子の単元であれば、正三角形の面積や正四面体の垂線の長さなど、後で確認するのが面倒なことを先にやってしまったり、結合角問題の約110度を余弦定理と三角比の表で求めさせるのも面白いかもしれません。


畠山 創
倫理政経
【7/30(土)実施】

共通テスト対策として、講義または問題演習をする際に、ICTを使いながら効果的な授業展開ができる工夫があれば教えてください。
共通テストで顕著なのは、複数の資料を読解して答えを導く問題が増えているということです。従いまして、ICTを用いながら、行政資料や各種統計を日頃から画面共有して(代ゼミの場合はスクリーンで投影しています)、資料から何が読み取れるのかを判断していくことが肝要かと思われます。また、文字数も増加傾向にあります。普段から長い文章に慣れるためにも、デジタル版の新聞などを共有しながら読み合ったり、時事問題についてディスカッションしたりすることも有効であると思われます。生徒に気になった記事を紹介してもらうプレゼンもありでしょう。また、過去問を投影してグラフ問題を生徒と共に考えたり、選択肢の誤りを見つけたりするなどの、解法のプロセスを共有できることも、ICTの魅力です。
畠山先生が「倫理」・「政経」それぞれの科目を指導されるなかで、一番大切にされていることは何ですか。
「政経」については、現在社会の動向と問題点を知ること。そしてできるだけ政策的な対策を考察していくことを大切にしています。「倫理」では人間が他者と共に関わりながら、「葛藤しつつ」いかに生きるのかを、様々な思想家から考察していくことを大切にしています。この時、思想間の影響関係や対比関係を、比較思想的にアプローチすることを心がけております。政策的な対策を考える上で、どうしてもこの人間のあり方は切り離せません。例えば、世代間での予算配分を考える際、そこに命の価値に差をつけていないか、などの倫理的課題にぶつかります。とかく「倫理」と「政経」を分けて教えがちなのですが、今後は現代的な問題を、倫理的アプローチから議論することも大切だと思っています。一つ付け加えるならば、SNSや入試動向を見てもいわゆる「政経ネタ」が重用されがちです。もう少し人間が生きることについて、倫理的に考える余裕が必要なのだと思います。
授業準備が楽になるアプリやデバイスや工夫の例を教えてください。
若干講義でも触れましたが、私は「アナログベースのデジタル化」が大切であると考えております。基本的に大学入試において、当面は「書く・記入する」という作業から解放されることはないからです。たとえマークシート形式であっても、正解に至るまでに様々な書き込みを問題用紙の中に行います。この意味で「Good Note」によるPDFの投影と書き込みをベースに、「PowerPoint」による視覚的理解、「写真フォルダ」による資料や写真、データなどの投影という3点を駆使しております。こうして生徒が下を向かないこと、そのために動きをつけ、頭を常に使っている状態を維持できるように心がけております。学校現場では「metamoji」などの共有機能を使う事も有効かと思います。大切なのは、発言を求めたり、ペアワークを行なったり、講義の中に必ず生徒が参加する機会を設けることです。そのことで各種資料が生きてくるはずです。
情報の伝え方として、配布資料に掲載、画面のみに掲載、板書で提示と様々ありますがどのように使い分けをしているのでしょうか。
まず、「用語」自体を正しく押さえなくてはならない事柄については、印刷教材に掲載したり、穴埋め、用語選択をするようにレイアウトしています。また最新の動向や、ある事柄・事実を考察する上で必要となる情報、例えば高齢化の進展を示す動的なグラフや、諸外国との比較、については、資料を見せて考察を促し、解説を加えて、要点のみを印刷教材にメモ書きで加えるようにしております。時には余白を多く取り、生徒自身に能動的なメモを促しております。投票率の推移や、国連分担金の推移、各種財政資料など、過去の試験で出題されてきた(だろう)重要資料については印刷教材に掲載するようにしております。資料については、授業の冒頭に生徒を惹きつける効果を狙うことも少なくありません。この場合は、その学習項目で一番伝えたいことを可視化できる資料を提供するようにしています。参考までですが、政経の初回は「その時期の最も印象的かつ学習項目の狙いに沿ったニュースとその背景資料」、倫理では「アマラとカマラ」の写真や、「格言」などを投影すると良いでしょう。
授業時間が足りません。必ず授業をするところと生徒に学習を委ねるところで分けているのでしょうか。生徒に学習を委ねている分野があるなら、教えてください。
まず、「倫政」の共通テスト対策、という前提でお答えいたいたします。暗記ですむ語句については指示(マーカーや下線)のみ行います。また各自学習するように促す場合もあります。ただし理解が必要な箇所については、軽く事前に調べて講義を受けるように指示しております。この時生徒が調べやすくなるように、対比構造を意識して指示を出します。例えば、「法の支配と法治主義」、「名目GDPと実質GDP」、「マネタリーベースとマネーストック」、「経常収支と金融収支」、「経験論と合理論」などです。優秀なレポートについては本人の承諾をとって教室で投影し、それをベースに、その項目の導入部分の講義を行ったりもしております。こうすることで生徒たちは負けじと次回の「調べ」に向かっていくのです。また、センターの過去問などを通して、直接問題演習を行うことで、理解と定着を行うこともあります。事前学習と演習を組み込むことで、講義の効率化を図っております。


藤井 健志
小論文
【7/30(土)実施】

看護学部の入試小論文ならではの、必要な対策はありますか。
「一般には小論文は論理的な思考の跡を、正しく、それに相応しい日本語で論述できるかどうかを評価する科目」であって、受験生の思想のありよう自体を評価するわけではない、と言えるでしょうが、医学部、看護学部、教育学部のように職業に直結する学部の入試ではやはり「職業適性検査」的な側面があることも否定できないかと思われます。ニュルンベルク綱領やナイチンゲール誓詞、そして日本国憲法における基本的人権の尊重についてなどは最低限理解しておく必要があるかと考えます。
小論文について何をどの程度まで指導すべきか悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
論文は最終的には書き手の主体性によって成立するものですから、スタート地点で小論文とは何か、そしてその基本的な型はどのようなものかを理解させ、ある程度の書く経験を積ませたら、あとはこちらが教えることよりも自分で調べて、考えて、書くことにウェイトをかけていくことも必要かと思います。その際に毎回指導者が目を通し、添削できれば理想的でしょうが、集団授業でキャパシティの問題があるようであれば、生徒同士の答案相互評価の機会を持たせることも有効かと思います。
小論文の質問ではありませんが、現代文の授業に要約を取り入れているもののあまり上手くいきません。要約を指導するポイントがあれば教えてください。
生徒からの「要約が書けない」「論述の答案が書けない」という訴えの原因を探っていくと、その大半がそもそも課題文が読み取れていないということが多いように思います。部分部分は一生懸命読んでいるが、全体に理解が及んでいないという状態を脱却させるには、まずは課題文の形式段落を意識させ、次に形式段落同士の関係性、そこから意味段落へと視野を広げ、課題文中にある情報の数をなるべく少なく整理させることが大事かと思います。これができれば、自分が書く文章の構成にもプラスの効果が表れます。
受験生の指導には慣れているのですが、1年生の指導には不安を感じています。どのような点について受験生向けの指導から調整をおこなうべきでしょうか。
高校1年生ではまだ論文形式の文章を書く以前に読むこと自体も経験していない生徒が大多数かと思います。まずは知的な文章を読むのに必要な語彙を高める。そのための基本となる漢字の学習をしっかりとする。つまりオーソドックスな国語学習からのスタートこそが大事であるように思います。ある程度読めるようになってくれば、旧センター試験第一問の、本文の構成を問う問題等を利用して、ますは他人が書いた文章に「何が書かれているか」に加え「どう書かれているか」を意識すること辺りに発展してゆくとスムーズではないでしょうか。
国語科の教員以外が小論文指導を行うにあたって、どのような点に気を付けて指導をすればよいのか、国語科教員からアドバイスできることも含めてご教授願います。
国語科以外の教員との連携が取れる環境は素晴らしいと思います。特に、教員養成課程に出願する生徒にとっては「先輩」のアドバイスは心強いですね。たとえば「表現面の指導はこちらでするので、内容面で気づいたところがあれば一言アドバイスしていただけないか。」等声掛けして、より多くの教員との連携ができれば素晴らしいですね。生徒が混乱してはいけないので、表現面は国語科、内容面では専門の教員といったようなかたちでざっくりとでも担当領域を決められるのが望ましいかと思います。


鈴川 茂
生物
【7/31(日)実施】

学校推薦型選抜などでの生物の口頭試問に対する勉強方法を教えていただけないでしょうか。
生物の口頭試問では、次のような内容が問われることが多いです。①教科書に記載されている用語や生命現象の説明が要求される。②ゲノム解読や遺伝子治療、脳死と臓器移植、温暖化や持続可能な開発などの最新知見に関する生徒さんご自身の考えを問われる。①に関しては、知識論述タイプの問題を解かせる課題を与えます。②に関しては、教科書会社が発行している資料集などに掲載されている「小論文対策」の課題を生徒さんに与えてみるとよいです(第一学習社のスクエアでは巻末に掲載されております)。①と②の課題を与えた上で、先生がその課題の中から問題をいくつかピックアップし、その生徒さんに実際に口頭で試験を行うとより効果的かと思います。
授業や定期試験と共通テストの間に乖離があります。共通テストで点を取るための授業や定期試験の工夫を教えてください。
定期試験の中に、実際の共通テストの過去問(プレテストの問題も含む)やその類似問題を導入してみるのはいかがでしょうか?生徒さんには、「定期試験の最後の大問は、実際の共通テストからそのまま出すぞ!」と事前に告知しておいて、生徒さん自身にも意識をさせておき、共通テスト形式の問題に慣れるように仕向けておくと良いと思います。共通テストの問題は思考型の問題が大半を占める傾向ではありますが、知識が全くない状態では太刀打ちできないものが多いので、知識確認にも最適かと存じます。また可能であれば、定期試験の後に共通テストの問題解説を十分な時間をかけて行うと、共通テストでの得点力へと繋がるかと思います。僕自身、共通テストで点を取るためには、生徒さん自身がきちんと共通テストに向き合うことが必要であると考えております(実際、過去問演習を後回しにして、自分の実力と向き合わない生徒さんが多いように感じております…)。
教える内容が多く、時間数がいつもギリギリになってしまいます。日々の授業で早く授業を進める工夫を教えてください。
僕の場合、理屈なしの覚えるのみの暗記内容は、穴埋め形式のプリントを準備して、その穴埋めを宿題にすることで時間短縮を図っております。暗記内容は、生徒さんのペースで確認してもらっております。その代わり、説明が必要な内容はたっぷりと時間をかけて説明しています。例えば、「減数分裂の過程」を説明する際、対合面(第一分裂)での染色体の分離と縦裂面(第二分裂)での染色体の分離の違いや、二価染色体や対合の形成の意義(乗換えや組換え)については詳しく説明しますが、「動物の配偶子形成」を説明する際は、「もう減数分裂の原理は分かっているから大丈夫だよね!」と念押ししたうえで、穴埋め形式のプリントで対応します。「一次精母細胞の核相が2nで、二次精母細胞の核相がn」といった内容は、生徒さん自身で確認してもらいます。このように単元ごとに教える時間数を変える工夫を行うことで、どうにか単元を消化しております。
文系の生物基礎の授業で用語名等、知識は個人の学習に任せるべきでしょうか。授業では、思考力を使う問題をたくさん扱いたいと考えているため、悩んでおります。
共通テストの生物基礎の場合、知識だけで解ける問題が2~3割程度、思考力を使う考察問題や計算問題が7~8割程度ですので、知識偏重側の授業では、効率が低いと思われます(僕は受験学年の演習授業では、このデータを年度初めの授業で明示し、考察問題の重要性を伝えております)。知識問題は教科書を見れば簡単に解けるものばかりですので、その確認は個人の学習に任せて、考察問題などの対策に重点を置くべきであると考えます。しかし、知識を使って思考するタイプの考察問題もあるので、バランスの良い配分で知識も教えます。例えば、免疫分野において、2020年センター第2問や2021年共通テスト(第一日程)第3問を扱う際には、「樹状細胞の形状」や「B細胞とT細胞との相互作用」「ワクチン」に関する基礎知識を確認してから解かせております。その上で、データ分析の重要性を生徒さん自身に実感してもらっております。
生物の授業のアクティブラーニングの方法論を教えてください。
①一筋縄ではいかない実験考察問題や②答えが複数ある実験考案タイプの問題を課題にし、グループで解かせ、授業を生徒さん自身の発表形式にするのが非常に効果的です。実際にある校舎で実践しておりましたが、ほぼ全員が現役で第一志望に合格いたしました。①は日本医科大学や順天堂大学などの多くの実験データが存在する問題が良いです。共通テストの第1回プレテストの問題も非常に適切です。②は2016年名古屋大学第3問、2012年龍谷大学第3問、2017年東京医科歯科大学第2問(本セミナーで扱いました!)の問題など、自由に考案できる問題が良いです。また、①や②とは違った形式ではありますが、本セミナーで扱いました1994年の東京大学の問題など、少し難解な計算問題を課題にしてグループで解かせるのも良いです。生徒さん自身、周りの人との考え方の違いに触れ、また議論を交わすことで、思考力がぐんぐん育っていくと思います。


漆原 晃
物理
【7/31(日)実施】

漆原先生が電位の導入について説明される際のポイントを教えてください。
電位概念はその後の回路や電磁誘導でも大切になる概念です。まずは、高い低いのイメージづくりが大切です。モノは天井のように高いところから床のように低いところに落ちるという当たり前のことを確認します。同じように、試験電荷(+1C)も高いところ(高電位)から低い所(低電位)に「落ち」ます。よって、正電荷の近傍は高電位、負電荷の近傍は低電位となります。それはまるで、高電位の地点は高い土地、低電位の地点は低い土地として、坂を転げ落ちるボールを上空から見ているような感覚です。次に100Vとは何かということについて、「0Vの基準点から+1Cを電場に逆らってその点まで運ぶのに要する仕事が100J必要なときに100Vとする。」という定義だけを繰り返し徹底させます。そして、「よって100Vに置かれた+1Cは投入された仕事分の100Jの電気力による位置エネルギーを持つ」と結論付けます。以上のルーティーンを電磁気の毎回の授業の初めに柔軟体操のように行います。
物理の教科書では微分積分・微分方程式等の数学をできる限り表に出さない形で解説していることがほとんどですが、(交流回路等は特に)なぜそのような計算をするのかについてしっかり説明しようとすると難解になり、それを避けようとするとあまり説明になっていないような気がします。漆原先生はどの程度説明すればよいとお考えでしょうか。
基本的には「微積は単なる道具、乱用はしないが必要に応じて使う」というスタンスです。時間微分は横軸tの曲線のグラフの接線の傾きを見る道具。積分は曲線のグラフの面積を求める道具です。曲線変化するものに対しては必要なので、sinの微分はcos、cosの微分は-sinということはグラフの傾きから理解させしっかりと計算できるようにさせます。その上で、あくまでも大切なのは物理的イメージなので、交流のコンデンサーであれば、電圧のsinグラフと微分して得られた電流のcosグラフを比較して「これはまず電流が流れ込みそしてやがて電気がたまり電圧が生じることを表しているね」と単なる計算に終わるのではなくその結果の物理的イメージを丁寧にフォローしていくようにしております。
漆原先生が授業づくりにおいて大切にされていることは何でしょうか。
まずは電位の質問にもありましたように「概念のイメージづくり」に注力します。身近なものや例え話様々なものを活用して、ざっくりとした概念をなるべくユニークな話しぶりを交えながら構築していきます。そして概念の核となる「言葉の定義」です。ここでは厳密性を追求するのではなく、なるべく具体的でシンプルな言い切り言葉で、例えば加速であれば「1秒あたりの速度の変化」のようにワンセンテンスで頭に入る言葉で定義を言い換えます(後に詳しい定義を「今の瞬間のペースで1秒変化したら」と追加していきますが、導入時はなるべくシンプルさを重視します)。
担当クラスには様々な学力の生徒が混在しています。どのような授業構成を意識すればよいでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
物理は基礎が出来れば応用が効くので、基本概念をしっかり教えるというスタンスでいいと思います。そして、どの分野にも「これさえ出来ればどんなひねられた問題でも同じように解けるという普遍的解法」がありますので、それをしっかり教えればいいと思います。その上で、「これは重心速度の概念がある人だけの別解だよ」などのように、別解の形で上位生徒にも対応していきます。授業で扱う問題は(1)から(5)までですと(1)(2)は基本問題、(3)(4)は標準典型問題、(5)は応用問題というのがバランスがいいと思います。場合によっては(6)でチャレンジ問題として創作したひねりを利かせた発展問題を加えます。
原子分野の指導法について漆原先生が考える重要なポイントは何でしょうか。
例えば光電効果では、まずはなぜ光の粒子性が提唱されたかを、それまでの概念では説明できない光電効果の実験から歴史を追って説明します。原子の問題はほとんどが歴史的実験に関する問題です。そして歴史的実験の問題ということは、その実験を理解するためのストーリーというものは毎回の定番のお決まりなものになるはずです。その定番ストーリーをまるで気体分子運動論のように「ステップ式」で提示していき、そのストーリーを例え話を駆使しユニークに展開して一通り説明します。そしてそれを各生徒にもう一度再現できるように繰り返し練習させます。ストーリーとしては「光電効果3大公式2大グラフ」「コンプトン効果」「電子線回折」「ボーアモデル」「X線の発生」「3大放射線」があります。


宮路 秀作
地理
【7/31(日)実施】

地理の授業の中で防災の話をしてもいまいち生徒にとって実感がわかないようです。防災ということをある程度地理の授業の中で意識させていきたいのですが、どのように授業に組み込んでいくべきなのかを知りたいです。
人類史を紐解けば、科学技術の発達によって災害被害が減少してきたことは間違いありません。日本は世界の全陸地面積に占める国土面積の割合が小さいのにも関わらず、災害被害額が大きい国です。だからこそ防災の意識を持つ必要があるのですが、喉元過ぎれば熱さを忘れるといった様子で、大きな災害が起きても数年も経てば忘れてしまいます。頭では分かっていても、防災教育の必然性を理解できていません。だからこそ、日本列島がもつ自然環境をしっかりと理解させる必要があります。ハザードマップや地理院地図での色別標高図など、道具はいくらでもありますが、道具ありきではなく、これを土台として「どうすれば命が繋がるのか?」を意識させるような授業が重要です。
生徒を地理の授業にひきつけるトークの例を教えてください。
方向性としては、「そうだったのか!」と生徒たちの知的背景にある疑問点を解いてあげることが重要だと思います。例えば、「世界最大の大豆輸入国が中国」であることを如何にして理解させるかを考えてみてください。輸入するということは、「生産が需要に追いついていない」わけであって、「なぜ需要が増大したのか?」を探る必要が出てきます。そして、「どこの国が中国へ大豆を輸出しているのか?」、「その国はどのようにして大豆生産量を増やしてきたのか?」など、知識が連鎖していきます。こうしてできた物語を「景観」といいます。私は、この景観を見せてあげることを意識しています。
私自身、さまざまな業務でオリジナル問題を作成することが多いのですが、宮路先生はどのような方法で問題作成を作成されているのでしょうか?
作問する際に、まずはテーマを決めます。テーマを決めたら、それに関連する論文を探します。インターネット上では様々な論文にアクセスできますので、見つけるのは容易です。そして論文を読み込み、高校地理の内容でも解答できるだろうと判断したものを用いて、そこから作問しています。国公立二次試験や共通テストなど、何を主眼に置くかによっても出題形式は変わりますが、出典元が大きく変わることはないと思います。また大学入試は受験者を選別する必要があるため満点を取らせてはいけない試験ですが、学校での定期試験などは満点を取らせても良い問題です。その違いを忘れてはいけませんので、難問奇問を羅列すれば良いというものではありません。
資料、統計などをもとに考察させるとき、どのように生徒に考察を促していけば良いでしょうか。いつもただ、説明するだけになってしまうので、何かもう少し生徒が主体的に考えられる方法はないかなと思っています。
統計や資料というのは、景観の一側面に過ぎないと思っています。ニュージーランドの最大輸出品目は「乳製品」であり、これを知るのではなく、納得させることが重要ではないでしょうか。ニュージーランドは西岸海洋性気候下であるため、永年牧草に恵まれます。そのため飼料コストが低く、収益性が高い産業です。また人口が480万人程度と少なく、国内需要が小さいため輸出余力が大きい。といった事実を積み上げていくことで、納得が生まれていくと思います。こうやって得た知識は応用が利くようになり、また「教わった知識」ではなく「獲得した知識」ですので身につきやすいです。
宮路先生が生徒に地理を教える上で一番大切にされていることは何でしょうか。
中学地理においては、「地理嫌いを作らない」ことが大変重要であるように思います。そして高校地理においては「地理が日常生活の延長上に存在するもの」であることを意識すべきと思います。世間では、相変わらず地理が何を学ぶ科目なのかの認識が低いのが現実です。歴史には解釈がありますが、地理は事実です。だからこそ、日常生活の延長上に存在するもののはずです。「面白い!」と思う気持ちは何がきっかけなのかは生徒がもつ知的背景でも変わってきますが、やはり「地理って面白い!」ということを実感させることが必要だと思います。毎日、世界の至る所で何かしらの出来事が起こっているわけですから、これらを取り上げ解説してあげることも我々ができる授業スタイルの一つではないでしょうか。


西谷 昇二
英語(1)
【8/6(土)実施】

生徒が授業に飽きないように工夫できればと考えています。何かアドバイスをいただけないでしょうか。
授業を始める際に、生徒に授業の目標を意識させることが重要です。教師から提示されるものであっても、生徒が目標を意識することで、生徒が主体的に学ぼうとする意欲につながるかと思います。予備校の授業では知識を伝達する講義形式が多いですが、高校の授業では、より変化をつけて授業することができるかと思います。同じ刺激を与え続けると人は誰でも飽きてしまいます。1回の授業の中で説明をひたすら続けてしまうとそうなってしまいますので、生徒主体の活動の時間をとることも授業にメリハリがついて良いでしょう。
西谷先生が考えるここ数年の大学入試英語長文頻出テーマがあればご教示ください。
頻出問題のうち、エネルギー問題、資源問題、環境と経済に関する問題が昨今特に取り上げられているテーマだと考えます。地熱の恩恵、水の危機について、風力発電の再評価、気候変動を抑止するためには等、人類が生きのびていく上で考えるべきテーマが出題されています。
高1生の指導を担当していますが、生徒間の学力差が大きく基礎力が不足した生徒も一定数います。まずは学力差を解消しつつ大学受験を視野に入れた指導を目指したいのですが、どのように進めていけば良いでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
まず、クラス全体で共有できる共通の達成可能な具体的な目標を設定することです。例えば偏差値を現状から3か月で5アップする、1学期間で読む英文の単語を全て覚える(学期末にはテストをする)、クラスのレベルが高い場合は、英文中の構文や論理を全て説明できるようにする(後にチェックテストをする)などが考えられます。できるだけ生徒全員が到達可能な目標がよいでしょう。あとは、そのために必要な授業を提供することです。その目標に到達できる方法を生徒に現実的に実感させてあげることが大事です。
生徒とのコミュニケーションに悩んでいます。生徒に質問する際に気をつけるべきことや大切なことは何でしょうか。また、生徒が正答できなかった際にはどのようにサポートしてあげれば良いでしょうか。
昨今、教師から質問を受けることに慣れていない生徒が多くいるように感じます。授業内で話していないことを質問するのではなく、話した内容を確認する質問を行うと生徒が答えやすく、復習を兼ねることができるかと思います。生徒が正答できなかった際は、生徒が間違えた答えのプロセスを確認し、正しい考え方を共に確認する流れがよいでしょう。
単語を覚えることができない生徒が一定数います。どのように指導していくと効果的でしょうか。アドバイスをお願いいたします。
単語を覚える際に、「目」だけで単語帳をみて覚えるのでは記憶に定着しません。
「目」だけでなく、自分の「耳」、「口」や「手」を使って脳を刺激することで、格段に定着するようになるかと思います。「授業で先生が複数回単語を発音するのを聞く、または、授業外で単語の音源を繰り返し聞く、音を聞いて自分で音読する、スペルを書き写す、繰り返し書く等」を行うように指導すると良いでしょう。


大山 壇
文系数学
【8/6(土)実施】

解答の記述の仕方について、どのように生徒に指導してよいか分かりません。おさえておくべき基本についてアドバイスをお願いします。
自分が考える記述答案の書き方の基本は「操作ではなく理由を書く」だと思っています。
よく「両辺を2乗すると」という記述が見られますが、採点者からすれば次の式が2乗された結果であることは見れば分かります。
そんなことより、2乗しても同値であることの保証として「両辺ともに0以上なので」などの理由が大切です。
結局のところ、このようなことを理解していないと『同値変形』ができないから解けなくなってしまうのだと考えます。
同じ教室に成績上位の生徒と成績下位の生徒のどちらもいる場合、両者にとって満足度の高い(得るものが大きい)授業をするためにどのような点を意識すれば良いでしょうか。
これは学力差よりも目的意識の差の方が大きいと思います。
学力差があっても同じレベルで目的意識を持っていれば、上位にあわせた授業・教師が望むレベルでの授業を展開して問題ないでしょう。
一方、難関大を目指す生徒もいれば定期テストでなんとか赤点を免れたい生徒もいるような場合、私であれば基本的には下のレベルにあわせて授業することになると思います。
もちろん基礎の徹底は上位の生徒にも必要なことです。
ただし、上位の生徒には追加のプリントや問題演習の指示をプラスするなどしてフォローするのが現実的な方法であると考えます。
現在高校1年生と2年生に向けて授業を行っています。勤務先は進学校と言われるレベルの高校ではなく、多くの数学嫌いを抱えています。
最近の生徒の傾向として計算力の低下が気になっています。
授業の進度もあり基礎的な練習に時間を注ぐことも難しいのですが、なんとか計算力を身につけさせたいと考えています。大山先生、何かアドバイスをしていただけますでしょうか。
授業の進度を理由に、生徒を置いてけぼりにしてしまうのは本末転倒ではないかと感じます。
数学嫌いの生徒に、教科書の応用例題・発展事項をすべて指導する必要があるでしょうか?
勿論、まったく触れないというわけにもいかないのですが、それ以上に基礎計算の練習に時間をかけることを優先した方が良いと考えます。
指導者にとって大切なことは「何を教えるかではなく、何を教えないか」だと思います。
授業をしても、全然生徒は問題が解けるようにはなりません。
授業は分かると言ってくれるのですが、解決策としては問題をひたすら解かせるしかないでしょうか。
生徒たちが「解法の理由」を理解しているかがカギではないかと考えます。
ただ「解法の手続き」を覚えるだけだと短期記憶はできても、すぐ忘れてしまいます。
指導者もそのことを意識して伝えることが大切だと思います。
大山先生が数学の問題を作問するときに意識していることや大切にしていることはありますか。
模試などで作問するときに意識していることは
①勉強して欲しい内容を入れて
②難しくなり過ぎないようにして
③苦手な生徒でも途中までは手が出せるように誘導をつける
です。
やはり、基礎をきちんと勉強している生徒の努力が結果に結びつくような問題を作りたいと常に思っています。


青木 邦容
現代文
【8/6(土)実施】

教科書には入試問題以上に長い文章が掲載されていますが、そうした長文の指導が苦手です。何かコツがあれば教えてください。
長文を講義する際にはたとえば、第1回目「全体の構造と要約」第2回目「特に大事な箇所、難しい箇所はここだ!」第3回目「もしこのような設問が出題されたらどうするか」―というように、ひとつの文章を複数回で消化するようにすれば良いと考えます。その際に、前掲した例のように、それぞれの回のテーマを掲げ、同じ文章を扱っていても生徒の集中力が切れないようにします。またこれによって講義スケジュールが厳しくなった場合は、先生方の判断で(受け持たれているクラスの様子などによって)、「今はこれは必要ない」「この文章は学ぶべきポイントが少ない」と思われる文章は、その中で覚えておくべきキーワードの説明などに留め、進度を調整されるのが良いかと思います。
現代文の勉強法が分からないという生徒に対して、本を読むようにアドバイスしますが、読書習慣がありながらもなぜかテストでは点数が取れないという生徒も一定数います。そのような生徒に対してはどのように指導すればよいのでしょうか。
単に問題文を読んで設問を解くという作業を漫然とやらせるのではなく、語彙、背景知識、文章内容、解法等、分野に分けて指導を進めるのが効果的です。つまり「英語」のようにシステマチックに勉強させることで、努力が結果に繋がるという感覚を生徒に覚えさせます。また背景知識を教授する際には、できるだけ身近な例に触れるようにすると、生徒は現代文の中身と現実社会や自らの生との関連を見出し、それまでに無かった興味を持ち始めます。
またセミナーでも申し上げましたが、生徒に作問させるという手法も有効だと思われます。特に「読書習慣」がある生徒であるならば、読んだ本について(モデルの入試問題を示した上で)作問させることで、現代文の設問にどのようにアプローチすべきなのかといった「見方」が身に付くと思われます。
定期テストや実力テストの作問に苦しんでいます。何かアドバイスをお願いいたします。
ひとつ御提案させていただきます。まず教科書内の文章から、1500~2500字程度の箇所をピックアップします。その箇所の一部と関連する(テーマが同じもの等)文章を教科書以外から探します。探し方としては、セミナーでも紹介させていただいた「現代文問題データベース」(明治書院)や旺文社の「全国大学入試問題正解」などを利用されるのが良いかと思います。特にデータベースはキーワードや著者名で、関連文章を検索できるので有用です。例えば教科書に「グローバリズム」について書かれた文章があった場合、グローバリズムについて同じく書かれた、あるいはその文章を書いた著者の他の文章を探します。前者を文章Ⅰ、後者を文章Ⅱとして、適宜文章Ⅱに付いている設問を参考にしたりして、あるいはそれらを利用しながら、文章ⅠⅡにわたる設問を作ります。全体的な文章量や難易度は、受け持たれているクラスの学習到達度によって調整してください。
共通テスト対策を普段の現代文の授業の中にどのように取り入れていくか悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
まず50分の授業内で、生徒に解答させ、その後、先生方の解説を聴かせるというパターンは避けるべきです。ちなみに、このパターンを成立させる場合、最低でも50分×2コマ必要です。そこで高校で入試問題を解説される場合は(担当されている生徒にもよりますが)、ブロック方式が有効です。ブロック方式とは、ある文章を読解するのに必要と思われる知識を①語彙②背景知識③解法などに分け、それぞれの分野に対応したプリントを学習させ、その後にテストや授業を行うという方式です。現代文の勉強方法を教えることができるだけでなく、体系的に勉強を続ければ読解できるようになるという印象を生徒に持たせることができます。また、セミナーでも申し上げたように、実際に出題された形のままで使用しなくても、その時々で先生方が「今回はこれをポイントにする」という意識を持ち、それに応じた設問だけを解かせて講義するという形で十分効果は上がると考えられます。
授業中の生徒への発問や問いかけに関する質問です。どのような内容についてどの程度の量や難易度で行うべきでしょうか。
「正解はどれか」など、生徒の学力が周りに露顕するおそれのある質問は避け、例えば文章内容に関して、「〇行目から〇行目まで解説してきたけど、◯◯さん、どこが一番難しいと感じた?」と生徒の理解を確かめる質問をするのが良いでしょう。これで生徒がどの辺りで躓いているかを先生も把握でき、今後の授業の参考にすることも可能です。また、文章中のある箇所について先生が十全に解説した後、「この箇所についての具体例を、自分の興味があるもので作ってみよう」という、生徒が自分の今持っている知識で対応できる課題を出すようにします。これを数人の生徒に黒板に記述させるのも良いと思います。いずれにしてもポイントは、国語は「手の付けられない教科だ」と生徒に感じさせない雰囲気を作るという点だと思います。


佐藤 幸夫
世界史
【8/6(土)実施】

新課程での共通テストで、『歴史総合』がどのように出題されると思われますか。
2025年1月からの『歴史総合』+『世界史探究』または『日本史探究』をセットで受験しなければいけない受験スタイルに変わることはご存じかと思います。事実上、『歴史総合』が世界史+日本史をカバーしていることを鑑みると、それぞれの探究科目がそれ以外の時代になってしまい、入試問題としてはやや不自然に。さらに点数が200点になってしまうのも気になりますし、『歴史総合』『地理総合』『公共』という試験の受け方もあります。
よって、あくまでも私の予想にすぎませんが、『歴史総合』で大問2問・『世界史探究』で大問4問となり、『歴史総合』に関しては、『日本史探究』での受験者、『地理総合』『公共』での受験者との共通問題にしてくると考えています。内容に関しては、基本共通テストを踏襲し、知識少なめで解ける正誤問題や資料・地図・グラフを用いた簡素な読み取り問題になる気がします。大問1つで小問6問程度(歴史総合は12問)と予想されるので、近現代を広く浅く出題してくることでしょう。世界史と日本史が重なり合う「明治政府とヨーロッパ」「日本の大陸進出」「戦後の日本の復帰」「日本の国際的な活躍」あたりが重視されると思われます。
歴史総合で近代から教える際、その前提知識となる古代~近世の部分へどう触れるかについて、佐藤先生はどう教えるご予定か教えてください。
現場の多くの先生の悩みのようです。そう言った意味で『歴史総合』の位置づけは、本当に歴史をきちんと理解させることにおいては、“ナンセンス”なものだと言わざるを得ません。イスラーム教の成り立ちを知らずにテロの話をする、民族の歩んだ歴史を学ばずに現代の民族紛争を討論する、古くからの東西交流関連(大航海時代など)を知らずにいきなり19世紀のヒトの移動について学ぶ‥‥など。
とは言っても創設されてしまったモノですから、その利点を受け入れるとして、古代~近世の“より必要とされる単元・項目”は『歴史総合』とは別な時間を設ける必要があるでしょう。限られた時間の中でのやりくりなので、『歴史総合』で扱う宗教・民族対立や東西交流・日中&日朝関係史などに関わるモノだけピックアップするのが良いと思います。3~5コマ分を割くのは仕方ないかもしれません。テーマ史的な取扱いになりますね。①宗教史、②民族史、③東西交流史、④日中関係史みたいな枠を作るのがベストでしょう。
生徒にとって身近なウクライナ情勢などを理解するためには、冷戦などの現代史の学習が重要ですが、時間数的に現代史の時間が少なくなってしまいます。現代史取り組みの工夫等ありますでしょうか?
高校によって科目・教科の設置の種類や形が違うのでなんとも言えませんが…。「ウクライナ情勢」「台湾有事」「香港問題」「北朝鮮問題」「シリア・イエメン内戦」「環境問題」。いずれも、世界史選択者だから必要なモノなのではなく(多少は試験でも出題されますが…)、“地球人”として必要な知識です。なので、あくまでも歴史の授業は教科書に沿ったレベルの話に止め、これらの“国際情勢系”の話題はホームルーム的な時間があれば、そこで生徒の意見も交えながら話をしていくのが理想なのでしょう。文系・理系関係なく、大人になる前に興味を持ってもらいたいもの。細かく知りたい人は世界史の授業に出てみませんか?的な冗談もありかとは思います。
地理が専門の教員です。今後の歴史総合指導に向けて世界史と日本史の関連を如何にして学んでいけばよいか悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
あくまでも、個人的見解になります。現行の世界史の教科書には沢山の日本史用語が載っています。19世紀以降の東アジア史(アヘン戦争以降)に限定すれば、全体の2割に日本史が関わっています。
この話は日本史専科の先生にもよくお話しています。1つ前の学習指導要領の変更で、「日本と世界のつながり」「東西交流史(ヒトとモノの移動)」重視がうたわれたことで、教科書・用語集の内容が大幅に変更になっています。ですから、我々世界史専科の講師の目線で言ってしまえば、わざわざ『歴史総合』を新設せずとも、世界史の単位数を増やしてもらえれば十分といった見解になっています。ですから、とりあえず、アメリカ独立以降の世界史を学んでみては如何でしょう。とりあえず、第一次世界大戦前夜までのヨーロッパ史(各国史で)、その後に列強によって植民地化されたアジア・アフリカを地域別に。戦間期も同様にヨーロッパ史を先にアジア史(中国史・インド史が中心)を。戦後史は冷戦の成立~終焉を先に学び、あとは各国史で。これがマスターできてから、日本史の詳細を学んでいくと生徒に教えるときに整理した教授法が取れると思います。
生徒に考えさせる時間を確保し歴史の流れや背景について探究していく指導と教科書に記載されている用語を一つ一つおさえていく指導の両立が困難に感じています。アドバイスをお願いいたします。
現場ではそれに苦しんでらっしゃる方ばかりです。「両立させれば終わらない」が前提であり、「受験の有無によってどちらを重視するかが決まる」という結論になります。「あぶはち取らず」にならないためにも、学校の方針または担当なさるクラスの方針をまず決定することが大切です。受験を考えないのならば、より日本の歴史が世界の影響を受けたところ&日本の歴史がアジアに影響を与えたところをピックアップして生徒を交えた授業ができると思います。受験で必要ならば、生徒に考えさせるのは授業後のレポート提出やその場での簡単なアンケートのようなモノにして、『歴史総合』の良さを生徒が享受できるようにする。この2通りとなるでしょう。あくまでも、妥協的なモノになってしまいますが、文科省の「現場の裁量に任せる」の方針ではここまでが限界かと思われます。


佐々木和彦
英語(2)
【8/7(日)実施】

新教育課程になり「論理・表現」という科目が出来ました。しかし、教科書の内容を見るとある程度英語力がある者を対象としていて、基礎的な英語力(特に文法)が不足している学習者に対する配慮が十分でないと感じました。佐々木先生は今後の英語教育に対して何かしら危惧されていることはありますか。
「論理・表現」の教材見本を見しましたが、教科書次第でレベルは様々であるようですね。「論理・表現」に限らず、advanced levelの教材であれば、基礎的な学力が不足している生徒に対する配慮に欠けるものになってしまうのは仕方がないのかもしれません。ただ、先生が示唆してくださっているように、文法の指導なしには、ディベートのひな型だけを学び、肝心の中身がちゃんと書けない、あるいは、言えない生徒が増えてしまうのではないかという危惧はあります。学習指導要領でも文法指導は否定はしてはいませんが、文法指導の説明については歯切れが悪いですね。たとえば、学習指導要領では、助動詞の指導の説明として、「用法を網羅的に指導するのではなく、実際に活用しながら意味の違いが理解できるようにする。」とありますが、「用法を網羅的に指導せずに、意味の違いを理解させるとはどういうことなのか?」「そもそも助動詞を網羅的に説明することに、それほど時間を要するのか?」という疑問も生じますね。ある程度網羅的な説明をしたうえで、具体的な活用を指導することが重要な気がします。
佐々木先生が習慣にしておられる自己研鑽のメソッドなどありましたらご教示ください。
教えていることが、現状の英語と合わないようでは意味がありません。ですから、入試問題以外の英語にも触れる機会を作るよう意識しています。時々、書店に行って、ベストセラーの英語の小説を買い、暇があれば読むようにしています。読む際には、そのストーリーの中に入り込んでいる自分と、授業ならどう解説するかを考えている自分がいます。(小説の読み方としては邪道かもしれませんが、この読み方が習慣化してしまったようです。)日常的には、一日の終わりに、オンデマンドで海外の連続ドラマを見るようにしています。
情報構造のルールを活用して指導していますが、なかなか生徒達に浸透しません。何かアドバイスをいただけないでしょうか。
何らかの知識や方法を生徒に定着させたい時には、教わったことを使う機会をなるべく多く与え、それが実際に役立つことを実感させることが重要だと思います。英文法であれ、情報構造であれ、教えたことがすぐに定着すると期待することは、教える側、教わる側の両者にとってあまり良いことではないでしょう。英文法が生徒に定着しないとお悩みの先生もいらっしゃいますが、その場合、英文法を教え、それを文法問題で定着させようとしているケースが多いようです。長文読解の教材などで繰り返し文法の確認をしなければ、生徒も文法の利用の重要性が実感できないことでしょう。同じように、情報構造のルールも、その使用が定着するまでは、先生方が辛抱強く、繰り返し、解説することが重要だと思います。
英作文の指導方法について佐々木先生が重要と思われるポイントを教えてください。
まず、作文に重要な文法は定着させるべきでしょう。文型・句・節の概念に加え、名詞の可算・不可算の判断の仕方、それに関わる冠詞などの限定詞(決定詞)の使い方、動詞の時制の判断は最低限定着させないと英語の作文はできませんよね。例文を暗記させるという手もありますが、僕自身は、基本文法の説明が終わったら、実際に自分で英訳させ、添削指導を行うのが一番だと思っています。これは教える側にとってかなりの負担となりますが、基本的な文法を意識して作文できるまでは、何が間違えだったかをその都度指摘してあげることが重要だと思います。自由作文に関しては、講義でもお話しましたように、ディスコースマーカーを使用した型を覚えさせるよりは、抽象的意見→具体化→具体例という説明の流れを作る練習をさせた方が有効だと思っています。
生徒達に文法が定着しません。小テストのように短期間の限定された範囲であれば多少はアウトプットできるのですが、考査や模試の問題に文法を活用しながら取り組むことができているとは言えない状況です。何かアドバイスをお願いいたします。
おっしゃる通り、教えた文法は、小テストで定着度を確認しても、よっぽど優秀な生徒でない限り、読解や作文で活用することはできないでしょうし、活用しようとも思わないでしょう。ですから、教えた文法事項は、読解や作文の様々な場面で、実際にどのように利用すべきかを、先生自身が繰り返し使ってみせないと、生徒が読解や作文で使えるようになることは望めないと思います。まずは、先生自身が、無意識に行っている文法の利用を意識化し、それを絶えず生徒に提示してあげることが重要だと思います。


荻野 暢也
理系数学
【8/7(日)実施】

学校全体で受験指導に力を入れている学校に勤務しています。全国的に見れば高いレベルですが、校内のより優秀な生徒と自分を比較して劣等感を抱いている生徒や、保護者の期待、プレッシャーが大きく疲れてしまっている生徒へのフォローについてアドバイスをお願いいたします。
劣等感や不安は以前の私自身のような怠け者にとって行動する大きなエナジーになると思うので、寧ろそのような優秀な友人が近くにいるということは幸せな事だと思います。
期待されるプレッシャーについてですが、私自身期待される事が少ない人生だったのでよくわかりませんが、「こうであらねばならない」なんて事はないし、その期待に応える事が出来るのはずっと先の事だと伝えていただきたいと思います。今はただ自分が出来る事をやればよいと思います。
教員としては、少しでもいい所を見つけて生徒を褒めてあげればよいのではないでしょうか。
荻野先生が考える「生徒の学力が高まる、生徒が問題を解けるようになる授業」とはどのような授業でしょうか。
理想的なのは授業中に例題解説の後でプリントを配って数値替え問題を演習させることです。昔、代ゼミに入りたての頃高2生を教えた時にそうしていました。定期考査でも、演習した問題の数値替え問題とその類題を出すようにし、そのことを日頃から生徒にも伝えてください。生徒が知っている問題を増やすことから始めるのが良いかと思います。
数学は暗記か否かとよく言われますが、場面ごとのやるべき事、やり方の判断は経験がなければ出来ないと思いますし、ある程度まで覚えることの必要性については、否定出来ないと考えています。
結局のところ自分で問題を解くことによってしか学力は向上しません。こちら側の仕事として生徒が解きたくなるような問題選びが大事です。
それから問題演習の授業の場合、予習が全てだと思います。事前に解けないことを確認したからこそ教師の言う発想法が役立つのであり、面倒な解法で解いてきたからこそ、教師のエレガントな解法が記憶に残るのだと考えています。
生徒の学力に差があるクラスにおいて、授業で扱う問題や教材をどのように選択・作成すればよいですか。アドバイスをお願いいたします。
教材は7割方やや易〜標準、残り3割は東大、京大等の比較的簡単な問題がよいと思います。それらの難関大の問題が一題でも解ければ大きなきっかけになります。
授業中に関しては、ついて来れてなさそうな生徒を当てるようにしていますが、逆効果になることの方が多いです。今の子は当てられることを嫌がるので苦手な子には授業でどうにかするのではなく、個別に声をかけてあげた方が良いかと思います。
この旨のご質問が多かったのですが、姿勢や意欲、学力の違う生徒全員を満足させる授業は不可能だと思います。一旦諦めてから出来ることを見つけてまた始めてはいかがでしょうか?
私が高校生の時は解けた問題に関しては授業を聞きながら先の問題を解いていました。先生がプリントなどで問題演習を指示された時はもちろんそれをやりました。
現在私は予習で解けた問題は赤入れする程度で無理に全部ノートを取らなくていい、威張って座ってろと言っています。
出来る子にはある程度自由を与えた方が良いかと思います。あと先生方の労力は嵩みますが出来る子には、添削などでハイレベルな演習をさせてみてはいかがでしょうか?
生徒達は授業は分かりやすいと言ってくれるのですが、一向に問題が解けるようになりません。荻野先生は何が原因だと思われますか。また、改善にむけてどのようなアプローチが考えられるでしょうか。
計算力の問題だと思います。
指にペンダコが出来るような学習が必要だと思います。
苦手な子にとって数学は最初はいわば体育です。
平方完成、展開、因数分解、理系なら微積の計算などを定期考査や小テストなどに出題するとよいでしょう。
生徒達に自学自習の習慣を身につけさせたいのですが、うまく声をかける方法が思い浮かびません。荻野先生であれば、どのように生徒達を導かれますか。
現実を伝えた上である程度言ったら、あとはもう放っておくしかないと思います。高校を卒業したら、人生すべて自己責任です。
私がこのセリフをいつも言うのは二つ理由があります。
一つは、未来は自分の選択でどうにでもなるということ。
もう一つは、幼い頃のように大人がその子を正しい行動へと強制する力がもはや無いということ。その子がもう大人で、もうこちらの言いなりにはならないからです。


望月 光
古文
【8/7(日)実施】

高校の授業と実際の入試をどのように意識してリンクさせるべきでしょうか。
入試問題を解くとき、私はいつも「高校の授業が重要なのだ」と生徒たちにいってきかせます。現役生には、「今からでも遅くない。とりあえず、明日から学校で先生がおっしゃることをよく聴きなさい」と。ただ、それだけでは説得力がありませんから、「この単語は、単語集には出ていないけど、学校でやる『源氏物語』に出てくるんだよ」とか、「こういう古文常識は、学校の授業で先生が必ずお話になることだから、入試に出ているんだよ」と説明します。そういうと、生徒は、学校の授業はちゃんときかないといけないな、というような顔をします。先生方も、たまには、「ここ、以前共通テストで出たことがあるから、ちゃんと読んでおいた方がいいよ」などとおっしゃってみてください。入試に古文が必要な生徒には効果的かもしれません。
望月先生が日々授業をする際の知識や方法はどこで吸収されていますか。
知識はやはり、実際の古典を読むことから得ていると思います。コロナで時間ができたときには、前から気になっていた『伊賀越道中双六』とか『妹背山女庭訓』などの浄瑠璃をよむことができました。こういうものが入試に出ることはまずないのですが、江戸の文章が出たときの読解には役立ちます。古典の読解には「勘」が必要で、その「勘」は実際の古典を読むことでしか鋭くならないのではないかと思っています。何かの「法則」を覚えることによって読めるようになる、というものではないと思うのです。生徒たちにもよく、学校で教科書を読み、予備校で入試問題を読む。たくさん読むことで、読解力が高まるとアドバイスしています。
大学等で古文や漢文を専攻しておらず指導に不安があります。アドバイスをお願いします。
先生!そんなこと、何も気にされる必要はないですよ。私の周囲を見まわしてみても、古典を専攻していないのに生徒たちから絶大な信頼を得ておられる先生はたくさんいらっしゃいます。問題なのは専門知識がないことではなくて、感動がないことだと思うのです。古典を読んでおもしろいと思わないとか、教えるのがつまらない、とか・・。そういうのは困りものですけど、先生ご自身が古典を読んですばらしいと感じ、それを生徒に伝えることに喜びを感じておられるかぎり、古典の教師としては何も問題ないと私は思います。
有名古文の冒頭などの暗記には意味があると思われますか?あるのであれば、暗記指導についてはどのように活用することが有効でしょうか。
古典の暗記はたいへんいいことだと思っています。他の質問への回答にも書いたのですが、古典をよむには「勘」が必要です。その「勘」は多くよみ、多く覚えることでしか養われないのではないでしょうか。昨年度、国語教師をめざす受験生がおり、漢文ができないというので、参考書も問題集もやらせず、一年間ただひたすら『論語』『長恨歌』『史記』などナマの漢文を覚えてもらいました。それで共通テストの漢文はできるようになりました。句法も何も勉強していないのに、なぜできるようになるのか不思議ですが、音読や暗記は、子供や若い人にはとりわけ効果的だと思っています。もし許されるなら、文法や単語の説明は二の次にして、できるだけ多くの古文や漢文を生徒に暗記させたいと思っているぐらいです。
ネットで調べた口語訳で予習をしてきて、いざテストで口語訳をさせると全くできないという生徒が増えたように思います。特に入試で古典が必要な場合、それでは力にならないと感じます。この場合、有効な方法はあるでしょうか。
昔は「教科書ガイド」でしたが、今は「ネット」が虎の巻なのですね。教材として、ネットにはあがっていないような長文を読ませてみるのはどうでしょうか。東大や京大の入試問題のなかには、読んでおもしろいもの、ためになるものがよくあります。それでいて、共通テストの長文などよりよほど読みやすいのです。注釈書のないものは、授業する側も準備がたいへんですが、注釈書はあっても生徒の目にはふれないという出典は、探せばいろいろあると思います。


犬丸征一郎
日本史
【8/7(日)実施】

国が受験生に求める能力と受験対策の実態がかけ離れており、授業計画の負担が大きいことが悩みです。授業時間の中でやってみたいテーマと教科書内容確認の両立に苦悩しています。アドバイスをお願いいたします。
高校の単位や時間数のことは私は経験していないので分からないところがあるのですが、高校生、特に大学進学を考える生徒さんの場合は、教科書を自分で読む、つまり自学をすることを前提として国のカリキュラムが作られていると思います。確かに、高校によってレベルが異なることは私も承知していますが、そこは「大学に入ったあと」を考えて、鍛えて差し上げるしかないと思います。どんなテーマであれ、先生が重要だとお考えならば、大胆に講義なさり、細かいことは彼らに任せる。音読でもテストでもいいですが、知識は自ら得ようとしないと、残りません。教える側がすべて用意して、栄養満点に「する」のでは生きていけないので、自ら栄養を吸収しないとまずいと思ってもらうほか、ないでしょう。歴史総合を考えますと、生徒には川北稔『砂糖の世界史(岩波ジュニア新書)』を、先生方には同『世界システム論講義(ちくま学芸文庫)』を是非とも読んでいただければと思います。
犬丸先生が論述指導において大切にされていることを教えて頂きたいです。
まずは、答えをこちら側で決めつけないことですね。問いに対して適切であれば、どのような方向性の答えでも許容します。それから、論理性です。何度も同じ問題を添削し、突き返し、考えていただき、書き直すことで、伸びてくれます。最後は、「だいたいこんなもんだろう」で次の問題へ進むことです。私が作問するときも痛感しますが、論述は、出題が適切かどうか、評価しにくいですよね。仮にあまり良くない問題だと思っても、実際に大学で出題された過去問であれば、なかなか言いたいことも言いにくいです。ただ、全く同じ問題を解くことは少ないでしょうから、何度か書き直しを見て、その生徒さんがその問題と合わないと思ったら、別の課題に切り替えるといいと思います。生徒さんが完璧主義にならないように、対応して差し上げるとよいかと存じます。
今後の共通テストを意識した授業を行いたいと考えています。
犬丸先生は何か工夫をされていますか。
共通テストは、現状では、非常に特徴的な試験だと思っています。あれだけ、多数の人間が寄って集ってこねたりもんだりして入念に工夫された問題は、論述以外では他にありません。ただ、今後は類似の出題が増えるでしょう。私は共通テストを、論述問題と同じ思想性を持ちつつ、それを論述以外の形式で作問したものだと解釈しております。従って考える機会や議論・討論の時間をつくること、小論文のような形でいいので図書室で調べて論じる課題を出すこと、それを校正・推敲すること、教科書をできれば複数冊読み比べることなど、普段の自分の講座と変わらないことしかしておりません。学校現場でどれくらいお役に立てるかわかりませんが、一次の共通テスト、二次の論述と、方向性は同じだと思っています。過去問は少ないので、センター試験を20年分ほど、解くように課しております。間違い方、その修正の仕方、納得の仕方などが、対策になっていくと思います。
史料の説明に関する時間の使い方で悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
去年、今年と古代・中世の経済史・社会史について講義例をご紹介しました。特に荘園制は先生方の関心も高く、実際に様々なご意見やご指摘もいただいております。ありがとうございます。できれば、教える側で討論をする機会などがあればいいですよね。今後は、ご要望があれば近世の経済史・社会史を企画するつもりですが、中学公民の知識が必須になるにつれ、生徒は苦手になる気がします。先生のカリキュラムにもよりますが、前近代が一通り終わってから前近代の経済と社会を話して、近代へ入るなど、大きな視点で時間をとる必要があると思っています。そうするとどうしても、史料を一緒に読むような時間も減りますから、これもそういう回を設けて、その時だけやってみせる、あとは生徒さんに任せるような形にせざるを得ないかと存じます。
日本史探究の指導や入試に向けて準備を進めたいと考えています。どのようなポイントに注意すれば良いでしょうか。
教科書をみる限り、現行の日本史Bと日本史探究で、内容面での違いは少ないと推測しています。むしろ、そこに近現代限定とはいえ、世界史の理解がどれくらい入るか。直接、設問としてでなくとも、世界史の内容を理解・把握することが出題の前提となる点が大きな変更点だと思います。歴史総合を、従来の日本史A程度のものだと考えると危険かと存じます。同時に、誰が見てもあまり意味のないような、細かい知識を問う出題は減るでしょう。平素からお伝えしていますように、受験校の入試形式を問わず、論述問題に取り組んでいただくことをご提案します。歴史総合と探究が合わせて出題されることで、科目内容よりも、問い方、観点などが変わり、より思考力が重視されていく流れです。少子化・グローバル化・AIの時代ですから、少数精鋭みたいな方向性になるんでしょう。競争は激化し、格差も拡大します。生き抜く力を身に着けて卒業していってほしいですよね。


藤田 健司
情報
【収録のみ】

松尾 康徳
情報
【収録のみ】

「情報」の指導を行う上で、藤田先生が最も大切にされていることを教えていただければと思います。
<藤田 健司>
1)まず「何のために情報の内容を学ばせるのか」について、授業者が個々に明確なポリシーを持っていることが必要だと考えています。学校教育における「情報」の授業は、パソコン教室の授業でも、資格を取るための専門学校の授業でもありません。お恥ずかしい話ですが、私は情報を担当し始めた当初この点が明確でなく、かつ大学には指導要領はないためカリキュラムを一から考える必要があり、いま考えると誉められる授業ではなかったように思います。明確なポリシーがない(=授業に一定の方向性がない)ことを学生・生徒たちは感じ取ります。私の場合は大学の授業なので、出席者数が毎週目に見えて減っていくということになってしまいました。とくに初めて情報を担当される先生は大変だとは思いますが、十分に準備されて明確なポリシーを持たれることが大切だと思います。

2)さらに「評価の基準を明確に持って授業する」ことが重要であると考えています。解説授業でもお話ししたように、私は「情報の収集・情報の分析・情報の発信」の3つの要素を評価の基準としています。パソコン作業における見た目の派手さや処理の速さに目を奪われる傾向がありますが、上述のように学校教育はパソコン教室や専門学校ではありませんし、現在の情報Ⅰの内容にはパソコン作業を必ずしも前提としない内容も数多く含まれています。評価の基準を明確に持つことは、学生・生徒に何を掴ませたいか、何を習得させたいかが明確になることにも繋がります。
生徒に対してどのようにアプローチすれば、「情報」へのモチベーションを高めることができるでしょうか。特に文系の生徒や学力下位の生徒を指導する際に悩んでいます。
<藤田 健司>
文系生徒だから、あるいは学力下位だからといって必ずしもモチベーションや習得度が低いとは限りません。解説授業でもお話ししましたが、理系あるいは学力中上位の生徒と同じ方法論で授業するのではなく工夫が必要だと考えています。

1)学生(生徒)が常に手と頭を動かす授業環境を準備する
私は「座学だけでは身につかない」と考えていますので、作業を伴うプログラミングは勿論、それ以外のどのような内容を扱う場合でも、「彼らに何か作業をさせ、その中で学生・生徒が何を自分で考えて掴み取るか」を常に意識しています。その際、1つの作業の中で複数の項目について考えさせて総合的な学習になるように心掛けています。これにより1つの作業に十分な時間をかけることを可能として、「作業が遅い→情報が好きになれない」という悪循環を起こしにくいようにしています。解説授業では地図を作成させることを通して、法律と守られるべき権利について取り上げ、さらにPowerPoint上で道案内をさせましたが、実はあれで終わりではありません。道案内をする場合、天候・対象者の年齢・時間帯等のいろいろな要素によって最適なルートは変わってきます。この問題の解決方法を学生・生徒に考えさせます、パラメーターによって異なるルートを選択することは既存の基本的アプリでは難しいので、彼らの中から「プログラムを組めばよい」という考えが出てくることを期待しています。さらにルート選択におけるいろいろなパラメーターをコンピューター自身が総合的に判断して個々に合った最適解を提示してくれるという話からAIの意味と役割を理解させます。なお何かを作業させるときに、地図のように他人の真似や他人に代わりにやってもらうことができないような題材を選ぶことも重要です。

2)「理系のロジック」で授業を展開しない
ほとんどの解説書などは「構造」の説明から入ります。プログラミングでは、書式や命令文の形などです。もちろん理系の生徒や学力上位の生徒であればこの形で問題はないと思いますし、効率的に学習できるかもしれません。しかし興味・関心度が高いといえない層が対象の場合、「まず書式を覚えなさい」「次にこの命令文と設定するパラメーターの意味を覚えて理解しなさい」と教え込まれても面白くないと思います。解説授業では詳しく話す時間がありませんでしたので、プログラミングを例として1つの授業案を紹介します。
①最初に、プログラムの起動の仕方、入力の仕方、プログラムの実行の仕方を説明します。
②サンプルプログラムを渡して入力させます(命令文の意味や構造は全く説明しません)。
③プログラムを実行させます(ミスなく入力した学生・生徒からは「お~」という声が上がります。またそのようなプログラムを準備します)。
④プログラムを自由にアレンジさせます。最初は怖がって色や文字を変える程度ですが、それでも命令文のどの部分が何を表すのかを「自分で」解析しようとします。
⑤この作業を通じて書式と命令文の形や意味を各自が自主的に習得することを狙います。
⑥さらに「こんなこともしたい」と考える学生・生徒が現れますので、「自分でいろいろ調べてみよう」と促します。
この流れでご理解頂けると思いますが、基本設定を除いて私は何も教え込んでいません。プログラミング入力およびアレンジにおいて必ずエラーを起こす学生・生徒が出てきますので、「トラブルが起こったらフォローしに行くから好き勝手にアレンジしてみよう」と伝えて安心感を持たせることが大切です。実際、私は授業中教室内を駆け回ることになります。
「情報」の指導を行う上で、松尾先生が最も大切にされていることを教えていただければと思います。
<松尾 康徳>
理解を深めるために、「身近な具体例」を挙げることを心がけています。「情報」は他の教科と違い、生活の中に具体例がいくつも見いだせるのが特徴だと思います。情報モラルであればSNSでの出来事、プログラミングであれば日頃使っている家電の機能、セキュリティであればニュースを賑わせた事件など、さまざまなネタが周囲に転がっています。これらを随時授業の中で取り上げることで、「情報」が生活に密着した教科であり、それを学ぶことは生活レベル向上に直結することを理解させれば、自ずから学習意欲は高まっていくのではないかと考えます。
共通テスト「情報」を見据えた指導を行っていきたいと考えております。どのようなポイントが重要になりますでしょうか。
<松尾 康徳>
共通テストを見据えるなら、やはり教科書で言えば後半の「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」が重要と思います。ある研究で、「情報デザイン」などは理解度と生徒の基本的学力にそれほど相関がないという結果が明らかになっています。つまり情報デザインなどでは努力の差がつかないというわけです。共通テストの「情報」が試験時間60分ということを考えると大問3題という構成が予想され、そのうち2題は「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」になるでしょう。公開されている共通テストのサンプル問題もそういう構成です。昨年度まで「社会と情報」を教えられてきた先生にとっては、この2つを教えることにあまり慣れてらっしゃらないかもしれませんが、生徒に高得点を取らせるためにはこの2つにウェイトを置くべきだと思います。
今後、「情報」が入試科目となり、教師が作問したり良問を探すスキルも重要になると考えます。「情報」の問題を作問する/探す場合は、どのような点に注意すれば良いでしょうか。松尾先生の作問や演習問題探しのコツを教えてください。
<松尾 康徳>
セミナーでご紹介した「ITパスポート」や「情報関係基礎」以外に、「情報検定」(通称「J検」)という資格試験も参考になると思います。J検はITパスポートなどよりも簡単で、公的な試験では今のところ一番情報Iに近いレベルです。過去問題はサイト(https://jken.sgec.or.jp/)で公開されております。
新規に作問するならば、例えばプログラミングであれば先生方ご自身で何か簡単なプログラムを作ってみて、作り上げる過程でどういうエラーが起きたかを記録しておき、そこを穴埋め問題にしたりするとおもしろいのではないでしょうか。先生がエラーを起こすということは、生徒にとっても間違えやすいポイントということですから。その時、文末のコロンのようなプログラムの論理に関係がないものではなく、式の計算順、反復時の終了条件、代入やインクリメント(a++のような)などの正しい指定方法を問うといいと思います。