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令和6年度共通テストから考える今後の英語指導法 - 姜 昌和 講師(英語)

英語講師  姜 昌和

《お断り》以降の記事においては、令和〇年度を「R〇」、大学入学共通テストを「共テ」、英語リーディングを「英語R」、英語リスニングを「英語L」と表記します。

― R6共テの得点率を教科別に見ると、数学ⅠAと英語Rが相対的に「点数の取りづらい」試験であったことが分かります。英語Rについては、どういった点がこうした結果につながったのでしょうか。

  • R6の英語Rの平均得点率は、51.54です。共テでは平均得点率について5割程度を想定していますから、段階的に難化していくことは予想の範囲内です。ただ、総語数が150語ほど増えたことなども影響して、学力下位層や中位層の受験生にとっては厳しい試験だったのではないかと思います。
図表

― 各大問について詳しくお伺いできればと思います。受験生が対応しづらい問題はあったのでしょうか。

  • 一つは第4問です。R5の本試験まではダブルパッセージで構成されていたのですが、R6は、外見上はトリプルパッセージによる出題となっています。実は、R5追試験の第4問もトリプルパッセージで構成されていますので、その流れを踏まえた出題と考えてよいでしょう。ダブルパッセージによる出題を想定していた受験生は驚いてしまったと思います。
    2022年に公開されたR7共テ英語Rの試作問題は、配点18点の第A問と配点12点の第B問に分かれていました。この内の第A問では、100語程度の意見文5つに加えて、150語程度の英文が一つと短い説明文付きのグラフ一つが与えられています。また、終盤にはエッセイのアウトラインを完成させる問題も配置されたため、R7試験の本番では、外見上ではトリプルパッセージを超える数の文章が与えられる可能性もあります。

― 試験直後に特に注目を集めたのは、第5問の長文問題でした。こちらについては、いかがでしょうか。

  • インタビュー風景 第5問でまず注目すべきはその英文の長さです。一つの大問において1,000語もの長さの英文を題材にするケースは、センター試験・共テの時代を通して見られませんでした。この長さは受験生にとって負担になったと思います。
    また、問題の中身についても例年とは少し異なる雰囲気の出題でした。従来は、ストーリー全体の流れとしては概ね時系列に沿い、一部に回想などが挟まれるという構成でした。R6英語Rの第5問では、時系列や場面の転換が繰り返されています。その場面転換についても、文章を記号(◆◆◆◆◆)で区切るという過去にはあまり見られない方法で行われており、戸惑った受験生もいたのではないでしょうか。

― 問題形式の面で他に注目すべき変化はあったのでしょうか。

  • “not”や“error”や“remove”が設問文中に含まれる問、つまり、間違っている選択肢を吟味させる問が多く出題されたことも試験の難しさに影響したと思います。R5本試験では第6問B問題で1問だけ出題されたのですが、R6本試験では、同じ趣旨の出題が5問に増えています。誤りを含む選択肢を確定させるためには、他の全ての選択肢が正しいことを検証する必要がありますから、こうした問は正しい選択肢を見つける問題と比べると解くためにより多くの時間が必要になります。

― 平均得点率が低めに出た要因としては、他に何が挙げられるのでしょうか。

  • 試験全体として純粋な英語力に関する要求水準が高くなったのではなく、情報処理力や想定を超えた出題形式への対応力などのハードルが高くなった印象です。選択肢の吟味や検証に時間を割くことを考えると英文を読むこと自体は短時間で済ませなくてはならないでしょう。
    また、例年以上に文章全体の様々な部分から情報を探して考えさせる傾向が見られたため、情報処理能力も要求されます。
    従来のセンター試験や共テであれば、「少し分からない部分もあるが、正答はできる」問題もあったのですが、R6英語Rについては「英文全体を不足なく理解できていなければ正解を決められない」傾向が強く、普段から綱渡りのように英文を読んでいる生徒は、点数を取りこぼしてしまうことが多かったのではないでしょうか。

― 必要な情報が見つけづらい問題の例を挙げていただけますか。

  • 第3問B問題は、「スクリーン上に海中や星空等を始めとした島の景観が再現されている」という場面設定の問題でした。「スクリーン上で様々な体験をする」という条件は文章の第1段落に示されています。その条件に目を通さず、各小問と関連のありそうな場所だけ読むといった取り組み方では、正解を出すことができません。スピーディーに全体を読んで選択肢を吟味するという王道の解き方以外では太刀打ちできないように作問されているのです。

― なぜ、大学入試センターは分量増加や情報の分散等の要素による難易度の調整を図ったのでしょうか。

  • 共テの出題範囲には、主として高校3年生で履修するコミュニケーション英語Ⅲや英語表現Ⅱが含まれていません。そのため、語彙や文法、文構造などのレベルには上限があり、それらの要素を調整して高難度の試験を実施することは難しいのです。
    しかし、共テは旧帝大を始めとした、高学力層の受験生が集中する大学の一次選抜でも利用されており、それに相応しい難易度が要求される面もあります。語彙や文法構造によらず試験の難度を高めるためには、分量を増やす、もしくは情報を散りばめたり、時系列を入れ替えたりするなどの方法で問題を複雑にするといったアプローチが考えられます。
    従来の共テ英語Rでは、どちらかと言うと分量による調整が重視され、問題の複雑性については安定していたのですが、R6英語Rでは、分量増加と問題の複雑化の両方が難易度上昇につながっています。

    R6英語Rは、コミュニケーション英語Ⅰ・Ⅱ、英語表現Ⅰが出題範囲でした。R7以降の英語Rは、英語コミュニケーションⅠ・Ⅱ、論理・表現Ⅰから出題されます。

― 文構造のレベルには、上限があるとのことですが、R6英語Rには生徒達が読みづらいと感じるような文章は出題されていたのでしょうか。

  • 純粋な構文による複雑さというわけではありませんが、試験問題終盤に配置されている第5問や第6問ともなるとある程度、読みづらい文章も出題されています。たとえば第6問A問題の3段落目では、4行目のIn several studies以降に、修飾表現が続き、be動詞が省略され、分詞や比較表現も混じるなど、複雑さを増した英文が登場します。
    共テ英語では、文法の知識を直接的に尋ねる問題はほとんど出題されませんが、こういった複雑な文章を読み進めるためには、文法に関する知識も前提として必要です。情報の流れが平易な短い文章であれば処理できるものの、2行~3行程度の入り組んだ英文を読むことには難儀するレベルの受験生は、読み進める際にかなり苦労したことでしょう。ただ、こうした文章も難関大学の入試で扱われる英文と比較すれば読みやすいレベルです。今後の共テ英語Rで高得点を目指すのであれば、第5問や第6問で課される水準の英文をすらすら読み進められる読解力を身につける必要があるでしょう。

― 第6問全体について、より詳細にお伺いできますか。

  • インタビュー風景 第6問A問題の問3・問4は、本文の内容に対して適切な具体例を考えさせる問題でした。この形式の問はセンター試験では出題されていましたが、共テでは、R6本試験が初出です。本文中には「ある概念」と「それに対応する少し抽象的な具体例」が記述されており、それらを元に更に掘り下げた適切な具体例を考える必要があります。受験生に対して共テにおいて重視されている「具体と抽象を行き来する思考」を、英語で行うことを要求する問題です。R7共テ以降も、「読んだ内容に基づいて考え推測して答を出させる試験」を目指す意図が込められた変化だと思います。
    R4とR5の英語Rでは、第6問B問題が試験の山場の一つになっていました。R4はプラスチックのリサイクルに関する問題、R5はクマムシに関する問題が出題されており、どちらもやや科学的で専門的な内容に寄った、解くために時間を要する問題でした。受験生達も「第6問B問題に時間をかけて取り組む」算段でいたと思いますが、第4問と第5問で想定以上に時間を消費してしまい、第6問には腰を据えて取り組むことができなかったのではないでしょうか。ただ、R6の第6問はA・Bどちらの問題もR5と比べて設問が易しめでしたので、ある程度の時間をかけて取り組むことさえできれば、一転して高得点が見えてきます。生徒達から聞いた話や代ゼミ生の集計結果を踏まえると、R6英語Rでは、「点数がとれた生徒」と「点数がとれない生徒」の2極化が生じていると思います。

― R6英語Rの結果を踏まえると、R7英語Rに向けてどういった調整が行われると予想されますか。

  • 前提として、R6英語Rの英文自体のレベルに大きな問題はなかったと思います。ただし、分量や形式、情報の散乱といった諸要素を加味した上での問題としての妥当性については、改善の余地があります。分量を抑えてしっかり英文に向き合えるようにし、英文を読めば素直に解き進められるようにする等の形でもう少し易しめに調整してもよかったのではないでしょうか。
    2022年に公開された試作問題の第B問では、自分が書いた原稿に対する教師のコメントを踏まえて推敲するという場面設定が採用されています。これは、英語4技能の内の「書く」についても英語R試験の中で評価したいという意図が反映されたものと考えられます。こうした設定の問題や同じく試作問題の第A問に見られたテキスト数を大きく増やした問題が出題される場合、試験の外見上にある程度の変化が生じる可能性があり、動揺して力を発揮できない受験生もいるかもしれません。

― 共テ全体の傾向として問題設定の複雑化やそれに伴う問題分量増加が見られます。先生の分析をお伺いすると英語でも英語力に加えて情報処理力を受験生に求める性質が表面化しています。これは、英語力を評価する統一試験として適切なのでしょうか。

  • 現状の共テ英語Rを純粋な英語力を測る試験として妥当であると評価することは難しいです。ただ、その点については、恐らく大学入試センターも理解しています。「純粋な英語の力」を見ること以上に「英語を道具として使い目的を達成する能力や技量」を評価したいのでしょう。サッカーを例にお話をすると、ドリブルやパスが出来ることは前提となっていて、「あなたはこの場面でどうやってドリブルをしてパスを出しますか」という観点が注目されているのです。

― 英語における情報処理力とは、端的にまとめれば英文を速く読んで理解することだと考えられます。こうした力を生徒達に身につけさせたいのであれば、どういった指導を心掛けるべきでしょうか。

  • 始めから速く読ませることを目標としても効果は見込めません。まずは、時間をかけても正しく読ませることを重視してください。生徒達の中で「正確な読み」が習慣化した次の段階にスピードの上昇があります。
    ピアノ練習をイメージしてみてください。速い曲を弾くことが最終目標だとしても、まずはゆっくりと指遣いをなぞるものだと思います。運指が手に馴染んでしまえば自然と速く弾くことができます。
    急がば回れになりますが、始めは一文一文について文法や単語の分からない所を洗い出させ、辞書や文法書で調べさせて疑問点を解消するよう指導してください。生徒が各文章の意味を把握出来たら、文章全体を通して読ませて、論理の展開や文脈が把握できているか確認するように指示をします。

― R7試験に向けて先生の指導方針について調整を図られるご予定はありますか。

  • インタビュー風景2024年6月に公開されるであろう「実施要項」を待たなければ、R7試験の詳細が確定しないため、悩んでいる部分もあります。試行調査などの問題を分析すれば、読んだ英語をもとに内容をまとめたり資料を作成したりする等の場面設定が多く見られます。受け取った情報を応用するという従来の読解からワンステップ上の考え方が重視されているのだと分かりますから、そうした思考の練習を生徒達にさせていきたいと考えています。
    その素材としては共テの過去問を使う予定です。過去問をベースとしながらも僕オリジナルの発問も追加していきます。「この部分について、この問題が追加されたらどう考えればよい?」、「この箇所について、こう問われたら答えはどうなる?」、「この段落について要約するとどういった内容が書かれていた?」といったように生徒達に問いかけて考える練習をさせていきます。こうした取り組みは以前から行っていましたが、R7試験の対策として更に重点を置くつもりです。

― 高校の授業では教科書が中心になると思います。どうすれば、生徒自身が考えることに重きを置いた授業を実現できるのでしょうか?

  • まずは、教科書に採用されている英文をしっかり通読させることが前提になると思います。その上で、要旨をまとめさせる、プレゼンテーションを行うことを想定した資料を作成させる、内容説明のためのメモを作成させる等の取り組みを行うのはいかがでしょうか。教科書の英文を単に和訳して終えるのではなく、それを土台に生徒自身がアウトプットしたり自分なりに内容を整理したりする取り組みを導入することが共テ英語の対策としては効果的です。

― それは、非常に効果的だと思います。ただ、高校現場で実施する場合には授業時間の圧迫がネックになってしまうのではないでしょうか。

  • 僕自身、代ゼミの高校支援コンテンツの一環で学校に訪問させていただく機会もあるため、こうした取り組みを目指す際に、時間的な制限が先生方を悩ませているということは重々承知しています。考えられる対策の一つは授業外の時間を活用することです。初めは手間がかかってしまうかもしれませんが、プリントやハンドアウトを作成して、その中に「この文章は全訳する」、「ここは空欄を埋める」、「この文章を要約する」等の指示を盛り込むことで、予習に生徒のアクティビティとしての機能を持たせることが考えられます。
    新指導要領に準拠した教科書には、学習後の発展的な取り組みも例示されているのですが、その多くが方向性を示すだけに留まっており、先生方がそのまま使える状態ではありません。具体的なワークシートもあわせて掲載する等の工夫が施されていれば、先生方の負担を抑えて、教科書の英文を通じた様々な思考の体験を生徒達に与えることが可能になると思います。

― 今後の共テ英語Rに向けた指導をされる先生方へのアドバイスをお願いいたします。

  • インタビュー風景まずは、生徒達に目標得点を定めさせてください。その上で、時間無制限であれば、「目標点に10%程度上乗せした点数」を確保できる英語力を身につけさせることが最初のステップです。特に英語力が不足している場合には、辞書などもためらわず引くように指示をしてください。
    僕の所に相談に来る生徒の一部は、早い時期から「速読」や「戦略」という言葉を口にしています。しかし、そうした生徒達に時間無制限で共テの過去問を解いてみるように指示をすると、時間を十分に使っても目標点を下回る結果になってしまいます。これは、実力・英語力が不足している証拠ですからこうした段階で、「速読」や「戦略」を考慮して勉強をさせる意義は小さいでしょう。それらを重視するのは、土台となる学力を固めた後です。
    共テ英語Rは、多くの受験生にとって時間的に厳しい試験だと思います。だからこそ、生徒達は、時には先生方でさえも、点数が芳しくない原因を時間の不足に求めてしまうことがあります。ですが、時間の不足と英語力・実力の不足は分けて考えなくてはなりません。英語力の不足を自覚させない限り、生徒達はいつまでたっても英語力向上の必要性を理解できないでしょう。
    共テで高得点を取るためには腰を据えた学習が必要であり、数か月単位で成果を出すことは困難です。今後は高校1年生・2年生の段階から対策を始めさせることが求められます。英文を正確に読むための習慣づけを早い段階から身につけさせることが、共テ英語Rの指導においては重要だと思っています。

― 共テ英語Rにおける「戦略」とはどういったものでしょうか。

  • 共テ英語Rにおいて100点満点を目指さないのであれば、全ての問題に取り組む必要はありません。R6の試験では、多くの生徒が苦戦しがちな第5問と第6問を除いた部分に61点分の配点が与えられています。
    目標点の60点を第4問までの完答により目指すのであれば、読まなくてはならない文章の量を、本来の試験全体の50%~65%程度にまで減らすことができます。2018年に実施された第2回目の共テ試行調査について大学入試センターが公開した「問題のねらい」を参照すると、CEFRレベルA1~A2相当の問題は第1問から第3問までに配置されており、第4問以降は主としてCEFRレベルB1相当の問題で構成されていました。この試験作成方針が現在も維持されているのであれば、大学入試センターとしては「50点~60点が目標であれば、試験の前半をしっかりと正解できるようになってほしい。高得点を目指すのであれば、負担は大きくなるけれど第4問以降の難問にも果敢に挑んでほしい」と考えている可能性もあります。
    また、「出来事を時系列順に並べる問題」についても、場合によっては対策の優先順位を下げるべきです。この形式の問題は本文全体を正しく読み切らなくては正解を選べません。解き切るために他の小問の2~3倍程度の時間を使わなくてはならないにも関わらず、特別に高い配点が与えられているわけでもありません。得意な受験生以外は、他の問題の対策と解答を優先した方が高得点につながる可能性が高くなります。

― 第6問B問題では、理系要素の強い出題が続く傾向があります。理系の生徒に第6問B問題の解答を優先させる「戦略」も考えられるのでしょうか。

  • 確かに直近数回の第6問B問題ではやや理系寄りの出題が見られますが、R7以降も同じ傾向が続くとは限りません。よって、第6問B問題は理系寄りの出題になると決めつけて「戦略」を定めさせることは危険です。また、理系と一口に言っても数学・物理・化学・生物・地学と複数の分野に分けることができます。R5第6問B問題はクマムシに関する出題でしたが、生物に力を入れている生徒が僅かに取り組みやすい位で、それほど文系と理系で得点率に差がつく内容ではなかったと思います。
    問題全体を眺めてみて、理系寄りの文章が見つかったら、得意そうなテーマの場合は優先して手を付ける、馴染みのない分野であれば後回しにする、そうした大まかな解答方針を一応決めさせておく程度で良いのではないでしょうか。第4問、第5問、第6問のいずれを優先して解答することにもメリットとデメリットがあります。ですので、僕が受け持つ生徒達には自分に最も合う解答パターンを考えて決めるように指示をしています。

    英語リーディングについて、詳細に解説していただきありがとうございました。続けて英語リスニングについてもお伺いできればと思います。

― R6の共テ英語Lの平均点は、67.24点と易しめの試験になりました。英語Lについては、平均点が段階的に上昇しています。この変化については、どういった要因が考えられるのでしょうか。

  • 受験生の変化と英語L試験の特性が影響していると思います。僕が予備校講師を始めたのは、センター試験で英語Lが課されるようになった後でした。当時は英語Lを意識する受験生が多かった印象ですが、最近の受験生はむしろ英語Rを重視することが多いと感じます。幼少期から英語教育を受ける機会が充実していることや、動画配信サービスなどを通じて英語音声に容易にアクセス出来る影響で、生徒達は英語を聴き取ることに対して心理的な壁を作らなくなったということではないでしょうか。
    共テ英語Lは前半に易しめの問題が配置されており、R6試験では第1問から第3問までを正答すれば59点を得ることができます。また、聴き取り試験の性質上英語Rと異なり時間配分を意識する必要がありません。問題文を読む時間や解答を考える時間、準備のための時間まで確保されていますから、英語Rと比較すれば高得点を達成しやすい条件は整っていると思います。

― イギリス英語の話者や英語を母語としない話者による音声も出題されています。そうした音声の違いが聴き取りの精度に影響を与える可能性はあるのでしょうか。

  • ほとんどの受験生はアメリカ英語とイギリス英語を厳密に聴き分けることができないと思います。イギリスには元サッカー選手のデビット・ベッカム氏のように独特な発音をされる方もいますが、共テでは、標準的な発音に近い話者の音声が題材にされています。英語を母語としない話者による音声については、日本人が読む英語の発音に近いため多くの受験生にとっては非常に聴き取りやすかったでしょう。

― 共テ英語Lの今後の難易度については、どのようにお考えですか。

  • インタビュー風景英語Lの平均得点率は、R4本試験の時点で61.8でした。そこから難しくする方向へ調整が入ると思ったのですが、予想とは裏腹に平均得点率は上昇を続けています。R7共テは、新指導要領で学習した受験生を対象とした初めての試験です。情報Ⅰの(事実上の)必須化、国語の大問追加や数学ⅡBの時間延長など、受験生の負担につながる要素も多いことを考えると、英語L試験については、R6本試験の難易度が維持される可能性があります。
    ただし、試行調査の英語Lでは、形式面も含めて非常に難しい問題が出題されたこともあります。設問形式が大規模に変更される、英語L試験全体で難化方向への調整が図られるといったケースも考えられますので、英語L対策を軽視することは危険です。生徒達には、得点率の低かったR3英語L程度の難易度を想定して対策を積むように指導していただければと思います。

    共通テストについて詳細に分析していただき、ありがとうございました。残りのお時間で、全国の先生方の助けになりそうな、指導の中での手法やノウハウについてお伺いできればと思います。

― 先生は授業の中でICTを使用されていると伺いました。どのように使用されているのでしょうか。

  • 主に板書する時間を節約する目的でICTを使用します。生徒の目の前で投影したスライドに書き込んでいく、まとめを事前にスライドとして準備しておく等の形で活用しています。黒板に板書するかスライドに板書するかの違いだけですので、ICTで何か特別なことをしているという考えはありません。
    スライドの内容をプリントして生徒に渡すこともありますが、僕が授業中に追加で書き込んだ解説は、生徒達にも自分でメモをとらせます。先生が話し続けて生徒はスライドばかり見ているプレゼンテーションのような授業スタイルでは、内容が生徒の頭に残らず学習効果はあまり高まらないと思います。授業の中に生徒自身のアクティビティのための時間を設けることが大切です。

― 授業中に音読の時間を設定されている先生もおられます。先生は授業中に生徒に声を出して英文を読ませることはありますか。

  • 授業の中で音読をすることはありませんが、個別に相談された場合は、オーバーラッピングという方法を推奨しています。これは、僕が留学していた時に身につけた学習法です。
    まず、文章の構造や語彙に関する疑問点を解決して文章の意味を完全に理解できるように指示します。その上で音声を何度も繰り返し聴かせて、話者のイントネーションやブレスの特徴を英文に書き込ませます。その上で、話者のイントネーションやリズムを模倣して英文を読むように指導してください。最終的な目標は生徒が題材の音声にオーバーラップするように英文を読めるようになることです。
    ただ、英文を読むだけの音読では、学習としての効果はあまり期待できません。音読する英文の意味を理解することは前提として必要です。また、イントネーションやブレス、リズムに関する分析を通じて、意味の体系や強調すべきポイントなどを理解し、それを生徒自身が再現できるようになることで、音読の学習効果は大きく上昇するでしょう。

― 音読用の教材としておすすめの題材はありますか。

  • 題材としては演説などがよいと思います。生徒達が音源にアクセスしやすいのであれば、教科書の英文でも問題はありません。
    音源を先生が自作されるという方法もあります。「音読さん」というWEBサイトでは、入力した英文をAIが読み上げてくれます。2024年3月時点では基本無料で利用することができ、AIによる読み上げ音声ではありますが、イントネーションなども含めて人間の発音に非常に近い音声データを得ることができます。男性・女性はもちろん、アメリカ英語・イギリス英語、南部・西部、声の高・低など様々な条件の音声を指定することが可能です。このサイトを利用して、先生方が教材にしたい英文を音声データ化してしまうという方法が考えられます。
    こういったサービスを学習意欲の高い生徒に伝えることで、生徒達の学びを手助けすることができます。そのためには、僕たち指導者も日々、教育に活用できる新しい道具に対してアンテナを張り、実際に使ってみることが必要です。僕たちが実際に使ってみせることで生徒に対する指導にも説得力が生まれます。

    登録なしで1,000文字/月、無料登録後は、5,000文字/月まで利用可能(2024年3月時点の情報になります)。

― 英語科では、複数の先生が同時期に一つのクラスを指導するケースもあります。板書や説明方法について先生間である程度方針を統一した方が良いのでしょうか。

  • 特に学校現場では、ある程度指導方法を統一された方がよいと思います。ただ、僕たち予備校講師は講師独自のキャラクターやオリジナリティを売りにしている面もあります。強く制限されてしまうと指導をしづらくなってしまうことが懸念されますので、細部までルールを詰める必要は感じていません。
    生徒達には、「説明の表現や記号の使い方などの表面的な部分については、講師ごとに違いがあるけど、本質的な部分は同じだから色々な講師達から情報を引き出して、受け取った情報を自分の中で整理してまとめなさい」と伝えています。生徒達には、そのように多様な情報を収集し統合して処理できる能力を身につけてほしいと考えています。
    他の先生に自分の指導法に合わせていただくという考えは現実的ではありませんし、講師同士で指導法を否定し合っていては生徒が混乱してしまいます。僕の指導した生徒が、他の先生の授業を受講した際に、そうしたギャップをなるべく感じないように生徒の目線で互換性のある指導を行うように意識しています。たとえば、文法指導の際、講師や書籍によって表現が分かれそうな場合には可能な範囲で複数の表現について紹介し、読解や英作文における登場例も挙げています。

― 新しい指導要領では、各生徒の学習を最適化することに加えて、先生-生徒間や生徒同士の知的な交流、協働的な学びも重視されています。そうした取り組みを志す場合、クラス内の英語力・学力の差が課題となるケースも考えられますが、何か効果的な対策はないでしょうか。

  • 確かに生徒間で英語力には差が生じると思います。ただ、一度英文を読んだ後に様々なことを考えさせるのであれば、そこで重要になってくるのは、日本語で考える力も含めた総合的な言語能力です。言語能力については、適切なトレーニングを行うことで、全ての生徒に対してある程度までの成長が見込めます。
    大切なのは、各授業の役割をしっかりと区別することです。まずは、文法や読解に関する講義をしっかりと終えて、生徒達に文章の内容を十分に理解させてください。その上で別の授業日に、文章の内容を元にしたより知的に高度な取り組みを行わせればよいのです。講義と応用的な活動の同時進行では、英語力に劣る生徒が脱落してしまうリスクが高くなりますが、授業ごとの目的を分けて進行していけば、全ての生徒がある程度の成果を得られるのではないかと思います。

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※本稿は、令和6年1月13日に実施された共通テスト本試験における英語リーディング及び英語リスニングに関して代ゼミ講師に行ったインタビューをもとに作成しております。

聞き手:福田

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