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共通テストでは、正確な知識を土台にした考察力が重要! - 鈴川 茂 講師(生物)

生物講師  鈴川 茂

― 令和4年共通テストの生物では非常に大きな平均点の低下が見られました(平均点48.8、令和3年第1日程比-23.8)。何が要因だったのでしょうか。

  • 生物は令和3年第1日程の平均点が非常に高かったので、どうしても難しくする方向への調整になってしまったのだと思います。いわゆる悪問の類は見られませんでしたから、しっかりと作りこまれた試験であると感じました。また、実際に問題を解いてみると難問ばかりでなく、易しい問題も含まれていました。

― やはり難しい試験だったのですね。生物について先生の中で特に印象に残った問題はどれでしょうか。

  • インタビュー風景 例えば第3問〈生殖と発生〉の問3と問5や第5問〈総合問題〉の問3です。これらの問題を解くためには、実験について与えられた情報から実験を考案し、更にそこから考えを深めていく必要があります。令和4年の共通テスト生物では、このように実験考察問題に思考要素を追加しより深く考えさせる設問が積極的に出題されていました。先ほど挙げた問題以外にも第6問〈生物の環境応答〉の問3や問5でもしっかりとした考察力が要求されています。こうした問題の中には、選択肢が易しく容易に正答できるものもあったのですが、時間に追われて選択肢を吟味できず諦めてしまった生徒もいるようです。

―センター試験と比べると考察要素が増えたということですね。

  • 私の個人的な分析ですが、従来のセンター試験では知識問題と考察問題がおおよそ半々で問われていました。共通テストの試行調査では、考察問題の占める割合が7割程度に増え、実際の共通テストでは全体の8割が考察問題になっています。ただし、先ほどお話ししたように令和3年の試験から令和4年の試験にかけて要求される考察のレベルがより高くなっています。

― 考察問題が増えた分、知識を覚える重要性は低くなったのでしょうか。

  • 知識が必要なくなったということではありません。確かに選択肢で知識について直接問われる問題は少なくなっていますが、設問全体を見通して何について問われているのかを把握するためには、前提としてある程度の生物に関する知識が必要です。知識が多ければ問題を短時間で読むことができるので、より多くの時間を思考に費やすことができ、結果的に点数の上昇につながります。
    また、知識を直接問う問題の数が減った反動なのかもしれませんが、生物では質の高い知識問題が出題されていました。第3問問1のHox遺伝子群の連鎖は少しマイナーな知識でした。また、第4問〈生物の環境応答〉の問3はフェロモンに関する問題なのですが、全ての選択肢を吟味して消去法で正答に辿り着くことは難しかったと思います。この問題の肝となる部分は、「フェロモン=同一種間の情報伝達物質」という定義なのですが、一部の教科書では定義そのものはあまり強調されていません。過去には令和3年第2日程の生物基礎で外来生物に関する正確な知識(外来生物は外国の間の移動のみにおける概念ではない。例えば東京から小笠原諸島に動物を移した場合なども外来生物とみなす)を確認する問題が出題されており、共通テストだからといって細かい知識が問われないわけではありません。

― 知識も重要ということですね。知識についてはどのように指導すれば良いのでしょうか。

  • インタビュー風景ただ闇雲に知識を詰め込めば良いというものではありませんし、知識にも優先順位があります。一問一答のように用語を順番に覚えることにあまり意味はないでしょう。例えばDNAについて、「ワトソン・クリック」、「二重らせん」、「アデニン・チミン・グアニン・シトシン」、「水素結合」、「PCR」のようにばらばらに用語を覚えるのではなく、「DNAはリン酸と糖と塩基から構成され、塩基についてはアデニンとチミン、グアニンとシトシンがそれぞれ結合している。アデニンとチミンは2本の水素結合で結びついているのに対して、グアニンとシトシンは3本の結合で結びついているので結合の強度に差があり、PCRの温度を設定する際はこの点に注意する必要がある」のような形で、ある程度体系的に整理された知識として身につける必要があります。
    また、生徒には「全ての細胞が同じ遺伝子を持っているが、発現するタンパク質は細胞の役割に応じて異なる。そうした調整をセントラルドグマの各ポイントで行っている」といった生物学的常識としての考え方についても身につけてほしいです。

― 生物基礎についてはどうでしょうか。

  • 生物ほどではありませんが、生物基礎でも平均点の低下が見られました(平均点23.9、令和3年第1日程比-5.27)。従来のセンター試験であれば、知識問題が8割を占めていましたが、共通テストでは令和3年・4年ともに知識問題が占める割合は3割となり、その分考察要素のある問題が増えています。第1問〈生物と遺伝子〉のB問題で出題された核酸の抽出実験は教科書にも掲載されていますが、教科書の内容を理解することに加えて、それを土台に自分で考える必要のある問題でした。
    特に受験生にとって難しかったのは、第3問〈生物の多様性と生態系〉のA問題問2ではないかと思います。リード文の「陰葉から食べられる」というヒントから、「二酸化炭素吸収速度の小さい陰葉が食べられている間の速度変化は小さいが、陽葉が食べられると速度が大きく変化(=低下)する」と考えなくてはいけません。

― 令和3年の私立大学の個別入試では、PCR検査など時事的なトピックを反映した問題が出題されていましたが、共通テストでは時事的な問題は出題されたのでしょうか。

  • 生物ではそうした出題は見られませんでしたが、生物基礎では出題されました。大手予備校の出している問題分析などでも言及されていますが、生物基礎の第2問〈生物の体内環境の維持〉A問題の血中酸素飽和度計(パルスオキシメーター)は時事的な要素を踏まえた出題でした。生徒たちにとっては見慣れない設定の問題であり、図2のグラフについても吸光度合いと透過量の関係を理解した上で情報を読み取る必要があります。同じく第2問のB問題で免疫について問うなど、第2問は特に新型コロナウイルス感染拡大が背景にある設問でした。その他に第3問A問題で地球温暖化によるバイオームの変化を予測させる問題が出題されています。地球温暖化は現代の深刻な問題の一つであり、日本出身である真鍋淑郎博士が2021年のノーベル物理学賞を受賞したテーマですから、これも時事的な出題と解釈しても良いかもしれません。

― 学校現場では共通テストに向けてどのような対策が有効なのでしょうか。

  • 共通テストでは短時間で問題の示す複雑な内容を把握し、しっかりと選択肢の内容を吟味・考察する能力が求められます。こうした能力を育むためには、究極的にはある程度レベルの高い問題に繰り返し挑んでいく必要があります。やはり、センター試験や試行調査も含めて過去問をしっかり考えて解くことが重要だと思います。また、そうした思考力の土台となる知識や典型的な考え方についても早い時期に一度触れておいた方が良いでしょう。

― 共通テストやセンター試験の問題以外にはどのような教材が有効なのでしょうか。

  • 東京大学をはじめとした難関大学の個別入試問題も有効です。長いリード文や複雑な実験設定などが、共通テストと似通っています。2013年の東京大学の生物ではダックスフントの脚の長さを決める遺伝子に関する問題が出題されました。問題の中でその遺伝子が原因遺伝子であることを決定するために必要な実験と結果を考察するのですが、必要十分条件を考える点で令和4年の生物第3問問3に似ています。もともと各大学の入試では、その大学で行っている研究を入試レベルに落とし込んだ出題も多いので、少し古い問題でも手を加えれば十分に良い教材になります。生徒のレベルに対して問題が難しすぎる場合は、リード文を加工したり、論述問題を穴埋めに変えたりするなどの調整も有効です。

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※本稿は、令和4年1月16日に実施された共通テスト本試験における生物基礎及び生物に関して代ゼミ講師に行ったインタビューをもとに作成しております。

聞き手:福田