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2023夏期「授業法研究ワンデイセミナー」質疑応答集

2023夏期「授業法研究ワンデイセミナー」
受講者から出た質問に担当講師が答える「質疑応答集」を公開!

2023年夏期 授業法研究ワンデイセミナーの中で、受講者の皆様からいただいたご質問に対して、担当講師がお答えします。共通の疑問を持った現場の先生方に広く共有いただければ幸甚です。
※いただいた全てのご質問にはお答えできませんが、どうかご了承ください。

本部校出講日 科目 担当講師
7/29(土) 化学 岡島 光洋
公共 蔭山 克秀
小論文 國井 丈士
7/30(日) 生物 大堀 求 
物理 木村 亮太
地理 宮路 秀作
8/5(土) 英語(1) 富田 一彦
文系数学 大山 壇 
現代文 笹井 厚志
日本史 井上 烈巳
8/6(日) 英語(2) 妹尾 真則
理系数学 荻野 暢也
古文 梅澤 聖京
世界史 佐藤 幸夫
収録のみ 情報 松尾 康徳

2023夏期 授業法研究ワンデイセミナー「質疑応答集」


岡島 光洋
化学
【7/29(土)実施】

エンタルピーなどが入った入試問題が少ないと感じています。24年度の高3生のために問題をストックしておきたいのですが、何か参考になる書籍や問題はありますでしょうか。
2025年入試よりも前に問題を揃える方法ということですね。エンタルピーの問題については、学校販売専用の教科書傍用問題集から順に、「反応熱」を「エンタルピー」に置き換える形で改編が進んでいます。ただ、エントロピーとギブズエネルギーの入試レベルの問題については、今回はじめて導入される内容なので、「これ1冊で揃います」的な書籍は無いと思います。私が出している問題集では、旧帝大向けレベルで、エントロピーとギブズエネルギーについての計算を伴う創作問題を大問1題分載せました。各社そのようにして、1~2題程度の創作問題を入れた問題集を、来年2~3月から発売すると思います。それらを買い集めるという方法にならざるを得ないと思います。インターネットで大学が公開している演習問題もあり、例えば信州大学の物理化学の問題は比較的とっつきやすいとは思いますが、それでも大学入試レベルを超越し、高度な予備知識を必要とする問題なので、我々が相当編集してやらないと、高校生には到底無理だと思います。
エネルギー図の重要性がエンタルピー導入に伴い増した印象を受けます。個人的には、式の加減算の方が速く解答できると感じるシチュエーションもあり、悩んでいます。この場合問題によって解法を使い分けるべきでしょうか。
私は、従来から「加減法」と「エネルギー図法」の両方で教えています。東大の問題などには、むしろ「加減法」で解いたほうが解きやすい問題もあり、「エネルギー図法」のみで教えるのはリスクが高いと思っています。従来は、結合エネルギーが関係する(原子経由の別経路を作る方針で、比較的簡単にエネルギー図が書ける)場合と、炭化水素の燃焼熱など、作り方が一定している反応熱のみエネルギー図で教えていました。新課程でも、しばらくはこのやり方で様子を見ようと思っています。また、エネルギー図法を教える際は、いきなり多段階の図を書くのではなく、反応式ごとに1つずつエネルギー図を書き、それらを組み合わせるという段階を踏んで(提示したグループワークの要領です)教えています。ただし、時間がない場合は、「図が与えられたら使える」程度までにとどまるかと思います。
エントロピーが入ってくることでギブズエネルギーまで話が進められると思いますが、授業ではどの程度取り入れるべきでしょうか。平衡などの概念もギブズを使って解説するべきでしょうか。
私はギブズエネルギーと平衡の関係については、「ギブズエネルギー変化量が0になるところが平衡状態になるところ」と簡単に教えるだけにとどめようと思っています。すなわち、水の蒸発などの、濃度の概念を必要としない純物質の状態変化を扱うか、一定圧力における炭酸カルシウムの熱分解などのように、全物質濃度を一定と考えることができる条件に絞ろうと思います。そして、濃度と平衡の関係は、「化学平衡の法則」で教えます。「化学ポテンシャル(部分モルギブズエネルギー)」には触れません。入試でも、化学ポテンシャルまでは触れられないはずです。
理論化学や無機・有機化学が苦手な高3生を担当しています。2学期以降に、それぞれの分野についてどのようなアドバイスを送ってあげるべきでしょうか。
要するに、化学全分野が不得意な高3にとっての受験対策ということですね。どこから手を付けたらいいのかわからない状態であれば、過去の模試を、簡単なものから順に解き直しさせ、解法を覚えさせていくしかないのではないでしょうか。これは、素人がコンピューターを使えるようにするためにはどうすればよいかという問題に似ていると思います。一般的な操作を片っ端から説明されても全然頭に入らないので、「手紙を書く」「住所録をつくる」といった、1つの流れを習得し、そのパターンを増やしていく過程で一般的な操作を学んでいく様式になると思います。大学別以外の一般的な模試であれば、最も典型的な良問が採用されているはずなので、その解法を1つずつ再現できるようにしていくと、取っ掛かりになるのではないでしょうか。
生徒達に考察をしたり深く考えたりする体験を与えたいと考えています。ですが、実際には良い質問や尋ね方が分からず、一問一答や曖昧な質問を投げかけるだけで終わってしまいます。どうすれば発問する力を高めることが出来るでしょうか。アドバイスをお願いします。
生徒自身が深く考えるように仕向けるのは大変なことだと思います。生徒も時間に追われているので、レポートを課しても「写すだけ」という生徒が多く、勉強といっても、試験前に問題集の内容を丸暗記するだけという生徒も多いと思います。SSHなどの課題研究で、生徒ごとに違う課題に取り組ませるのが一番だと思いますが、授業の範囲で行うのであれば、生徒を3~4人一組にして、各々のグループに授業をさせ、生徒の投票で優劣を争わせるという方法もあります。無機化学分野は知識分野でとっつきやすいと同時に、深く極めようとすると、化学的な「なぜ」を解き明かす必要が出てくるので、生徒に授業させるには適する分野かと思います。「キミたちの授業の出来でクラス全員の成績が決まります」と生徒に責任を振ってみると意気に感じてくれる生徒もいます。こだわる生徒はとことんこだわり、普段10点20点しか取らない生徒が熱弁を振るったりして面白かったりします。


蔭山 克秀
公共
【7/29(土)実施】

「公共、政治経済」において、公共の倫理分野(公共独自のテーマも含む)をどこまで扱えばよいでしょうか。また逆に、「公共、倫理」において、公共の政経分野をどこまで扱うべきでしょうか。
ワンデイセミナーでもお話しした通り、まず私は公共を、「現代社会と同じ範囲を〝社会での実践・社会との関わり〞といった別角度から考察していく科目」ととらえています。現社と範囲が同じである以上、私ならばまず共通テストを意識して、政経・倫理分野ともに「現代社会時代によく出題されていたテーマ」を重点的に教えます。それから、科目の性質を考えて、「実践・関わり」と関係が薄そうなテーマは、教え方を軽めにすると思います。さらには、あまりに政経的または倫理的なテーマは、それぞれの科目で出題したいため、あえて公共では出してこないのではないかと推測して授業を組みます。共通テスト目線ばかりになってすみませんが、私ならばそのように考えて授業計画を立てます。
公共の授業だというのに現代社会の時代と同じような授業しかできず悩んでいます。どのような点を意識して授業に臨めば、公共の授業として適切な指導を行うことができるでしょうか。
公共という科目の目的は、現代社会と同じ範囲を使って「社会に参画し、様々な課題と向き合い、それを解決する力を養う」ことです。だから「実践・関わり」を重視するわけですが、その最大の理由は、2022年4月から始まった「18歳成人」です。つまりこの科目は、高校を出たら即大人扱いされることになる彼らに必要な「大人になるための学びの場」です。ならば授業の基本スタンスは、現代社会時代のように「知識を与えて深く理解させる」ではなく、「使える知識をどんどん与えて実践させる」になるでしょう。とはいっても、指導時間には限りがありますので、私は、テーマごとに小問を作成して、その考察や解説を実践代わりにしようと考えています。
「公共の扉」分野の指導について悩んでいます。何を生徒に伝えればよいのか自分の中でもはっきりとしていません。蔭山先生は「公共の扉」を指導する際に何が重要だとお考えですか?
「公共の扉」とは、いわゆる「倫理分野」のことですね。色々な公共の学校教科書を見比べるとわかりますが、どの教科書も倫理分野は、全範囲をまんべんなく網羅するというよりも、「価値観」に関するテーマ(つまり「正義・公正・幸福・自由」など)に時間を割いています。ということは、価値観こそが「社会と関わりを持つ上で必要な倫理分野のテーマ」ということになりますので、僕はここを最重要テーマと考えて教えていくつもりです。ただしあくまで公共ですので、倫理のように深堀り(背景や因果関係の説明)はせず、「知識を与えて即実践」でやっていきます。さらに、この場合の実践は、「トロッコ問題」のような思考実験の有名どころの考察や解説を重視します。
公共の問題演習を授業で行うために教材研究をしたいと考えています。どのような情報源を参考にすれば良いでしょうか。普段、蔭山先生が使われているものがあれば教えてください。
公共は2025年度の共通テストから導入される新科目のため、予備校の現場では、まだ実際の公共指導は始まっておりません。ただ、教材研究では、「なるべく多くの学校教科書・資料集・センター試験時代晩年の現代社会の問題(2015年あたりから)・共通テストの過去問・大学入試センターが作成したサンプル問題(2021年)・試作問題(2022年)」などを使います。特に公共が、共通テスト的には「未知の新科目」であることを考えると、学校教科書の比較は重要です。なるべく多くの教科書を見比べ、それぞれの教科書が重視するポイントの共通点を探れば、そこから「科目の輪郭」が見えてくるものと考えています。
共通テストでも重視されている「グラフや資料を読み取り分析する力」を伸ばすことが出来る指導を目指しています。どのような指導法が効果的でしょうか。
データ分析系の問題対策として、以前の私は「なるべく多く資料集に載っている資料を見ておけ」と指示していました。ただその指示では「資料を眺めるだけで考えない」生徒ばかりになってしまったため、その後は「この資料から気づいたことを、何でもいいから5個書き出せ」みたいな指示に変えました。そうすると、生徒も資料を能動的に読まざるを得ず、かなり資料問題への抵抗感を払拭させることができました。ただ生徒から「言葉の意味がわからない資料(例えば「債務残高の対GNI比」など)は読む気がしない」と言われたので、最近はそういう資料の場合、「債務」と「GNI」の意味を先に教えた上で、気づいた点を書き出させています。私の手応え的には、けっこういいやり方だと思っています。


國井 丈士
小論文
【7/29(土)実施】

小論文では、生徒達が初めて読む文章が課されます。そうした課題文に対する読解力を高められるような効果的な指導法はないでしょうか。
「初めて読む文章」ということですが、いわゆる「的中」でもない限り「初めて」なのは当然です。とは言え、教科書でも見かけないジャンルの文章が出るのも事実です。生徒さんにとってはこれまでの人生で見かけない内容かもしれません。読解力とは、受験の場合、出題者の意図を汲んで本文の意味が分かることだと思います。その点では国語教育とは少し違うと思います。私見ですが、本をじっくり読ませるよりは、センター試験(共通テストは過去問が少ないので)の第1問を何題も解いてもらうのが良いのではないかと思います。
普段の授業も小論文の対策につなげていきたいと考えています。有効な指導法のアイデアがあれば、ご教示ください。
古文や漢文は小論文のアイディアの宝庫ではないかと思っています。武士が敵方の首を取って高く掲げるのは、現代の基準では猟奇的ではないか。光源氏が垣間見をしたのは、現代では盗撮、ストーカーではないか。扇子に絵と詩歌を書いて子童が届ける、子童の行動は現代人からすると理解しがたいのではないか。関ヶ原の戦い、これは日本人同士の市民戦争ではないか。古典を現代に置き換える発想を持つことで小論文の具体例が出しやすくなり、人間の行動は変わらない、しかし、その行動に対する評価が一転することを学んでいけるのではないでしょうか。
「小論文は早めに対策」と言い続けていても、国立の後期試験の直前になってから対策を始める生徒もいます。準備ができるのは長くても一か月半程度です。感想文のレベルから始まり、模範解答を書き写させるなどして、どうにか受験数日前には、小論文が書けるレベルに仕上がります。こういった状況で、最後の底上げを試みるならば、スタート時期を早くする以外に安心できる効果的・効率的な指導法はありますか?
「考える」7:「書く」3くらいに考えたらよいと思います。発想と考えが出なければ結局どこかで見たことのあるような答案しか書けないと思います。発想と考えは各教科を通して、教師のちょっとしたサジェスチョンで磨かれます。他の質問への回答の中に古文の時間にできることを書いておきました参考にしてみてください。ちなみに、本年度、現代文の問題文に植物の話があったので「人間は自由に動けるが、植物から見れば、右往左往して動かないと食べ物にありつけない人間に比べたら、動かなくても栄養をとって蒸散していればいいから楽ともいえるよね」と言ってみたら、小論文の答案に書いた生徒がいました。
志望理由書の指導についてですが、総合型選抜を目指しているものの勉強以外に大きな実績の無い生徒がいます。こうした 生徒についてはどのように指導すべきでしょうか。サポートできるヒントをいただけないでしょうか。
A 志望理由書は次の三点が書かれているのが理想です。
1)志望理由→各学科・専攻コース
2)これまでどのような学習をしてきたのか
3)学科で学ぶ意義→どのような勉強をしたいのか
したがって、勉強以外で実績がなくても書けると思います。何の考えもなく大学・学部を選ぶというのはないでしょうが、ぼんやりと明確でない生徒さんもいるでしょう。それを、当人との雑談のような形で明確な形に導いていくのも指導の一つではないでしょうか。
小論文を個別に添削する余力がなく、代表例を添削する形で授業をしています。代表例を選ぶ際にどのように選べば、効果的でしょうか?
私は、任意に数枚選びます。ただし、字数を満たしていること・答案の氏名を消すことが条件です。そして、生徒に“表記表現”・“内容”の二つの視点で添削してもらいます。私の場合はA/B/Cで評価してもらいます。すると、生徒の評価があまり「ゆれ」がなく一致してきます。そうすることで、生徒自身の書くときにフィードバックされていくのでかなり効果的です。


大堀 求
生物
【7/30(日)実施】

大堀先生は、授業で使える生物の雑学や豆知識などをどのような本やツールから集めていますか。普段読まれたり閲覧されたりしているものがあれば、教えていただきたいです。
23年の東大で「A型の母とO型の父の間にB型の子どもが生まれることがある」と出題されたように、入試問題は授業で使える雑学の宝庫です。時間が許す限り興味深い問題はないか探しています。書籍は普段から読むようにしています。なかでも講義に役立ったのが「ミトコンドリアの謎(河野重行 講談社現代新書)」、「抗生物質が効かない(平松啓一 集英社)」、「精子戦争(ロビン・ベイカー 河出書房新社)」などでしょうか。最近読んだものは「昆虫は最強の生物である(スコット・リチャード・ショー 河出書房新社)」です。本の選定は、役に立つものというようり興味があるものを探すという感じです。またNHKスペシャルもおおいに参考にしています。例えば「人類誕生」はアルディピテクス・ラミダス~ホモ・ネアンデルタレンシスの当時の暮らしを、その番組作成時の最新の学説をもとに紹介しています。また少し古いですが「地球大進化」もとても参考になりました。ただし、これらはあくまでも複数ある説の中の1つに過ぎないということは忘れないようにしています。
二次試験の対策と共通テストの対策の配分について、どの程度の割合で行うのが適切でしょうか。大堀先生の考えをお聞かせください。
これは非常に悩ましい問題です。入試問題を簡単に分類すると「知識問題」と「実験・考察問題」になるのはご存じのとおりです。共通テストはほぼ後者によって構成されていますが、二次試験の場合前者の割合が高い大学もあれば後者が高い大学も存在します。また、「知識問題対策」は普段の授業(教科書の内容の説明など)で対処可能ですが、「実験・考察問題」はそれ用の対策が必要になってくると思われます(5番目の質問に対する回答をご参照ください)。従って、一斉授業で対処するのは難しいところでしょう。さらに、受験する大学の「共テと二次の配点」によっても共テ対策と二次対策の割合は変わってくるでしょう。
「遺伝」分野に関する質問です。限られた授業数の中で「遺伝」分野にどの程度時間を使うべきか毎年迷っています。何かアドバイスをいただけないでしょうか。
最近の遺伝分野からの出題をふまえて考えると、「独立・連鎖」、「組換え・検定交雑・遺伝子地図」、「伴性遺伝」は必ず授業で説明したいところです。大堀自身はこれらを90分×2~2.5で教えています。また、遺伝の分野と遺伝子・発生の分野にまたがった出題が頻出します。従って、例えば「遺伝子『A』と『a』の違いは、DNAでいうとどういう違いなのか」(遺伝と遺伝子のつながり)、「母性因子の遺伝現象」(発生と遺伝子と遺伝のつながり)など、3つの分野のつながりをふまえて教えたいところです。さらに23年の共通テストで出題されたように、哺乳類におけるメスのX染色体の不活性化と伴性遺伝がセットになった問題は頻出です。伴性遺伝を教える際は三毛猫の毛の色の遺伝などを題材にして、これらの内容を教えておいた方がいいでしょう。なお、以前はよく出題されていた「補足遺伝子」なども復活傾向があるようです。
新課程用の教科書について、出版社によって記述が異なるケースが見られます。例えば、電子伝達系におけるATP生成量について34と記載している教科書がある一方で、28としている教科書もありました。この場合、両方の値を生徒に伝えておくべきでしょうか。こうした表記のブレについて、なるべく生徒が不利益を被ることがないように指導できればと考えています。アドバイスをお願いします。
「出版社によって記述が異なる」というのは以前から存在し、たしかに困ります。例えば「シダ植物の出現年代」についてはシルル紀とするものとデボン紀とするものがあります。このような場合、まずは使っている教科書と同じ内容で教えてしまっていいと思います。というのは、まだ覚えたてで知識が定着していないときに、あれこれ教えられても混乱のもとになるからです。ある程度知識が定着した段階(定期テスト・模試などを経た段階)で、生物で受験する生徒を対象に、そうした違いをまとめた「表」などを配るというのも1つの手ではないでしょうか。ただし、今後入試でどう扱われるかによって変わってくると思われます。例えば、ATPの生成量についてどの大学も「34」で出題してくるのであれば、使っている教科書に「28」と書いてあっても授業では「34」で教えた方がいいということになります。
新指導要領においては、思考力や表現力が重視されていますが、こうした高度な能力を高めるためには時間が必要です。限られた時間を使って生物分野における思考力や表現力を育むためにはどのような指導を行うことが効果的でしょうか?
思考力養成は喫緊の課題で、授業毎にそのような時間を設けて取り組む必要があると思われます。過去の入試問題の余分なところをとにかく省き、かつ短時間で取り組めるような思考部分だけの問題を作成し、授業毎に解かせる。このくらいのことをしないと、共通テストで高得点は取れないと感じています。最初は問題作成などとても大変だと思いますが、一度作ってしまえばそのあとは楽になります。表現力については授業の説明の中で「表現法」として教えるといいでしょう。例えば、「酵素がはたらかない」といった場合、「酵素が存在しないからはたらかない」という場合もあれば「酵素自体は存在するけれど、その酵素が正常にはたらかない」という場合もあります。しかしそれらは「酵素活性がない」と表現すれば済む…といった具合です。また、年度の最後にこうした「表現法」の例をまとめたものを配るといいと思います。


木村 亮太
物理
【7/30(日)実施】

原子分野を教えるタイミング(時期)と教える深さで悩んでいます。時間的には短く実施したいと考えておりますが、内容的には時間がかかってしまいます。アドバイスをお願いいたします。
原子分野を教えるタイミング(時期)は、それ以外の単元が済み次第という感じだと思います。高校生(現役生)ということを考えると、全体の復習をする時間を考えて、10〜11月くらいまでには原子分野を終えられると理想だと思います。
深さに関しては、公式の理解ができる程度の歴史的背景があると式の意味を理解して覚えやすいと思います。と、言っても、原子分野は公式を教えることよりも、現象を理解させることのほうが大切であるので、深い追いしすぎない方がいいのではないかと考えています。
授業が知識や定理の伝達になってしまいます。生徒が授業中に思考できるような授業づくりの工夫を教えてください。
私が意識していることは、数式をはじめに教えるのではなく、現象の理解をさせることです。特に、目に見えない現象を扱う、電磁気や波動に関しては、例え話を交えながらできるだけ現象を想像させるようにしています。
現象理解→数式という重要性に意識を置いた授業を行なっています。私は、普段の生活の中から、授業で例え話として使えることを探しています。
現象がある学問なので、その現象に近いことを日頃の生活の中の現象とリンクさせることで、イメージさせながら考えさせることが大切な気がしています。
有効数字や単位についてどの程度、生徒に教えれば良いか迷っています。木村先生の中で基準があれば教えてください。
私の普段の授業では、有効数字について、時間を使ってノートにまとめるということはしていません。その代わり問題を解く都度確認を行います。軽く生徒に問いかけたり、簡単に説明する程度です。時間的にはごくわずかです。しかし、毎回確認していくうちに生徒にも定着が見られます。単位に関しても同様で、毎回、問題で出てくる都度確認を行います。
有効数字や単位に関しては、時間をとって1回説明するより、毎回確認することによって自然と身につけさせる方が有効的ではないかと私は考えています。
問題演習の授業で木村先生が気をつけている点は何かありますか。
私の授業は、まず公式の成り立ち(必要であれば歴史的背景などを話す)や公式の意味を教えることから始めます。ただそれを教えただけでは生徒は問題を解けるようにはなりません。そこで重要なのが問題演習です。
問題演習で意識していることは、「なぜこの問題を解くのにこの公式を用いるのか」を話すことです。例えば「今回の授業は力学的エネルギー保存則を行います。だからこの問題は力学的エネルギー保存則を用いて解きます。」では、全く意味がないです。この問題を解くのになぜ力学的エネルギー保存則を用いようと思うのか。その思考プロセスを生徒に伝えるようにしています。
演習問題を通して、普段、私が問題を解く上で考えることをそのまま全て生徒に伝えるようにしています。
受験直前期の指導方法に迷っています。特に優先的に教えるべき単元などあればアドバイスをお願いいたします。
直前期には全体的な復習ができる問題演習がいいのではないかと思います。例えば、力学であれば運動方程式・エネルギー保存則・運動量保存則を用いる問題で復習をします。電磁気であれば、コンデンサー回路、電磁誘導などです。波動であれば干渉、熱力学であれば熱サイクルから熱効率を求めさせる問題などを扱います。
1問を通して全体的な復習をします。例えば、縦振動をする単振動の問題を扱い、運動方程式やエネルギー保存側、さらに位置エネルギーの復習など、1問1問を掘り下げて解いてみせるのも面白いかと思います。
重要なことは、直前期であるので、それまでの知識を整理できる問題を選んであげることではないかと思います。


宮路 秀作
地理
【7/30(日)実施】

新指導要領においては、ICTの活用も重視されています。地理の授業においてはどのようにICTを活用することで、その長所を活かせるのでしょうか?
まず明確にしておいた方が良いのですが、そもそもICTの活用は目的ではなく、手段です。先生方が、各授業で生徒に伝えたいこと、将来を見据えてこれは理解しておいてほしいことなどがあろうかと思います。では、それらについて「一発でこちらの意図を伝える」ためには、どんな表現方法が必要かを考え抜いてみると、「今回は主題図で示そう!」「GoogleEarthを使って説明しよう!」といった方向性が見えてくるのだと思います。ですので、ICTの活用の前に、やるべき事、考えるべき事を挙げてみてはいかがでしょうか。
生徒達が教科書での学習を好まず、共通テストの問題演習ばかりに興味を示します。「問題演習は基礎を固めた後で」というのが持論なのですが、宮路先生の授業ではいつ頃から問題演習にウェイトを置かれますか?
教科書で教えていくということが授業の基本です。生徒が教科書を軽視してしまう背景の一つに先生が自作のレジュメを中心に授業をしており教科書をあまり使っていないというケースが考えられます。レジュメに偏重した指導を行っていないか、レジュメは明確なゴールを意識して作成されたものかという点について点検を行うことも効果的でしょう。「教科書を教える」という発想では、物足りなさを感じてレジュメを作りがちですから、「教科書で教える」という発想をもつことが重要です。問題演習については、代ゼミでは共通テスト対策の問題演習を夏と冬の講習会で行っておりますが、学校現場であれば、系統地理の学習が終わった段階で問題演習に入って良いのではないでしょうか。地誌の学習と同時に進めても良いと思います。
今年度から担当している「地理総合」の授業では、「生徒を動かす」授業や「生徒が動く」授業を目指していたのですが、前期は講義中心のスタイルで終えてしまいました。後期に向けて何かアドバイスをお願いいたします。
「生徒を動かす」授業というのは、何も授業時間中に限ったことではないと思います。授業で得た知識を土台にして、生徒自ら学び始めることが理想だと考えます。「ちょっと分かる」⇒「すこしできる」⇒「もっと知りたい」といった良い連鎖を作ってあげることが重要なのではないでしょうか。例えば、授業中にGoogleEarthを使って扇状地を見せてあげた後で、「日本には扇状地が他にもたくさんあるから、家に帰ったら見つけてみよう」と一言声をかけるだけでも良いと思います。
地理総合の授業について進度や時間の面で悩んでいます。授業時間は2単位分であるため、教科書準拠のワークを活用し、演習の不足は宿題で補い、解説動画を配信するという方法でなんとか進めていますが、これで生徒に地理の楽しさが伝わっているのかと不安です。宮路先生、何かアドバイスをいただけないでしょうか。
私は授業というものは終了のチャイムとともに終わるものではないと考えています。数か月、数年の時を経て、「あのとき習ったのって、これだったのか!」と膝を打つ瞬間までが授業なのです。50分でも、90分でも与えられた時間内ですべてを完結させようと考える必要は無いと思いますので、あまり不安になることはありません。それよりも、「先生が授業を楽しめているか?」の方がもっと重要であると思います。教壇の上では先生が主役です。まるで自分が噺家にでもなったつもりで、楽しく、そして面白く「地球上の理」を話してあげてください。
地理においても探究が始まり、問いかけや発問のスキルの重要性が増していくと思われます。宮路先生は、普段生徒達にどのように問いかけや発問をされていますか。また、発問される際に大切にされていることがあれば教えてください。
授業中の問いかけとは、結局のところ「わかったつもり」になっている生徒に対して「本当に理解しているか?」と気づきのきっかけを与えることだと思います。例えば生徒たちは案外、因果関係と相関関係の違いを明確に理解しているわけではないので、そこを突いていく方法は一つの指針となるのではないでしょうか。「地中海性気候下でブドウの生産量が多い」というのは相関関係でしかないのですが、これを因果関係と捉える生徒が多いのも事実です。地理を教える側はどうしても「地理は暗記科目ではない」「なぜを考えることが重要だ」と言いたがりますが、そもそもすべてにおいて因果関係が成り立つわけではありません。因果関係と相関関係の違いについては、教える側ですら勘違いしてしまうケースがありますから、生徒はなおさらです。早い段階で理解を正してあげることが肝要であると思います。


富田 一彦
英語(1)
【8/5(土)実施】

英語講師として、富田先生が不変のコアとして据えているものと、アップデートし続けているものをそれぞれご教示いただけますと幸いです。
不変と考えているものは、過去にとらわれずに目の前の現象を正直に見るという姿勢です。年齢を重ねるに連れて、背負う過去が多くなり、その過去を肯定したいがために目の前の現象から目を背けることがよく見られると思うのですが、それをしないように心がけたいと思っています。そういう姿勢を常に一定に保っていくことが、不変なことでしょうか。アップデートはその事によって当然次々と起きていきます。前はある種のアプローチをしていたが、それより合理的で必然性と再現性の高い方法が見つかれば、それに躊躇なく切り替えるようにしています。
現在、高校1年生を担当しています。多くの生徒が読解のスピードが遅く、試験問題を最後まで解き切れていない状況です。こうした生徒達に今後、どのような指導を行っていくべきでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
高校1年生では、英文法の骨格がどれほど明確に頭の中に入っているのでしょうか。全てはそれによると考えられます。まだ文法がそれほど入っていない(これは、細かい表現を覚えている、という意味ではありません。汎用性の高い考え方が身についている、という意味です)段階では、そもそもスピードを考えること自体が正しくない方針ではないでしょうか。校内のご事情もおありでしょうが、試験範囲を変更するなど、進度そのものを再検討されるのも一つの考えかと思います。
センター試験から共通テストへと移行したことに伴い、様々な変化が生じました。私たち教員に対応を求められている部分もあるかと思います。富田先生はこうした変化についてどうお考えですか。
共通テストの最大の変化は、発音・ストレス(強勢)・文法・語法の問題が消滅したことです。これは大学入試センターにとってかなりの試練でしょう。かつては例えば東大受験生でも文法を数問間違えることがかなり多く、それによって得点偏差を出すことができていたのに、勘でも解きやすい内容理解問題(これは数十万人の受験生を対象に、しかも公衆の面前で問題を公表して行うテストとしては無理からぬことです。東大入試には性同一性障害者が主人公の小説が出たりしていますが、共通テストでは無理でしょう)だけになってしまい、上位層の得点偏差がでにくくなったことが出題者の悩みのタネのはずです。そのため、以前センター試験で採用していた「物語文」の採用が増えています。「説明文」では話が金太郎飴になってしまいやすく、どこか一箇所分かれば全部わかるというリスクが高まります。物語文では情報が断片化できるので、問題を作りやすくなるわけです。
生徒達を飽きさせないように様々な工夫を凝らしているのですが、いつかはマンネリ化してしまうのではないかと不安です。変化に富み生徒達のためになる英語授業を続けていくためには、どうすれば良いでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
最も大切なことは、教師自身がその生活の中で様々な発見の種を持つことだと思います。様々なアンテナを張っていると、そこにある偶然の出会いが、授業の中で突然活かせる話題となって戻ってきたりするのです。私が授業で話すときも、常にそういうことを心がけています。もちろん同じ話を何年も繰り返しするのですが、そこに常に「新鮮さ」があるように自分自身を誘うことで、生徒諸君にも話が惰性に聞こえにくくなるように思います。
英語が苦手な生徒に向けた指導に関する質問です。①積極的に多くの英文に触れる機会を設ける、②土台となる英単語の定着を優先する、の2つのアプローチを検討しています。どちらの方が効果が期待できるでしょうか。富田先生のお考えを教えてください。
ご質問にある「対策」がただの形式に流れているのが最も気になります。生徒の興味を引くには、いかに教師が「その場で臨機応変に対応するか」が重要です。どんな形式のことをやるにしても、予め作られたプログラムを流れ作業でやるのでは意味がありません。単語の定着と言いますが、単語テストをやって覚えろ、というのであればそれはなんの効果もないどころか、寧ろ逆効果ではないかと思います。そして、教師が臨機応変性を手に入れるには、それだけご自身の教養程度を高めておく必要があります。自分の中に種がないのに、人に面白い話ができるはずはありません。我々が生徒諸君に話すのはある意味氷山の一角です。水面に浮かぶ氷山の下には、巨大な見えない氷があるわけです。


大山 壇
文系数学
【8/5(土)実施】

大山先生は、受験学年に対して季節毎に、どのような力をつけさせることを意識して指導されているのですか?
1学期(4月~7月初旬)はとにかく基礎・基本の徹底と計算力の向上。夏期はその基礎・基本の確認とその理解を前提とした演習。2学期(9月~12月初旬)は解法の選択肢が多い問題や少し発想を必要とする問題を中心に演習することで「思考力」を鍛えます。冬期~直前期は、もう武者修行させる気持ちで何でもイイから解かせるイメージです。ちなみに高1・2生はとにかく基礎・基本、計算力の向上、安易な解法暗記に走らない土台作りを意識付けします。
基礎・基本を疎かにして応用・発展的な問題ばかり取り組もうとする生徒が多いと感じます。授業でどのような教材(問題)を用いれば基礎・基本の大切さを理解してくれるでしょうか。
それはもちろん基礎・基本を理解していなければ解けない・解きにくい問題です。例えば今回のテキストに入れた【2】(3)〈漸化式〉、【4】〈21年高知大:数列〉、【6】〈12年香川大:平面ベクトル〉、【8】〈19年長崎大:空間ベクトル〉あたりが該当すると思います。これら以外にも、東大・京大をはじめとする難関大の問題は基礎・基本の大切さを感じさせる問題ばかりです。難関大を受験する場合、試験会場で見たことある問題に出会う可能性はかなり低く、初見の問題に対してどうやって挑戦するかが重要なのですが、それが結局は基礎・基本をどれだけ固められているかに依存するわけです。そのことを理解させる為には、指導する側がどれだけ難しい問題でも「定義に従った考え方で基礎・基本通り」の解説をいつもして見せることが大切です。
大山先生が板書案を計画するうえで、心がけていることは何ですか。
いつも同じルールで書くことです。自分の場合は、問題番号、メインテーマ、Approach(題意の把握、知識の整理や考え方のポイントをまとめる)、解答(答案用紙に書いて欲しい内容)、補足・参考(特殊な計算方法や背景知識)、の順に書きます。また、色の使い方も原則は、黄色:大切(定義・定理・公式・考え方)、赤色:計算、青色:黄・赤で書いた所への補足(心の声)など、と決めています。ただし、図を描くときの色遣いは、上記の限りではありません。
数学B(新課程)の分野である『統計的な推測』を初めて指導するのですが、その際に注意すべきことはありますか。
自分もまだ指導サンプルが少なくそこまで自信はないのですが、ヒストグラムから確率密度関数への変化(離散型から連続型への変化)、データの標準化・正規化の視覚的意味、の理解が大切だと考えています。また、標本調査の公式が天下り的指導になってしまいがちなので、実際にはどのようなデータの実験を行っているのかを確認し、各公式が妥当であることの実感をもってもらうことが重要だと思います。過去の出題(共通テスト・センター試験・一部の大学の個別試験)を見ても、教科書の内容をきちんと理解して適切な公式を使えるようにしておけば、それ以上の変な発想などは必要としないので、十分に得点できる問題が多いです。したがって、実はお得な分野と見ることもできます。
大山先生の指導スタイルについての質問です。駆け出しの時期と今とで変化した点はあるのでしょうか。
今回の講座の中でもお話しましたが、端的に言えば「教えなくなった」です。この仕事に就いた最初の頃は自分が持ってる知識・技術をすべて授業で紹介しようとしていた節もあるのですが、年々教える量が減っていきました。そう思わせてくれたのは、大学時代の塾講バイトでの生徒たちです。はっきり言ってひどい状態の生徒たちが多く(笑)、現実を知りました。そこで週に1回程度の授業では『量』をカバーするのは不可能だと感じ、それなら授業で『質』(teaching)を与えて、『量』をこなす為の指示(coaching)をすることが自分の出来ることだと考えるようになりました。それが洗練された結果、今の「基礎・基本を重視するスタイル」になったと思います。あの頃の気付きが無かったら、今の自分のスタイルにはなっていなかったでしょう。


笹井 厚志
現代文
【8/5(土)実施】

現代文の授業展開について悩んでいます。指導書に沿った授業はなるべく避けたいと考えているのですが、同一科目を担当している他の教員とも歩調を合わせる必要があり、やむを得ず指導書にしたがっています。記述対策などもしてあげたいのですが、指導書による制約がネックとなり満足のいく取り組みができていません。笹井先生、何かアドバイスをいただけないでしょうか。
指導書に沿った授業をするということは、他人の解説に沿って、あるいはそれに頼って授業をすることですから、先生御自身の為にもならないのではと、思います。教科書以外の教材を用いるのではなく、あくまで教科書を教えるのですから、その方法については、ある程度裁量が許されているでしょう。先生もおっしゃるように、指導書にそれ程縛られない方が良いと思います。そうでないと、指導書がない文章、たとえば入試の文章などを読むのが、億劫になるのではないでしょうか。予備校講師には、指導書はありません。旺文社の答が参考資料として渡されることはありますが、記述解は言うまでもなくマークの答についても鵜呑みにはできません。結局、全て自分で読解し、答えをつくるしかありません。しんどいですが、読解力はつきます。指導書にあまり頼らない授業をなさってください。自分で読んでいくと、どこを問うべきかのポイントも、見えてくると思います。
現代文の試験問題作りにいつも苦戦してしまいます。笹井先生が作問をされる際のメソッドがありましたら、教えていただけないでしょうか。
問題文の中で、意味のとりにくい箇所、たとえば「逆説的」「相対的」「絶対的」「もう一つ」などを含む表現、比喩を含む表現、を問います。そして、記述問題としての答をつくります。ここが一番大切なところですが、自分で素直に頷ける答になるまで練ってください。マーク問題にするときは、この解をそのまま使わず、なるべく文中の表現は用いないで、内容が同じものにし、それを正解の選択肢とします。他はこの正解をもとに、一ヶ所だけ傷があるもの、それも致命的な傷があるものや、どういうことかと問われているのに、理由だけを述べたもの等、工夫します。ですが、一番よいのは記述問題として問うことです。「ぐ」の部分、理由の部分が、採点ポイントになります。
ChatGPTの登場によって、ますます世の中の変化が激しくなったように思います。笹井先生の授業における工夫や取り組みの中で、社会の変化を踏まえて最近新しく始められたものはありますでしょうか。
入試の為に、そして大学で学問する為に必要な力は何か、読解力です。精読する力です。それだけ、といって良いと思います。この基本をどうぞ、忘れないでください。迷った時は、この基本に立ち戻ってください。世の中がどれ程変わったとしても、この基本は揺るぎません。新しい技術は、読解力の養成に資するか否かで、要・不要を判断します。意味を正確にとる、これが難しいので、つい他のものに気をとられたりしますが、本道を忘れず、生徒の読解力を鍛えてください。
難関大学の問題を教材にし、生徒達の話し合いを中心に据えてアクティブ・ラーニング的な授業を行うことは可能でしょうか。個人的には、生徒達だけでは、教員が求める読解のレベルに辿り着くことは困難ではないかと考えているのですが、笹井先生はどう思われますか。よいアイデアがありましたらご教示ください。
意味が正しく読み取れていない生徒同士に話し合いをさせても、学習効果は殆ど無いと思います。私は生徒に、徒に意見を述べさせることに懐疑的です。思いつきを、口先だけで巧みに述べる者は、学問をするのに向いていません。まず謙虚に、じっくり他者の考えに耳を傾け、誠実に意味をとろうとする。その過程で思考力が鍛えられます。深く納得する考えであれば、それを使って、小論文を書いて、何の問題もありません。発信において大切なのは、しゃべることより、書くことです。本人がよくわかっていないことは、書いても論理的にならず、説得力がありません。喋ると、自身でもよくわかっていないことを、そのままに、ごまかしてしまうことが多いものです。発信は、よく理解してからでよいのでは、と思います。
「なぜ、国語を勉強するのか」という問いについて、笹井先生の考えを教えていただけないでしょうか。自分自身の中ではずっと答えが出せずにいます。
授業でも申しましたが、自分一人で考えているだけでは、決して思いもつかぬ考えが、世界にはたくさんあります。それに触れ、一端なりとも理解できればと思っています。私の生が、少しだけ豊かになったような気がするのです。読解力さえあれば、何学部にいこうが、いや大学にいかなくても、自分の知の世界を広げていけます。大切なのは、すぐわかった気にならないこと、腑に落ちるようにわかるまで考えること、難しい文章からすぐに目を逸らさないこと。高校の先生という仕事は激務であると思います。ですが、少しでもこの実践をすることで、わかる生徒には、その生き方が伝わるのでは。生徒には直接の言葉以上に、先生の生きる姿勢が、説得力をもつのではないでしょうか。ここで手抜きをした現代文の授業は、つまらないものになるのではと、自戒をこめて思います。


井上 烈巳
日本史
【8/5(土)実施】

授業で、歴史を探究する本来の史料の扱い方と入試で問題を解くのに必要な史料の扱い方のバランスのとり方に困っています。先生はどのように工夫されていますか?
入試問題を解くのに必要な資史料読解は、自動的に通史理解や探究の思考に必要な部分です。入試に「出た」ではなくて、思考に必要なものに厳選すれば、限られた授業時間の中でも取り扱うことは可能です。出題されたということだけに意識を向けてしまうと、網羅という無間地獄に陥ってしまいますので、有名無名関係なく、どうしてこの資史料を扱う必要があるのかを熟考しましょう。結果的には代表的な資史料に収斂して、教科書や資史料集はよく考えられているなあと感嘆すると思われます。
勤務校で日本史探究の指導が始まりました。授業進度を意識すると、結局は一方的に知識を伝達する授業になってしまってしまいます。どうしたら良いかアドバイスをお願いいたします。
知識を伝達するということが、事実を伝えるということであるならば、そもそも教科の考え方を見直すべきかと思います。歴史はさまざまな可能性の中で論証されたり、妥当性が強かったりする内容を組み合わせて構成されています。つまり、そこには必ず、異論もあるわけで、話の根拠を示しながら授業することによって、生徒に疑問や反論を感じさせることができます。双方向的な授業が求められていますが、双方向とは単に生徒に発話させることをいうのではなく、教師が一方的に「正しいこと」を教えるわけではないという姿勢が土台となります。教師もともに謎を探究している側であるという姿勢を示しながら授業を展開したいところです。
調べ学習やプレゼンテーションの授業を行いたいと思っています。何か良いテーマはないでしょうか。
日本史の大きな武器となるのは、その物理的な距離、フィールドです。それぞれの地域に根ざした歴史と高校日本史の中で扱われる全体的な(強者=「中央」政権に視点が偏りがちな)歴史との比較は魅力的な題材となり得ます。高校生に扱いやすいテーマとしては、都市、産業、郷里の有名人(もしくは無名人)、地名などでしょうか。いずれにしても、調べることだけに終始させず、比較対象をもって相対化させることで、歴史とはただ一つの事実を覚える学問ではないと生徒が気付く契機になると思います。
井上先生が歴史総合と日本史探究との授業の接続で意識されている点があれば教えてください。
世界史分野の導入ばかりに意識が行きがちですが、そもそも従来の日本史Bであっても近現代には世界との関わりを重視した内容を教授されてきたのではないでしょうか。むしろ私が意識を強めているのは、必修となった歴史総合と単位数の減った日本史探究の間で、重複する部分を極力減らして、相互が補完する関係にしようとすることです。高等学校のカリキュラムでは、1年生で歴史総合を学習し、2年生もしくは3年生から日本史探究を学習することになるでしょうから、そこには学習期間のタイムラグや担当者の交代といった事態が想定されます。日本史探究の理解に必須となる要素を歴史総合の担当者に伝えるなど、従来以上に地歴公民科の間で連絡を密にする必要はあるでしょう。
教科書に記載されている用語数は減少傾向ですが、入試問題に登場する語句の量も減少していくのでしょうか。井上先生の考えをお聞かせください。
結論から言えば、減少していくと考えています。実際、これまでの傾向でも、細かい数値や教材に記載されていない人名を問うような入試問題が30年前に比べて少なくなったことは間違いありません。膨大な入学希望者に対するふるい落としの性格を持った入試ではなくなったのですから、理解力や思考力を問う問題になるのは自然のことです。ただし、これは長期的スパンで徐々に変化するものであり、学習指導要領の結果が翌年にドラスティックに反映されるという性質のものではないと考えています。先生方が授業で突出して先行する必要は無いので、毎年の入試問題から感じられる部分を逐次授業内容に反映させていくという正攻法で良いと思います。


妹尾 真則
英語(2)
【8/6(日)実施】

生徒達の文法知識が曖昧になってきていると感じます。体感ですが、例えば不規則動詞の活用を正確に記憶している生徒の数は減少傾向にあります。このように文法学習を避けたり軽視したりしてしまう生徒達をどのように指導していけば良いでしょうか。
指導の初めに土台から理解を積み重ねる形で体系的な英文法を身につけさせてあげることが重要になります。僕は代ゼミではオリジナル単科の『System of English〈理解し考える英語〉』の1学期の主に前半にそれをしていますし、高校1、2年生や、たまに行う中学生の指導でも初めに必ず文法を体系的に身につけさせるようにしています。それをまとめたのが『ピラミッド英文法~理解を積み重ねて英文法を身につける~』(代々木ライブラリー)です。ぜひ先生方の授業にご活用ください。この本は日本で初めて英文法を“文の構造の文法”と“意味の文法”とに分け、ピラミッド型に体系化し、暗記よりも理解を重視した画期的な英文法入門書です。僕はまずChapter1(品詞と5文型)までを教えた後、Chapter2からは英文読解や英作文を教えるのと並行して指導するようにしています。文法を教える際には、単に丸暗記をさせるのではなく、その意味を理解させてあげれば生徒の目は輝きだします。
文法を教える際に注意しなければならないのは、文法学習それ自体が目的になってしまわないようにすることです。年がら年中文法の四択問題ばかりやらせるなどという間違いを犯してはなりません。文法の四択問題は生徒も「やった」感が得られますし、指導者も採点が楽ですが、そればかりしていても英語が読み書きできるようにはなりません。入試問題はほぼすべてが英文の読み書きです。文法の四択問題は、あくまでも学習初期の体系的な文法を教える段階で理解の確認にほんの少しやる程度にとどめるべきです。
英文解釈や英文読解の指導について悩んでおり、未だに明確な指導法を確立できていません。活気に満ちた実践的な指導を実現したいと考えています。妹尾先生アドバイスをお願いいたします。
英文読解とは英文の意味をとること、意味とは頭に浮かぶ映像です。小説ならそれは場面、論説文なら具体例です。文の文法的構造など文法は意味をとるために必要だからやるのであって、文法の勉強が英文読解の中心になると本末転倒です。あくまでも意味をつかませることが英文読解の授業の根幹です。それを生徒たちに伝える際にセミナーで僕が実際にやったように生き生きと光景が目に浮かぶように伝えることが重要です。ときには僕がやったように、文字通り全身を使って表現することも必要になります。恥ずかしいと思ってはいけません。自らを閉ざしてしまっている生徒たちに殻を破らせその人間を変えることが教育の目的なのに、指導者自らが殻を破れないようでは、目の前の多くの人間を変えることはできません。あらゆる手段を使って生徒たちに意味を理解させましょう。その際に一方的に伝えるのではなく、僕がやったように絶えず生徒に問いかけ、まず生徒たちに自らの口で意味を説明させることが重要になります。
生徒に宿題や課題などの家庭学習を課したいと思っています。妹尾先生は生徒達にどのような家庭学習を指示されていますか。また、そうした家庭学習がやりっぱなしで終わらないように、成果をチェックできればと考えています。何か良い方法はないでしょうか。
英文法の勉強と英文読解や英作文などの実践的な勉強はまったく違います。指導期間の初めに体系的な英文法を教える時期には、英文法に関して理解したことを覚えさせるための復習が必要になり、これが自宅学習の中心になります。僕は『ピラミッド英文法』をChapterごとに理解させ、Chapter0から習ったところまでのKey Pointsを毎回授業の初めに生徒に言わせてチェックしています(『ピラミッド英文法』の「はじめに」参照)。
それに対して英文読解や英作文の授業では予習がすべてです。時間無制限で辞書を使ってしっかり予習させるようにしましょう。受験が近くなると、初めに制限時間内に辞書なしでテストのような答案を作らせ、次に時間無制限で辞書を使ってもう一度答案を作らせる二重予習が重要になります。その際には時間無制限で辞書を使ってじっくり時間をかけて答案を作る方を大切にさせましょう。二重予習の詳細については代ゼミ教育総研による僕のインタビューをぜひお読みください。また成果のチェックは予習答案を添削することでできます。それを単なるチェックに終わらせるのではなく、次回の予習にいかせるように個々の生徒に合った実践的なアドバイスをすることが大切です。
受験に向けて、生徒達の読解や内容把握のスピードを高められるような指導を行いたいと考えています。どのような指導を行えば効果的でしょうか。
セミナーの中でも理由を詳しく述べてお伝えした通り、時間無制限で辞書を使ってスピードなど気にせずゆっくり読む訓練を積むことです。決して速読練習などをしてはいけません。入試英語において最も重要な真理は、「日頃辞書を引きながら時間無制限で勉強している人だけが本番入試において制限時間内に辞書なしでスラスラ問題が解けるようになる」ということです。文章を読むというプロセスは無数のステップで成り立っていますが、試験において制限時間内にそれを素早く読むにはそのステップのほとんどを無意識に処理できなければなりません。しかしそれが初めから無意識にできる人間などいません。時間無制限でゆっくり時間をかけて意識的に一つひとつのステップを踏み、同じステップに何度も出会ううちにそれを一つひとつ無意識に落とし込んでいくしかないのです。もちろん3番目の質問の回答で触れた二重予習をすることで試験の練習はできますが、重要なのは時間無制限で辞書を使うことで学力そのものを高めることなのです。
長文読解の指導に関する相談です。①どうしても自分が生徒に対して一方的に解説をするスタイルの授業が多く、指導が単調になってしまいます。②長文のすべてを詳細に解説する時間がないため、軽く流す部分と力を入れる部分に分けて指導する必要があるのですが、双方のバランスを上手く調整できません。この2点についてアドバイスをいただけないでしょうか。
① 英文読解は無意識のものも含め無数の判断の集合です。その判断のことを僕は4番目の質問の回答でステップと呼んでいました。その判断について指導者が答えをどんどん言っていくのではなく、僕がセミナーでやって見せたように指示語が何を指すかなどの重要な判断に関しては生徒に答えさせるのです。指導者が生徒に一方的に知識を披露するような授業は実はあまり効果はありませんし、そんな授業だったら優秀な生徒ほど退屈してしまうでしょう。授業は生徒と指導者との双方向の対話であるべきだし、その方が双方とも楽しく、指導者の側も予想もしなかったような高みに生徒と一緒に上ることができます。こんなスリリングな体験はありません。
② これは簡単な話で、軽く流す部分は解説しなくても生徒が予習の段階で自分でわかっている部分です。逆に力を入れる部分は生徒が時間無制限で辞書を使って予習してもなかなか十全な理解に達することができない部分です。もちろん大部分の生徒がわかっていて一部の生徒がわからないような部分については、そのような生徒の人数やどこでどう時間がとれるかによって、授業中での説明と放課後や空き時間を使っての説明とを適宜使い分けることが必要になります。


荻野 暢也
理系数学
【8/6(日)実施】

受験学年の指導に関する相談です。どうしても微積の指導を優先せざるを得ず、結果的に複素数平面の指導時間が不足してしまいます。複素数平面には様々な解法があり、そこが面白いと考えていますが、その解法における選択肢の豊富さが生徒を惑わせているとも感じられます。アドバイスをいただけませんか。
複素数で取り分け技法が多いとは感じないのですが。例年微積に比べ少ないコマ数で終わらせられています。
寧ろ他の分野に比べて定義、基礎の重要さが強調しやすい分野と思っています。
例えば、絶対値、偏角の定義、その様々な捉え方です。
そのあと、点やベクトルの回転、共役複素数にまつわる技法、n乗根、軌跡は成分で、などの話をします。今回の研修で取り扱った内容は最終段階だと思います。
基本の導入部分も含めて、私の「天空への理系数学(代々木ライブラリー)」をご覧いただけたら幸いです。
担当している生徒は大問を最後まで解き切ることができません。1つのテーマについて(1)~(4)の小問を解き進めて結論を導くタイプの問題で、(3)あたりまでは解けるのですが、最も難しい(4)は正解できないタイプの生徒です。基礎的な問題に対応する力はあるものの、複数の要素を組み合わせて活用する力が欠けていると思います。こうした生徒に対してどのように指導すればよいでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
今のままで十分上手く行っていると思います。
生徒さんは解ける解けないのギリギリのラインで考えているのですから、一番学力の上がる教材で指導されていると思います。実際の問題を見てみないとわかりませんが、一般的に(3)まで出来ればそれで合格点には達しているでしょう。時間と今後の演習によって解決する問題だと思います。
それから問題の誘導が理解できていないが故かもしれません。それもまた経験、知識で解決されることと思います。可能であればその子にあった添削指導をするのも効果的だと思います。
現在、担当しているクラスは、クラス内での学力格差がある程度大きいクラスです。なるべく、どの生徒にも効果的な授業を行いたいと考えているのですが、どのレベルの生徒に対して焦点を当てた授業を行うべきでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
同じクラスで学力差がある場合はその項目の入り口では当然基礎から全員がわかるように説明しますが、教科書の指導を終えて受験学年になったら、出来る生徒(偏差値55以上)にとって役立つレベルで行います。いつまでも苦手な生徒に合わせていると結果的に誰にとっても役に立たない授業になってしまう。
これは高校の現場と予備校では事情が違うと思いますが、おいて行かれる危機感を与えることは大事な事だと思います。
それから授業中に問題演習させる際、出来る子が早く終わってしまったらその子用に問題を提供するのはいかがでしょうか。
私なら例えばプリントに二題載せて一問目だけ解説するみたいな感じでやっています。もちろん二題目の解答は配分します。
荻野先生から見て、最近の生徒は昔の生徒と比較して性格や気質に変化はありますか。また、そうした変化があるならば、それに対応して指導方法や方針を調整されているのでしょうか。
最近の生徒は夢を見なくなりました。
親御さんがバブル崩壊の惨劇を若い頃に見た世代だからでしょう。そして安定が一番大切だという人生観を持つようになった。
10年ほど前に受験生に「将来どんな車に乗りたい?」ときいたら「低燃費」と答えました。私はもちろんフェラーリとかベンツとか車種を聞いたのですが。今の世相をよく表しています。
そして今に至るのですが、今やその安定すら高嶺の華になりつつあります。今後ますます企業のリストラは進むでしょう。終身雇用がなくなりつつある。もはや安定とは誰かが与えてくれるものではなく自ら掴み取るものだと思います。そんな今だからこそ夢を見るべきだと思います。自分なりの天を目指して欲しいと思います。
生徒が主体的に学んでいく授業を目指したいと考えています。現在の授業は、「公式・定理の確認」⇒「例題の解説」⇒「練習問題を解かせる」⇒「答え合わせ」の流れで行っており、このスタイルを変えていく必要があると感じています。どこをどのように変えていくべきかアドバイスをいただけないでしょうか。
今のままでいいと思います。教科書に基づいた基本的学習は高校でしかできませんから。 例題解説から練習問題に力点をおくと実践的な面白い授業になると思います。問題演習は授業中ではなく、生徒さん達が事前に予習をじっくり時間をかけてやってきて授業は解説だけ行うようになるのが理想だと思いますし、その方が先生側も与える情報量が増えて楽しめると思います。それから昔から事前に生徒を当てて黒板に解答を書かせる形態の授業がありますが、あれは休み時間に書かせておかないと上位層が退屈するかと思います。


梅澤 聖京
古文
【8/6(日)実施】

ICTと黒板での説明をどのように使い分けていますか。
私の世代はアナログからデジタル(紙からタブレット等)への移行期を経験しているかと思いますので、生まれた時からタブレット端末に慣れ親しんでいるであろう今の高校生のデジタルに対する感覚は正直わかりません。
ただプリンストン大学の研究結果にもあるように、紙で勉強した方が記憶に残りやすいそうですし、自分の経験でも電子書籍はよほど腑に落ちたものでない限りまず頭に残らないというのもありましたので、これは絶対に伝えたい!ということは生徒に作業してもらって紙に残るようにさせております。
もちろんデジタルの良さもありまして、検索はもちろん、実際の作業を画面に映して共有したり、地図や映像を「魅せ」たりなどというのは、デジタル機器がないとできなかったことです。
しかし大切なのは生徒に何を伝えたいかであり、そのツールの選択に「正解」はなく、試行錯誤の中で見えてくるご自分の「かたち」が必ずあるかと存じます。
梅澤先生はテキストを作成される際、素材となる文章をどのような基準で選ばれていますか。
古文はやはり「お話」の文章が大半ですので、『徒然草』の鼎を被った法師ではありませんが、あのような類の可笑しみのある比較的読みやすい文章やオチのあるような文章をテキスト前半に持っていくことが多いです。
授業中にも申しましたが、最近(といっても結構前からですが)とりわけ生徒の国語力の低下を顕著に感じ、英語もそれは大事なのでしょうが、母国語あってこその外国語であろうと私なぞはどうしても思ってしまうので、国語力の低下、特に語彙の貧困さ、漢字の書けなさは大変重大な問題だと思っております。
とはいえ、面白くないもの、興味の持てないものを人はやろうとは思いませんから、まずは興味をひくということで、そのような文章を前半に配します。
その後、古文を読む上での必須知識が学べるような文章、恋愛・和歌・仏教などから軍記や近世の作品も配していくようにしております。
ともかく古文面白い!と思ってもらうことを主眼としております。
梅澤先生は古文単語の勉強の仕方について生徒にどのようにアドバイスをされていますか。
古文単語のみならず、受験勉強、もっといえば人生の多くはほぼそういうものだと思いますが、それを習得するためにひたすら繰り返す、習得するまで繰り返す、うまくいかなかったらなぜうまくいかないのか掘り下げては工夫を凝らして再びやってみる、という試行錯誤あるのみですよね。
教える側はその上手いアシスト・サポートができればいいと思うのです。
私はキャッチーな言葉が求められるような場面では、「古文は単語だ」と言い切ります。
古文はもちろん日本語ですし、言語構造などはほぼ現代日本語と変わりません。だからこそ古文の指導における古文単語の指導は大切であると考えます。拙著『新古文単語336(シグマベスト)』は執筆時までの試行錯誤の集大成です。
言葉はイメージをつかむ、どういう文脈で使うのかが大事だと思いますので、指導の際にはそこに重きを置きつつも、発音した時の語感をつかんでもらう等、私自身これからも工夫していきたいと思っているところです。
古文の文学史の教え方について悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
これは目的が何かによって教え方は異なるかと存じます。
私ども予備校講師として古文の文学史を扱う場合はやはり「入試問題としての文学史の問題」を解けるようにしてあげるというのが主眼になります。私自身、授業中にも少し申しましたように、当時人気のあった古文講師の手伝いをさせてもらう中で、旺文社や学燈社の入試問題正解を全部解いて直前講習会のテキストに載せる問題を選択したりするという仕事を5年間やりました。
すると、入試の訊き方には「定番」があることがだんだんわかってまいりまして、例えば説話でしたら同時代・同ジャンルの作品を選ばせるといったものですが、その訊き方は今も大して変わっておらず、その時の経験は今の自分を支えてくれています。
ただし、学校現場で文学史を教えるとなりますと、やはり大事になるのは「流れを掴ませる」ということになるかと存じます。その作品・ジャンルの生まれる「必然性」を探ってみると面白いかもしれません。
高1の基礎指導をする際、どうしても文法中心の授業になってしまい本文の理解が甘くなってしまいます。どうしたら良いでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
予備校講師としての立場から言わせていただきますと、高1は文法事項、特に用言・助動詞を徹底してやるくらいでいいのではないかと思ってしまいます。もちろんそうはいかないのも重々承知しておりますが、教える側の「覚悟」はとても大事なものだと思います。大切な次世代を担う君たちにどうしても伝えたいことはこれなんだ!!と覚悟を定め、あれこれ工夫しつつ、情熱をもって伝える、これに尽きるのではないでしょうか。その教師の生きるかたちは必ず生徒に伝わるものと信じて、私も日々教壇に立っております。
文法を教える際は特にですが、あまり微に入り細を穿つような教え方はしないように心がけております。これは英語でも同じでしょうが、「読みに使う文法」と「文法問題に出る文法」では質・量ともに大きく違います。まずは「読みに使う文法」の基本的使い方を習得させ、読める!という経験を積ませてあげたらいいのではないでしょうか。


佐藤 幸夫
世界史
【8/6(日)実施】

世界史探究の教科書では、従来の世界史Bの教科書と比較して歴史用語が削減されています。考査問題を作成する際に、世界史Bの教科書には掲載されていたものの世界史探究の教科書には掲載されていない用語や人名については、出題しない方がよいでしょうか。
考査というモノを何のために実施されているのかによるのではないでしょうか?授業をしっかりと聞き、それを理解しているかを確認するためには、教えたもの以外の用語(世界史探究に掲載されていない用語)を出しては目的を達することはできないでしょう。しかし、大学入試(特に私立大学)になれば、おそらく教科書掲載以外の用語はたくさん出題されてくると思われます。特に、歴史的なターニングポイントや重要人物の業績となれば尚更です。しかし、出題したモノは必ず解説してあげなければ意味がなくなってしまうので、解説時間を考慮して出題してあげる必要はあると思います。
歴史総合や世界史探究の共通テストは、現行の世界史Bの共通テストからどのような点で変化が生じると予想されていますか?佐藤先生のお考えを教えてください。
出題形式は変わらないでしょう。文章を読ませる、グラフや表を読み取らせる、史料から推測させ、正誤選択させる問題形式はここ3年間の共通テストを同じままと思われます。おそらく、変化が生じるとしたら「内容」と「レベル」だと思われます。歴史総合はご存じの通り、世界史受験者にとっては、大問1つの近現代日本史分野の学習時間が余分にかかることになります。そのため、大問3つは用語レベルが下がり、古代~近代が中心となり、20世紀の出題が減るのではないかと思われます。得意な生徒は「歴史総合」分野のデキがカギになり、それ以外の生徒は「世界史探究」部分でいかに高得点をとっていくかにかかってくるでしょう。
探究学習の要素を盛り込むために、歴史の流れや出来事の背景についてグループでの話し合いを行わせた上で、小テストの形で書かせるようにしています。こうした取り組みは探究の要素として適切でしょうか。改善できるポイントなどありましたらご指摘をお願いします。
根本的に今のすべての高校生に「探究」ができるのか?という点が難しいポイントです。知識が浅い、情報に流されやすい、ネットで調べたものが自分の意見になりがち、自己主張の差が大きい…。教師視点で「やらねばいけない」より生徒視点で「世界史の興味は増しているのか」ということです。優秀なクラスで、一通り世界史学習ができているのならば「探究」は意味のあるものになりますが、初心であり、地理もできず、時代の背景や流れも分からない生徒には、「探究」よりもまずは「興味を持てる教師の話」が先ですね。グループワーク(苦手な子は参加できないでしょう)は1カ月に1度程度に抑え、生徒の歴史に対する表現は「レポート」的なモノの方が今の子供たちにはあっている気がします。歴史上の人物のイキザマ、現代と比べて意外過ぎる政治や社会、歴史上の悲劇や喜劇など、興味を持たせるものを準備してあげれば、生徒は取り組みやすいですが、先生のお仕事は増えるでしょうね…。ちなみに、ネットからの引用禁止にしてください。
新指導要領における歴史指導に関する単元の構成に個人的に納得がいきません。同時代の世界の全体像を理解するためのヨコのつながりを重視するあまり、各国・各地域のタテの流れやまとまりが散漫になってしまうのではないかと危惧しています。「教科書の前後を行き来して、世界史Bの単元の流れで指導をした方が良いのでは」と悩んでいるのですが、どうでしょうか。先生のお考えを教えてください。
これはあくまでも個人的な考えです。世界史の先生方によって歴史観や教授モットーが違いますし、教えていらしゃる高校生のレベルや目的によって教授方法も大きく変わりますので、それを踏まえて…。「歴史を正しく教える」という言葉をよく耳にしますが、これは「多くの生徒が世界史を知りたい」と思えるような歴史の教え方だと思っています。高校に入ってはじめて世界史をやる生徒へ導きだと思っています。では、大切なことは何か?「〇〇時代に興味がある」より、「〇〇の国や地域に興味がある」となって欲しいということです。ですから、各国・各地域のタテの流れやまとまりが散漫になってしまうは許しがたいこと。ですので、面倒とは思いますが、必ず、生徒に各国・地域別ノート(プリント)を前もって配布しておき、「今日の話はここです!」と毎度確認しながら授業を進めて欲しいと思っています。または教科書順ではなく、せめて西洋と東洋を対比できるような授業設定をしてもらいたいとも思っています。
歴史総合・世界史探究の入試対策講座の設置に関する質問です。旧課程においては、戦後史と文化史の補強を重視して対策講座を設置していました。新課程では別のテーマや単元を重視して対策を行うべきでしょうか。佐藤先生、アドバイスをお願いいたします。
「歴史総合」のクラス構成にもよりますが、内容的に戦後史中心となるので、世界史探究では戦後史の比率を落とすことになると思われます。しかし、文化史は特にやる必要がありますので今まで通り重視して欲しいと思います。また、通史をきちんとやっておけばテーマ史なんていらないという意見も少なくありませんが、昨今の入試問題を鑑みるに、通史を早めに終わらせて、重要テーマ史の講座をやってあげるべきでしょう。これは「視点の違う通史」として、覚えてきたモノの復習にもなります。特にヨコ・タテの世界史は「世界史の大切な概念」でもあります。あとは通史をどこまで簡略化して教えられるかがカギとなるでしょう。


松尾 康徳
情報
【収録のみ】

情報科の授業においては、生徒自身が手を動かす体験的な活動と講義のバランスをうまく調整することが重要だと考えています。この点について何かアドバイスをいただけないでしょうか。
少なくとも1~2年生時は「手を動かす体験的な活動」を基本線に考えるのがいいのではないかと思います。今回のセミナーでもお話ししましたが、共通テストで配点の高いプログラミングやデータ分析、シミュレーションなどは、自分で手を動かして問題解決に挑んだ経験の有無が物を言いそうだからです。
必要な1人1台環境はGIGAスクール構想により整備されていると思います。その環境をフルに生かして他のテーマ、例えば情報デザインやネットワーク、セキュリティなどでも、可能な限り体験を通して学ばせるのが効果的ではないかと考えています。
特にネットワークは、純粋な講義だと概念的な授業になりがちです。毎回とまではいかなくても、ポイントごとで体験させる(例えばグローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスの違いなど)のがいいのではないでしょうか。
勤務校では1年時に情報を履修させて、2年以降に適宜フォローを行うことになっています。1年時に履修させてしまうことで、受験まで時間が空いてしまうのですが、2年時と3年時それぞれでどのような点を重視した指導を行うべきでしょうか。
これは先生同様に私も初年度から気にしていた点です。共通テストや数学との連携を考えると2年時に情報を置くのがいいのですが、情報活用という点で情報科は他の教科の下地であるため、1年に置くのが理想とされています(他の現実的な理由もありますが)。そうするとご指摘のとおり2年時に空白ができるのですが、1年時にしっかりとした授業を行ったのであれば、3年時はともかく2年時は「放置」してもいいのではないでしょうか。配点を考えると、他教科に多くの時間を割くのが客観的に見て得策だと思います。
情報は、例えば1年時終わりに共通テスト試作問題を部分的にでも取り組ませ(その際、回答時間は無視していいでしょう)、その結果次第で2年時に補習を組むという考え方をしてもいいかもしれません。それもしっかりした補習でなくても、「共通テストに情報が出るから忘れないでね」というリマインド的な軽いものでもいいと思います。
大学入試センターが公表した情報Ⅰのサンプル問題についてです。サッカーワールドカップを題材に複雑な相関行列が与えられました。この問題は高校生が初見で取り組むには難しすぎると感じたのですが、このレベルの問題も本試験で出題される可能性があるのでしょうか。先生の考えをお聞かせください。
おっしゃるとおり2021年3月発表の情報Iサンプル問題の相関行列は、3通りの相関係数と2種類の散布図に加えて、2変量のヒストグラムまで一つの図にしているという内容的にかなりリッチなものです。あの図が意味するものを短時間で読み取れというのはハードであり、あそこまで複雑なものは出ないだろうと推測しております。
ただし相関行列そのものは、2022年11月発表の試作問題でも参考問題として出題されており、本番でも出題される可能性は十分あると思っています。相関行列自体を構成する要素は、どの情報Iの教科書にも載っている散布図や相関係数であり、相関行列はそれを表現の点で工夫したものです。ある意味、情報デザイン的な要素も含んでおり、授業でしっかり説明しておく価値は十分あると思います。
四分位数についての質問です。高校数学と表計算ソフトの間で定義に差異があるため、第1四分位数と第3四分位数については、数値の違いが発生してしまいます。共通テストで具体的な四分位数の数値算出を要求される可能性があるとしたら、生徒達にはどのように指導を行うべきでしょうか。
恥ずかしながら先生からご指摘いただくまで、私は高校数学での四分位数の定義が、表計算ソフトによる計算と違うことを知りませんでした。確かにそのようですね。貴重な情報提供、ありがとうございます!
しかし四分位数の計算自体が、情報の試験の場で要求されることはないと私は思っています。相関係数や回帰分析なども含めて、情報では「計算はコンピュータに任せる」のが基本的スタンスで、情報に要求されるのはその計算結果を的確に分析することだからです。
試作問題のパリティチェックや論理回路の問題では、そのものを知らなくても解けるように説明がありました(その説明に頼ることの是非は別として)。一方で箱ひげ図の読み方には全く説明がありません。数学でどの程度時間が割かれるかは学校次第かと思いますが、数学で教える分まで情報で教えるつもりぐらいで四分位数に取り組む必要はあると想います。
いよいよ情報科が入試教科になるということで、今まで以上に教材研究が重要になると思います。松尾先生は普段、どのように情報に関する研鑽や勉強をされていますか。よいメソッドなどありましたらご教示ください。
プロフィールに記したとおり私はもともと教育系ではなくIT系の出自であり、今もその活動や人脈から新たな知識やトレンドを収集することが大半です。そのため先生方の直接のご参考にはあまりならないかもしれませんが、どのようなお立場の方にも実践しやすい方法として「展示会」の活用があります。
情報技術に関連した展示会は1年を通して数多く開催されており、特に秋から初冬にかけて多い傾向にあります。ここ数年でオンライン開催が増えたことでさらに参加しやすくなりました。
展示会の多くはセミナーを併催しており、無料でもかなりのものに参加できます。業界関係者や識者が提供する最新情報は授業のネタの宝庫です。特にセキュリティ関連の事件の分析などは、私は授業ネタの多くをそこから収集しています。
情報技術ではなく授業法という観点では、私が所属している日本情報科教育学会の全国大会や研究会、論文などから学ばせてもらっています。