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共通テスト歴史総合/日本史探究に向けた指導を考える - 佐京 由悠 講師(日本史)

日本史講師  佐京 由悠

※以降、令和〇年度を「R〇」、大学入学共通テストを「共テ」、センター試験を「センター」のように簡略化して表記いたします。

― R6共テ本試の結果を見ると、日本史Bの平均得点率はR5共テから低下していることが分かります。世界史Bや地理Bと比較しても、日本史Bの平均得点率は少し低めに出ています。得点率低下につながるような出題はあったのでしょうか。

  • R5試験とR6試験の正答率を比較すると、やはりR6の方が全体的に低めに出ています。特に文字史料、いわゆる文献史料から情報を読み取る必要がある問題で正答率が低くなっていました。例えばR6試験では、解答番号3や解答番号13などで、史料の読み取りが課されています。
図表

― 解答番号3について解説していただけますか。

  • 後で取りあげる解答番号13とも共通する特徴なのですが、本問では当たり前の歴史的事実は問われていません。本問のテーマである楽市令自体は基本的な知識ですが、問い方を工夫することで受験生の意表を突くことを意図した問題であるという印象を受けました。楽市楽座については、「座の特権を廃止して自由な経済活動を活発化させる政策」として教科書やテキストに掲載されています。史料の前段には、そうした教科書的な知識と矛盾しない内容が書かれているのですが、後段では一転して、「楽市以外の場所では逆に座の特権を認める」主旨の内容が書かれており、意外に感じた受験生もいたと思います。「楽市令が出されたところでは座の特権は一切認められない」という単純化した先入観に従って史料を読んでしまった受験生は、後段の内容を正しく解釈できなかったのではないでしょうか。

― 解答番号13についてはいかがですか。

  • インタビュー風景 こちらは永仁の徳政令に関する二つの史料を読み解く問題です。本問の正答率は28%であり、解答番号3よりも更に低めに出ています。示された二つの史料の内、一つ目は基本的な史料でしたが、二つ目は多くの受験生にとっては未見の史料です。本問では、与えられた二つの史料に関する四つの文の中から、正しいものの組合せを考える必要がありましたが、二つ目の未見史料に関する正答については、史料だけを見ていては判断しにくいでしょう。手掛かりとなるのは、大問の冒頭に示された高校生同士の会話文です。文中で「永仁の徳政令については、御家人以外の人たちも適用を求めたことがあった」と示されていますから、「名主・百姓は規定を読み換えようとしたのだ」と考えることができます。センター試験の日本史では、会話文を読む必要は、ほとんどありませんでした。共テ日本史においても、読まずとも正答を出すことは出来ることはあります。ただし、会話文を読んだ受験生の正答率が、しっかりと高まることを目指した問題作りの意図は感じられるようになりました。

― 複数の史料から、いわゆる受験知識から外れた内容を読み取らせる問題に苦戦してしまった受験生が多かったのですね。過去の試験ではそうした出題は見られなかったのでしょうか。

  • こうした問題はR6試験が初出というわけではありません。R5試験の解答番号14も意図が近いと思われる問題でした。この問題では撰銭令に関する二つの史料から情報を読み取る必要があったのですが、正答率は9.12%と非常に低くなっています。
    ただし、R5試験については、史料読み取りの面で受験生が苦戦するであろう問題は、本問だけでした。R6試験では、史料の読み取りがネックになりそうな問題が複数出題されたことが、平均得点率低下の一因ではないかと思います。

― R7共テより、日本史Bに替えて、歴史総合/日本史探究が出題範囲となります。2022年11月にR7共テの試作問題も公開されていますが、試作問題について先生のご感想をお伺いできますか。

  • インタビュー風景 歴史総合の範囲では、純粋な年代整序の問題が出題されませんでした。代わりに解答番号2で年代整序の要素を取り入れた問題が出題されています。本問では、ロシアの沿海州獲得の時期と二つの資料にそれぞれ書かれている内容の三つを年代順に整理する必要があります。資料から年代を把握する一手間が要求されるため、通常の年代整序よりもハードルが高くなっています。直近数年間の共テの年代整序問題では、焦点となる人物や出来事を明示せず、周辺情報から受験生自身に想起させる形の出題が増えました。これは、探究学習や共通テストの主旨に合致した変化ですから、今後も続く傾向でしょう。昨今はこうした新傾向の年代整序を苦手とする受験生も多いので、この点については指導時に力を入れようと思います。
    一般的に、対象となる時代範囲を細かく区切り同じ時代の中で整序をさせた方が、より詳細な知識のレベルを評価できるため、難易度が高くなる傾向があります。ただ、時代を跨いで百年単位の幅で作問を行う場合でも、表現を工夫することで高難度の良問を作ることは可能ですから、生徒達には問題の表面だけを見て即断しないようにと、伝えています。例えば、「アイヌ民族の首長が蜂起した」という文が与えられた場合、1457年のコシャマインの蜂起、1669年のシャクシャインの戦いの二つを候補として考えさせることができます。ある関東の私立大学では、「江戸城ができたころにアイヌの首長が蜂起した」という表現で、実際に出題されたことがあります。江戸城は室町時代に造られて、後に徳川氏により改築されましたから、コシャマインの蜂起を示しているというのが正しい解釈ですが、「江戸城→江戸時代→シャクシャイン」と安直に連想した受験生は、誤答をしてしまったことでしょう。

― R6試験の結果や試作問題の分析を踏まえると、R7共テ日本史はどういった試験になると予想されますか。

  • 日本史の出題方針は、センターから共テへと既に一度変化しています。R7試験における共テ日本史Bから歴史総合/日本史探究への変化は、一度目の変化の延長線上にあると見てよいでしょう。史資料を豊富に与えて問う方針は続くと思われます。特に試作問題では、文献史料だけでなく、生徒が学習内容や調査内容をまとめた「パネル」が資料として与えられるケースが多く見られました。必然的に一定量のテキストやデータを処理しなくてはならないでしょう。基礎的な知識をもとにしながらも先入観にとらわれることなく、より正確に速く情報を処理する能力が受験生達には求められます。

― ここからは、具体的な指導方法についてもお伺いします。先生の授業スタイルを教えてください。

  • インタビュー風景 私の講義はトーク中心です。私がひたすらに喋って生徒達はそれを聞きながらテキストにメモをとっていきます。例えば律令制を扱う時には、「この規定の趣旨は何か、立法目的は何か、原則に対してどういった例外があるか、なぜそうした例外が設定されているか」、といったように「趣旨、目的、原則、例外」に触れながら代ゼミのテキストの行間を埋めるように説明することを心掛けています。
    板書については、複雑な内容を分かりやすく図示したり、漢字の意味などを解説したりする際にピンポイントで行います。テキストに書かれていることは、わざわざ板書しなくても良いというのが私の考えです。

― どういった場面で図解による解説を行うのでしょうか。

  • インタビュー風景 例としては、家系図や政治的な相互関係の解説が挙げられます。また、荘園や知行国など土地制度の説明の際に図解を用いることも効果的だと思います。たとえば、壬申の乱については、このように家系図を書いて説明します。一般的な家系図は親子関係を縦に兄弟姉妹の関係を横に示しますので、天皇の位が家系図の横方向に動くということは、天皇の血統が変わることを意味します。そして、天皇の血統が変わると遷都や血縁内での対立などが生じることもあります。天智天皇の後継を巡り、弟の大海人皇子と息子の大友皇子が対立した際に、天智天皇の政策に満足していた名門豪族は大友皇子に味方し、不満を抱く地方豪族は大海人皇子を支持しました。この敵対関係が壬申の乱につながります。
    更に、この家系図の人物名を足利義政と弟の義視、義政の子である義尚に置き換えれば、同じ形で応仁の乱に関する家系図を書くことができます。保元の乱において、鳥羽法皇の後継である後白河天皇と鳥羽法皇と対立していた崇徳上皇の間に敵対関係が生じたことも似た形の図で説明することができるでしょう。勿論、北条泰時と時房のように叔父―甥の関係が比較的良好と思われるケースもありますが、歴史上の家系図において、横や斜めの間柄では、しばしば対立が生じるというのは、例外的な内容にも留意してパッケージ化した上で生徒達に伝えるようにしています。

― R7試験に向けて特に指導方針を調整される部分がありましたら教えてください。

  • R7共テは従来の共テの延長線上にある試験ですから、指導法を大きく変えようとは考えていません。今後の共テ日本史では、盤石な基礎知識に加えて情報処理能力も大切になります。勿論、具体的な知識を授業で示していきますが、それに加えて生徒が自分の頭を使うための演習も質量ともに充実させていく必要があると感じています。いくら良い授業を受けても、生徒自身が文章を読み解き考えた経験がないことには、共テ日本史の問題には対応できません。出題範囲が歴史総合/日本史探究に変更されることで、その傾向はより強まるでしょう。本日、冒頭で触れた史料の読み取りに関しても、その形式のみに特化した対策を増やすのではなく、従来通りに、情報処理の土台となる知識やリテラシーを生徒達に身につけさせることを重視して指導に臨むつもりです。

― 日本史学習におけるリテラシーとはどういった能力になるのでしょうか。

  • インタビュー風景 端的に言えば、異なる時代を行き来する力です。各時代の特徴を広く掴む時代観をもち、その上で時代を跨いで思考する力が、日本史学習において重視すべき能力です。例えば、商業を軸に据えるのであれば、中世には座があり、近世には株仲間、近代であればカルテルがあります。これらは皆、経済活動や商取引に携わる集団・組織を表す名称ですが、異なる時代に活動していたため、別々の歴史用語として学習します。異なる時代同士における共通点や相違点を見出し、更に具体化や抽象化などを通じて思考を深めるような、謂わば、鳥の目と虫の目を併せ持って歴史に対するレンズのズームを自在に調整できる能力こそが、歴史学習におけるリテラシーなのではないでしょうか。

    「十五世紀前半はこういった時代である」といったように各時代を大きく構造的にとらえる見方。

― R7共テに向けて、何かおすすめの教材などはないでしょうか。

  • 難関大学の入試問題を材料にすることも効果的だと思います。特に共テ日本史と東大日本史の問題は雰囲気が近く、問題中で採用される史料に関しても共通点が見られます。そういった意味では、難関大学の日本史問題をより噛み砕いたものが共テ日本史であると見ることもできます。難関大学の問題は勿論ハイレベルなのですが、論述問題を空所補充形式に改題したり、補足の説明を増やしたりするなどのアレンジを施せば、共テ日本史の対策教材として十分に機能します。例えば東京大学については、前近代、古代から近世の分野に関する具体的な史料や事例を盛り込んだ過去問が豊富にストックされていますから、よろしければ教材探しの参考にしてみてください。

― 探究学習や共テ対策としては、教科書以外の書籍などを切り口に指導することも効果的かと思います。先生のお薦めの書籍を紹介していただけますか。

  • インタビュー風景 與那覇潤先生の『日本人はなぜ存在するか』(集英社、2013)をおすすめします。本書は「日本史」というよりは、それに限らず人文科学のさまざまな学問領域の入り口を示したような本です。そもそも実際の大学での教養科目の講義を書籍化したものでして、「日本文化をローコンテクスト化する」というテーマでさまざまな知見を紹介しています。巷で言われている「日本人ならこうするよね」というような自明視された“常識”を、豊富な資料を用いて相対化していく―本書は共通テストや日本史に限らず、「社会科」の授業全般のヒントになろうかと思います。

― 本日はありがとうございました。最後に夏期教員研修に向けた意気込みをお聞かせください。

  • 部活の指導から校務分掌まで、先生方は普段から非常にお忙しいかと思います。24年度の代ゼミの夏期研修では、そういった先生方の負担を少しでも軽減するための有益なコンテンツ・材料を提供できるように全身全霊で準備をして講義に臨ませていただきます。

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※本稿は、令和6年1月13日に実施された共通テスト本試験における日本史Bに関して代ゼミ講師に行ったインタビューをもとに作成しております。

聞き手:福田

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